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第19話何よりも怖いのは……?



 ルルナは公爵の部屋を立ち去った後、真っ直ぐその足で二つ目の目的を果たす為の部屋へと訪れた。


 ノックをして入った先に目的の人物を見つけ、お互いの思惑が上手く行ったことを確認し合う。


「こんばんわエミー。お待たせしました」


「ルルナ姫殿下、お待ちしておりましたわ」


「もうっ。ここでは二人きりよ。いつものように呼んでくださいな」


「ふふ、そうだね♪ ねえねえルルナちゃん。昨日のシビルちゃん、どうだった?」


「もう最高だったぁ♪ シビル君があんなに格好よくなるなんて予想以上だよっ♡ 今すぐ結婚したいっ」


「えへへ~。実はね、シビルちゃんにプロポーズしてもらっちゃった☆」


「いいなぁ。やっぱりシビル君はエミー一択だったかぁ。側室でいいからもらってくれないかなぁ」


「ふふ、それに関しては朗報です。なんとシビルちゃん、ルルナちゃんのことも大好きだったみたい」


「ほ、本当にっ! やったーーーっ♪ あーーーっ、でも、それはシビル君の口から聞きたかったよぉ。記憶消したいっ」


「でも予想はしてたんでしょ?」


「してたけどっ! うう~~っ、小さい頃の計画じゃ私が正室だったのにぃ!」


「それはルルナちゃんがお姫様だから、そっちの方が都合が良いって話だったじゃない。国王って面倒くさいし、政務や跡継ぎは王子様達に任せて、私達はお屋敷でも作ってのんびり暮らしましょうよ」


 一体何の話をしているのかと、外から見た人間がいたら思う事だろう。


 幼い頃から人より頭の良すぎた2人。


 それ故に周りの汚い大人達の思惑が透けて見えてしまい、爪を隠して少し賢くて取っ付き難い子女を演じるしかなかった。


 片方が聡明な姫君として、片方は誰にも慈悲を与える聖母のような貴族令嬢へと成長し、大人も一目置く存在へと成長していく。


 だが、そんな2人にも幼い頃から自らの素顔を隠さない男の子が一人だけいた。


 それがシビルである。


 彼女達はシビルが人とは違う何かを持っていることに何となく気が付き、常に側を離れず、気が付けば彼の人を差別しない純粋な人柄に惚れ込んでいた。


 そして人から誤解されやすい容姿であるが故に、辛酸をなめてきた彼に幸福いっぱいの人生を歩んでもらうための計画を二人で立ててきたのである。


「そっか。シビル君が魔王を倒して英雄になれば、ハーレム作るのに誰も文句言わないもんね」


「そうそう。それでルインハルドのおじ様に領地の一部譲渡してもらって、産業は――――――――――」


 そう、それがシビルを中心としたハーレムを形成すること。


 そのために様々な計画を練ってきたのだが、シビルの覚醒によって計画は数年前倒しになった。


「あ、でも勇者の子はどうしよう。魔王を倒せるのは勇者の一撃だけって話だし」


「それならシビルちゃんの部隊に配属すればいいよ。町娘で戦いには無縁だった子なんでしょ? 側にいれば安心だろうし、可愛い子だからシビルちゃんも気に入ると思うよ」


「いつも思うけど、エミーのシビル君ハーレム計画って参加ハードルの基準が曖昧じゃない? 確かに可愛い子だけど、あんまり垢抜けてないっていうか」


「そんなことないよ。勇者じゃなかったらお断り。私が指定した子は部隊に配属してくれた?」


「うん。言われた通り、ウチの龍騎士隊の若手隊員と、魔導師隊の女の子が参加するように手配したよ」


「だったらそこにシビルちゃんを組み込んじゃって。女の子いっぱいのパーティーの方がきっと喜ぶよ」


「確かにエミーに言われた通り、強くて可愛い子を選出したけど、大丈夫かな。私達と同世代で未熟だし、もっと強い人はいっぱいいるのに」


「ううん。勇者の女の子のパーティーは、シビルちゃんとその2人じゃないとダメ」


「何か理由があるんだよね」


「勇者は魔王を討伐する為に旅をしてもらう事になるの。その随行員としてシビルちゃんを組み込むんだよ」


「軍の部隊に配置するんじゃないんだね」


「うん。軍隊って規律とかめんどくさいし、旅をして力を磨くのは、教会の神託によって命令されることだから。シビルちゃんがどんな顔するか楽しみ♪」


「そういえばそうだったね。あはは。シビル君のことになると私以上に頭の回転が速いよねエミーって。昔から変わらないなぁ」


「そうかな? ????????????????????」


 ゾクッとルルナの体が震える。


 笑顔を崩さないようにするのに必死だった。


 底冷えするような純粋すぎる笑顔の源が、シビルへの異常なまでの愛情であり、彼女が自分以上に壊れた人間であることを知っているからだ。


 ルルナは知っていた。


 シビルとエミリアは遊び相手として選ばれたのではない。


 シビルのために、ルルナがのだ、と。


 逆を言えば、ルルナの方が選ばれたのだ。エミリアの計画するシビルとの未来設計の為に。


 ある意味で、エミリアにとっては一国の王女である自分ですら盤上の駒、あるいは望む未来を獲得するために必要なパーツの一部でしかないのだ。


 不要になれば容赦なく切り捨てられる。


 仇為あだなせば排除される。


 それも徹底的に自分達に累が及ばないように完璧に処分されるだろう。


 特に幼い頃から遊び相手として接してきたルルナは他の人間よりも強くそれを感じており、自分もいつの間にかシビルの虜にされていたと気が付いた時には、既に彼女の駒として絡め取られていた。


 もちろんルルナ本人も、既にエミリアと同等レベルでシビル・ルインハルドに異常偏愛している人間の一人だ。


 こう言った状態を別の世界ではこのように表現した。


『ミイラ取りがミイラになる』、あるいは『類は友を呼ぶ』と。


 だが二人には決定的な違いがある。


 ルルナは【そうしようとしていたうちに、そのようになっていった】のに対して、エミリアは【魂の根っこからそうなっている】のだ。


(この国で一番敵に回しちゃいけない子よね、エミリアは)


「聞いて聞いてルルナちゃんっ♪ シビルちゃんとの初めての夜のこと。ルルナちゃんも経験して欲しいから具体的なことは言わないけどんだけどね」


「え、何々気になる~♪」


 シビルとの熱い夜をとろけた笑顔で語り続けるエミリアを見て、早くシビルとの情熱的な経験をしたいと思いつつ、彼女を敵に回さない為に上手く立ち回ることを誓うルルナなのであった。


【第2章 妖精さんとハーレム宣言 完】


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