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第37話裏ダンジョン

 俺は直ぐに行動を開始した。

 まだ中等部学生と言うこともあり、そこまで装備にお金は裂けなかったが、低い階層なら素手でもゴリ押しできる。


 だから装備は後回しにして回復アイテムを準備しておいた。


 MPの回復アイテムは本編内では非常に貴重なので高額だ。


 しかし裏ダンジョンのモンスターはそんな入手困難で貴重なアイテムをボロボロドロップしてくれる。


 学園の授業が終わった後は毎日でも行きたい。


 しかしエミーのことをほったらかしにする訳にはいかないし、俺も会えないのは寂しい。


 旅が始まったら否応なく会えなくなってしまうから、今のうちに絆を深めておきたい。


 ちなみにスピリットリンカーによるパワーアップは現状あれ以上は起こらなかった。


 まだまだ条件が未確定なところが多いスキルだ。


「エミーと一緒にパワーレベリングできたらよかったんだがな。なんで無理なんだっけ?」



『えっとですね。言葉で説明するのは難しいんですが、あの裏ダンジョンは本来存在しないんです。イレギュラーであるシビルさんだけが認識できる場所なんですよ』


 うーむ、つまり現地人であるエミーや他のヒロイン達は入ることができないってことか?


『そうなんです。理由までは分かりませんが、恐らく裏ダンジョンはゲーム本編には存在しえない場所だからかもしれません』


 なるほど。確かに本編にはまったく関係してこないからな。

 一時は隠しヒロインがいるんじゃないかとか、色々な噂が飛び交ったものの、結局本当に単なるやり込み要素でしかなかった。


 ただ、一つだけ気になる要素として、あのダンジョンって裏ボスがかなり意味深な事を言い残して死んでいくんだよな。


 それが何を意味しているのか考察する動画配信者もいるくらいだが、公式からも明かされていない。


「そういえば、ゲーム内で裏ダンジョンは別の次元に繋がっているとかなんとか……」


『あー、多分それです。もしかしたらシビルさんと関係が深まっていけば何か変化があるかもしれません。今度実験してみては?』


「そうだな。憶測だけで決めてしまっては分かるものも分からなくなってしまう。エミーはちゃんと付き合ってくれるだろうし、定期的に実験はするか」


 そうして、まずはソロ攻略を開始することになった。


 流石にステータスがカンストしているだけあってある程度ゴリ押しをすることができるが、ゲームオーバーにだけはなるわけにはいかないので慎重に攻略を進めた。


◇◇◇


 さて、こっから早速裏ダンジョンの攻略と参りますか。


 俺は学園を終えた後、エミーと一緒に帰りながら出発の日までに何をするかを情報共有した。


「うん、分かった。じゃあ学園が終わった後は馬車で試練の洞窟まで送ってあげるね」

「ありがとう、助かるよエミー。まだ一緒に入る方法が見つからないけど、そのうち一緒に攻略しよう」


 実は一度お試しでホタルを伴って入り口の前まで行ってみたのだ。


 スピリットリンカーなんてスキルも取得したし、もしかしたらと思ったが、ダメだった。


「うん。私も攻撃魔法や補助魔法の訓練を強化しておく。いざとなったら戦えるようにね」

「頼もしいよ。それじゃあ行ってくる」


「いってらっしゃいシビルちゃん」


 試練の洞窟前まで馬車で送ってもらい、早速裏ダンジョンへ出発する。


 この洞窟は入場許可制になっており、学園の授業以外で使う時は申請が必要になる。


 早速昼休みに事務室へ申請を出しに行き、許可をもらっておいた。


◇◇◇


「よし、いくぞ」


 ボスフロア前の隠し扉を開き、再びパスワードを入力する。

 ここには俺が開いた【全能者の宝玉】が入っていた宝箱が鎮座している。


「前に来たときは気にしてる余裕なかったけど、このパスワード入力の機器ってパソコンのキーボードだよな」


 隠し扉を開けて最初に目に入るのは石碑だ。一見すると大理石のような光沢のある石碑が鎮座している。


 そこに近づくとホログラムのような板が浮き上がり、パソコンのキーボードが出現する。


「入力完了っと」


 とりあえず気にしても仕方ないのでさっさと入力してダンジョンへの扉を開いた。


 この裏ダンジョンが別の次元に繋がっているという設定が、ここら辺に関係しているのかもしれないな。


 パスワードを入力すると石碑がズズッと音を立てて地面に潜っていき、床が開いて階段が現われる。


「よし、いくぞ」


 空気が変わった。

 階段を降りていくと同時に、重苦しい殺気の重圧がヒシヒシと伝わってくる。


「すげぇ殺気だ。裏ダンジョンの殺意のスゴさって奴か」


『シビルさんのステがあれば15層くらいまではほとんどワンパン無双できると思いますよ。それにここじゃ人の目がありませんのでブレイジングソードも使い放題です』


 その通りだ。戦い方のパターンも増やさないとな。


 階段を降りきって広いフロアに到着する。


 10層までは青白い光を放つ石壁に囲まれた典型的な洞窟型ダンジョンだ。


 11層から~20層までは整った石畳と白い壁に囲まれた建造物型。


 21層~30層は10層までと同じような洞窟型で罠が発生する赤い光を放つ岩壁に囲まれている構成になる。


 こんな感じで10層ごとにボスフロアが存在し、それを越えるとフロアの特徴が変わっていく仕組みになっている。


 最初に足を踏み入れたフロアの感じからして、ゲームと同じ造りとみて良さそうな事に安心する。


「お、早速モンスターのお出ましだな」


 最初のフロアはゴブリン、コボルトなどの人型モンスターを始めとして、ウルフ系などの動物型モンスターがはびこっている。


 ゲームだと多くても6~8体構成で出現し、仲間を呼ぶなどの特殊なアクションがない限り倒しきれば戦闘は終了する。


 目の前に現われたのはゴブリンとウルフの混成部隊。


 こっちは武器がないので素手かスキルでぶん殴るしかない。


「さあいくぞっ!」


 こいつらは通常のゴブリンよりも強い。

 本編で出てくる同じ個体よりも遙かにステータスが高いのだ。


 タイラントスパイダーと比べてもかなりの高ステータスだから油断はできない。


「そおおいっ!」


 ボゴォ!


『ギョァッ⁉』


 突き出したパンチはゴブリンの体を爆散させる。


「うわっ! きったねっ、ってあれ?」


 肉やら血液やらの色んなものが飛び散って降りかかるかと思った瞬間、それらの内臓が光となって霧散していく。


 光の粒は俺の攻撃を受けてモンスターが絶命してから僅かなタイムラグの後に形状を変えた。


「やっぱりダンジョンと同じ仕様か。ありがてぇ」


 汚れなくて済むのでこの仕様はありがたいな。

 『僕』の記憶ではモンスターが光に変わる現象はダンジョンモンスター特有のものだ。


 タイラントスパイダーも死体は残ってたし、野生とダンジョンでは生物としての成り立ちが違うのだろう。


「そりゃそりゃそりゃっ!」


 襲い掛かってくるモンスターを次々に処理し、全てワンパンで戦闘を終了させることができた。


◇◇◇


「ボスフロア到着っと」


『あっという間でしたね』


 ゲームのマップは全て頭に入っている。100層クリア以降のランダム要素が出るまでは、フロア構成や宝箱の位置も全て固定なので、問題無くここまで来ることができた。


 さすがに全ての宝箱の位置を覚えている訳ではないので、特に回収必須な貴重品を狙って探索した。


 さすが裏ダンジョンだけあって敵の強さと経験値も相当なものである。


「よーし、初めてのボス戦だ。気合い入れるぜっ」


 10層のボスは『ゴブリンエンペラー』。


 本編でも存在する『ゴブリンキング』の上位種だ。

 更に下層にいくと『ゴブリンゴッド』なんて最上位種も出てくるからな。


 こいつは裏ダンジョンの登竜門みたいなものだ。


『ぎゃふぅううっ!』

「げげっ、こ、こいつは……」


 ここでゲームと現実の違いがでてくる事態に遭遇。


 ゴブリンキングは通常の雑魚ゴブリン、ホブゴブリン、シャーマン、マジシャン、ナイト、ファイターなどの亜種を率いた敵パーティーとの連続戦闘となるのだが……。


「全種類一斉にバトルかよ。これで出現数は無制限って考えないといけなくなった」


 現実の世界だとフロアの中に全種類のモンスターが存在し、一斉に戦わないといけないみたいだ。


 ゲームのようにバトルとバトルのインターバルは存在しないらしい。


 回復行動は敵の隙を突いて行なうしかないな。


「まあ、今は必要ないけどな」


『ギャギャギャッ!』


 戦闘開始。魔法を放って雑魚を一掃し、一気にキングのところへ走る。


「こいつはいい。単体攻撃魔法でも余波で複数攻撃にもできる」


 マド花の魔法はレベルアップによって効果範囲が広がるものがある。


 基本となるファイアボルトを例にとると、主人公の場合はゲームのチュートリアルで学園から支給される魔導書を使用して覚える事ができる単体攻撃魔法だ。


 レベルが上がると効果範囲を広げる選択肢が出てくる。


 上位の魔法の方が威力が高いが、消費MPのコスパもいいので雑魚戦はこっちを使う事が多い。


『グガガッ⁉』


 一気呵成に攻め立て、パワーストライドを発動。

 距離を詰めて勢いを付けたままパンチ。


 ゲームだとステータスによる数値の変動範囲はそれなりにランダム性がある。


「せいっ!」


『ギャワァアアアッ⁉』


 攻撃を受けたキングが爆散する。それによってフィールドに残った雑魚は全て消滅した。


 これはゲームと一緒だった。


「ふう……。討伐完了……ドロップアイテムは。あったあった」


 目的のアイテムは思った通り宝箱が出現した。


「これが甘露の水差しか。ゲームのグラフィック通りだな」


 無事に目的のアイテムを入手し終わり、ひとまず攻略に一区切りを付ける事ができた。


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