目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第38話使える武器を手に入れろ

 レベル上げの為に裏ダンジョンに通い始め、前世の知識で10層まで速攻攻略し終えた。


 本来ならそこら辺も詳しく語りたい所だが、俺の目的はヒロインとのイチャイチャなので割愛させてもらう。


 俺のレベルは記憶が蘇った時点でLV1であった。


 流石に裏ダンジョンだけあって低階層でも相当にレベルの上がりが早い。


 今のステータスはこんな感じだ。


 ――LV45

 ――HP1300

 ――MP1350

 ――腕力1120

 ――敏捷1150

 ――体力1220

 ――魔力1100


 ゲームを知らない人からすれば、これだけ見てもなんのこっちゃ?という感じだろうから一応説明するが、これだけのステータスがあればラスボスをソロ攻略することも可能となる(ヒロインを連れて行かないので確定でバッドエンドだが)。


 ゲーム本編の適性攻略レベルは45前後。腕力で例えると、200前後まで成長する。


 同じ45でも全てのステータスに999が上乗せされているので、その意味合いはまるで違う。


 分かりやすく言うと、その5倍近い強さがあるのでどれだけチート状態か分かってもらえると嬉しい。


 これも弊害あって、やはり力のコントロールは非常に難しくて、1か100かの出力しかできない状態が続いているのだ。


 それも『二次創作』によって新しいスキルを作りながらコントロールの訓練をすることで、ある程度克服することができた。


 なのであまり強い力を出してしまうと、逆に俺が危険分子となりかねない。ガイスト公爵にも注意されたがもう自重しないって決めてるからな。


 いっそのこと一人で最前線に赴いてもいいくらいだが、勇者の一撃でしか倒せない特性上、ホタルを連れていかない訳にはいかない。


 だから俺自身が限り無く強くなっておき、ゲーム開始前のスピンオフ小説の魔王討伐はサッサと終わらせてしまおうという訳だ。


 本来ならそこには壮大なドラマが広がっており、ゲーム本編のヒナギク・ホタルというヒロインが形成されていく過程として必要な事だ。


 だが俺の目的は彼女達全員と幸せになって、ついでにこの世界の崩壊を防ぐこと。


 物語の通りにしない事こそが目的なのだから。


 さて、残りの日数で30層まで攻略し、必要なアイテムを獲得しながら、もう一つの目標であるダイエットで見た目の改善を行なっていたのだが、もう一つ、大きな問題に直面していたのだ。


「使える武器が、ない」


 ゲームが現実になった大きな弊害の一つ。

 武器が俺のパワーに耐えられないという問題だ。ゲームには武器破壊なんてなかった。



 パワーがあるのはいいが、パワーがありすぎるせいで全力で振るえる武器が存在しない。


 今の所は問題になっていないが、武闘家ではない俺にとって拳一つだけで戦い続けるのは少々厳しいものがある。


 マド花って徒手空拳で戦うキャラっていなかったしな。


 そう思ったのはタイラントスパイダーの襲撃があってからだ。


 その気になれば本編のモンスターは素手だけでも問題なく対処できる。


 流石に魔王戦までいくと少々手こずるだろうが、俺はNO装備クリア攻略もしたことがあるので恐らくいける。


 だがゲームと違ってリトライができない分だけ楽観視はできない。


 万全を期さずしてヒロインを救うことなどできる筈もない。


 そして、本来のホタル覚醒イベントで出現する筈だったキラーアントではなく、どういうわけかタイラントスパイダーが出現した理由も不明なままだ。



「うーむ。攻略を進める為には武器が必要だな」


 現状戦いに苦労はしないものの、このまま放置していい問題でもない。


「武器作成イベントを先取りできたらいいのに」


『それならエミリアちゃんに武器を買うお金をおねだりしてみたらいいんじゃないですか』


「そんなみっともない真似ができるか」


『でも裏ダンジョンの物品って高級品ばっかりだから売却できないですし』


 そうなのだ。裏ダンジョンのドロップアイテムを売却すれば金に困ることなんてない。


 だがあまりにも希少価値の高いぶっ飛んだものばかりなので、出所を聞かれても答えられないという欠点がある。


 最悪盗品だとかイチャモンを付けられて面倒な事になる可能性もある。


 二週目要素も十全に活かせないというジレンマがあるのだ。本当に必要になる時まで判断は慎重になるべきだろう。


 甘露の水差しやフェニックスの羽根も同様だな。本当にいざと言う時以外は使わない方が良い。


 ゲームなら二週目の時に持ち越したアイテムを序盤に売り払っても文句は言われない。


 なんなら序盤の古道具屋に大量の宝石を売りつけて数万金貨をせしめても問題無く支払われるが、そうもいかないのが現実だ。


「裏ダンジョンって35層くらいにならないと武器がドロップしないんだよな」


 一応30層のボスがレア枠でドロップする武器があるが、それもやはり同様に本編最強武器の数段上位互換の性能をしているので迂闊に振り回すことはできない。


 だが一応入手だけはしておくつもりだ。いざと言う時がくるかもしれないしな。



『やっぱりエミリアちゃんにおねだりした方がいいですって。エミーをいつでもそばに感じたいとかなんとか言って』

「うーむ」


 確かにエミーは公爵家の令嬢でお金持ちだ。

 だがそんなおねだりするなんてできる筈もない。


 それに、いくらお金があっても使える武器を買えるとは限らないし……。


『んなこと言ってぇ、エミーならとか、考えてません?』

「考えてねぇ!」


 なんてやり取りをしていたのだが……。


◇◇◇


「シビルちゃん、これ」

「ん? なんだいエミー」


 学園に通いながら裏ダンジョンに潜ること3週間ほど。


 なんというか、エミーのタイミングの良さというか、勘の良さというか。


 俺が必要としているものを先んじて準備してくれる手際の良さには頭が下がる思いだ。


 ダンジョンに通って体を鍛える日々を過ごす中、学園の昼休みにいつも通りランチを一緒にとっていた時。


 立派な装飾が施された箱に入ったリング状のアイテムを渡された。


「こ、これって……」


(まさか……)


「王都で新開発した武器の試作品なんだって。シビルちゃんの役に立てるかもって思って取り寄せてみたの」


『おお、これはこれは、結構なものをプレゼントしてくれましたねぇ』


(間違いない。エボルウェポンだ)


 エミーから渡されたのは真ん中に石が填め込まれたバングル型の装備で、宝石に見える光った石が精霊石と言われる貴重なアイテムとなっている。


 このエボルウェポンは本編で主人公だけが入手できる武器で、本人の資質に合わせて形状を変化させることができる。


 という説明がされているが、実際は10種類の武器を使い分ける事ができる優れものだ。


(そうか。確か完成はホタルが戦う魔王軍との戦争の終盤。この時点でも試作品は存在するんだ)


 確かスピンオフ小説でもホタルが手に入れたが、前魔王との決戦時に損壊してしまい、本編前に破棄していた筈だ。


「この精霊石って……なんだか」


 とんでもなく希少価値の高い宝石で、ゲーム本編でも数量限定しか手に入らない。


 真ん中に填まっている精霊石がこの武器の要なのだが、俺の知っているものより輝きが強く、なによりも……。


「エミーの魔力を感じる……」


「うん。精霊石は私の魔力を込めてあるから。これで、いつでも私を感じてほしいなって……えへへ。ちょっと恥ずかしい。スピリットリンカーのおかげでパワーアップしたし、何かしてあげたいなって」


「エミー!」


 思わず愛しさが募って抱きしめる。


「きゃぁん♡ シビルちゃん、私、役に立ててる?」


「ありがとうエミー。俺、頑張るよ。必ず最高の結果を持って帰ってくるからさ」


「うん。でも、私は結果よりもシビルちゃんが無事でいてくれる方が大事だから。絶対に無理はしないでね」


「もちろんだよ。必ず無事に帰ってくるから」


 凄いなエミーは。いつだって俺の為に何かを考えてくれている。


 パートナーの頼もしさに強く感じる愛おしさ。

 「誰かの為に」を実行してくれる可愛い恋人に、愛を感じずにはいられなかった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?