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第36話出発の日まで修行しよう

 ホタルと結ばれてから数日。

 俺は魔王討伐の旅の準備の為、自身のレベルを上げることにした。


 そんな俺の選んだレベル上げ方法は、裏ダンジョンの攻略だった。


 一つの案として王都周辺のモンスター退治を請け負う事もあったのだが。


 この世界にも異世界物よろしく冒険者というものが存在する。


 ゲーム内ではそれほど大きく取り上げられてはいなかったが、物語後半の復活魔王軍との戦いではチラホラその姿を確認できる。


 だからこの世界の冒険者というものを俺は詳しく知らないのだ。


『だいたい異世界物のテンプレ通りって考えてもらっていいと思いますよ。依頼を受けて報酬を受け取るってな感じです。強いモンスターを討伐するクエストは報酬が高いってな感じ』


「やっぱりそういう感じか」


 俺がなんで裏ダンジョンの攻略をしようと思ったかだが、これはミルメットからのアドバイスがあってのことだった。


◇◇◇


『シビルさんシビルさん』


「なんだ?」


『レベル上げするなら手っ取り早く裏ダンジョンに入ればいいじゃないですか。入りたての上層ならステータスでゴリ押しでもイケると思いますよ』


「確かにその通りなんだが、俺はその方法は取らないことにしてるんだ」


『ほへ? なんでですか? チキンなんですか?』


 ぶん殴るぞ! そうじゃなくて、今でさえステータスに振り回されてるんだ。


 裏ダンジョンで一気にレベルを上げてしまうと余計に振り回されてしまう気がしてな。


『いや、その考えは違うと思いますよ』


「どういうことだ?」


『シビルさんの目標は強くなることじゃなくて、幸せな人生を過ごしていくことなんですよね? だったら最初に思い切りレベル上げしちゃって、できる事を増やしておくのが先じゃないですか?』


 なるほど。確かにレベルを上げて上級の回復魔法やバフ系魔法を覚えておけばいざと言う時に対処できるな。


 ステータスというのは不思議なもので、力のステータスがカンストしていたとしても、例えばドアノブを軽く握りつぶしてしまう、みたいなことは起こらない。


 それが反映されるのはそれと意識した時、主にバトルの時にのみ反映される。


 これもやっぱりゲームの世界だからこそなのかもしれない。


『それに裏ダンジョンには本編じゃ手に入らない便利なアイテムが沢山ありますし、舐めプしてたら危険な場面に対応できなかった時に後悔するかもしれません』


 舐めプか……。そうか、確かにその通りだな。

 すまんミルメット。お前の言うとおりだったわ。


 結構考えてくれてるのな。そのアドバイスはマジで目からうろこだったわ。


『はっはっはっ! もっと賛美していいんですよ! いっその事、神棚かみだなでも作って毎日お供え物をしましょう。とりあえずエミリアちゃんのパンツを――』


 やっぱ感謝する気なくなった。パンツどうする気だよ。


◇◇◇


 なんて会話があったのだ。


 だから俺は少しずつレベル上げして体を慣そうと思った計画を大幅に変更し、出発ギリギリまで裏ダンジョンで己を鍛える事にしたのだ。


 ミルメットのアドバイスは本当にその通りだと思った。


 確かにカンストステータスがあればモンスターからの攻撃はほぼノーダメだし、攻撃もそこら辺に落ちてる石でも投げればドラゴンだって致命傷を与えられる。


 しかしそれは俺一人で攻略する場合だ。


 実際には旅でパーティー行動を取ることになる訳だし、仲間と共に戦う事もある。


 仲間がピンチの時に回復魔法が使えなかったらどうすることもできない。


 もしかしたら想定外の事態があるかもしれないし、できる事は多い方がいいのは確かだ。


『そうそう。せっかくゲームやりこんでるんですから、戦術だって経験豊富な訳じゃないですか。後はそれを現実の動きに落とし込むだけです』


 その通りだ。うん、確かにその通りだな。


 よし、それなら最低限の準備を整えて裏ダンジョンでレベル上げするとしよう。


『ですです☆ とりあえずは最初の区切りである地下10層のフロアボスのドロップアイテムを狙ってみてはいかがですか?』


 "甘露の水差し"か。


 めちゃくちゃ美味しいお水が無限に出てくる水差しってな説明文で、ゲーム内だと貴重な無制限の全体回復のアイテムだ。


 これは本編で数量限定しか存在しない消費型の全体回復アイテムである"天使の涙"の無制限バージョンであり、最大HPの60%~80%をランダムで回復するというチートアイテムだ。


 本編に持ち込んだら初期レベルでも凄まじいヌルゲーと化すほどに影響力が強い。


 何しろ防御か回避の高いキャラに持たせてひたすら使わせておけば戦闘不能になることがほぼなくなる。


 ちなみにマド花の周回は、"レベル"、"所持金"、"アイテム"、"武器熟練度"、"ヒロインの好感度"を引き継ぐかどうかを選択できるシステムになっている。


 金だけ引き継いで序盤から強力な装備を買うこともできるし、アイテムだけ引き継いで裏ダンジョンのチートアイテムを初期レベルから使用してプチ無双するなんて楽しみ方もある。


 あれを持っていればパーティー全体を回復することができるから、仲間のピンチを助けることができるな。


「そうなると20層のボスドロップも欲しくなるな」


『"不死鳥の羽根"ですね。蘇生アイテムはこの世界では伝説級に貴重ですから、使用は慎重にならないといけませんが』


「ああ。だが万が一にも、物語のイレギュラーが発生してヒロインが死ぬことにでもなったら目も当てられない。消失確率50%の消耗品だけど、あると無いじゃ大きく違う」


『まあ持っていて損はしないでしょう。とりあえず出発の日までに30層くらいまでを目標にしてはいかがですか? それより下は流石に武器無しだと厳しいと思いますし』


 そうだな。それぞれのフロアには1層ごとにフロア報酬が存在しており、10層ごとにボスが配置されている。


 最下層は100層になっているが、ここら辺になってくるとマジで頭のおかしい強さの敵がウジャウジャ出てくる。


 浅い層でも本編終盤の貴重なアイテムがかなり手に入るので、やはりレベル上げと戦闘訓練は裏ダンジョンで行なうことにしよう。


 ちなみに厳密には100層より下は存在しており、1フロア目~100層と同じ構造のダンジョンがランダムで選出され、更に高いレベルのモンスター配置で再出発となる。


 敵のレベルがドンドン上がっていき、どれだけ下に行けるかのやり込み要素が存在している。


 しかもランダム要素があるから運も絡んでくる。


 これが結構やり込みゲーマーに好評であり、古いゲームだが前世でも死ぬ直前の時代までゲーム配信をしている人もいたくらいに奥深い作りになっている。


 俺はそこまでの廃人にはなれなかったが、一応300層くらいまでやりこんで飽きてしまった部類だ。


 確か証拠映像が残ってる最高記録は2500層くらいだったな。


 世の中には凄まじい極め方をしている人達がいるものだ。


 さて、それじゃあ出発するとしよう。

 目指すは甘露の水差しだ。

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