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第40話思わず出ちゃった独り語り

 新たな武器アイテム『エボルウェポン』の性能を確かめつつ、20層のボスドロップである『不死鳥の羽根』を目指して裏ダンジョンを無双した。


 20層のボスはファイヤーバード。


 不死鳥の羽根をドロップするならフェニックスじゃないんかいと突っ込みたいが、80層のボスがフェニックスとなっている。


 裏設定とか語られてないけど、開発段階で変更されたとかそういうのだったんだろう。


 だってファイヤーバードのグラフィックってフェニックスの色違いだし。


 面白い話はなかったのでこいつを討伐した場面は割愛させてもらう。


 さて、無事にフェニックスの羽根を手に入れた。

 これの不便なところは一度手に入れるとアイテム欄から無くなるまで再取得ができない点にある。


 1回で消える事もあれば、10回使っても消えない時があるという超ランダムアイテムなのだ。


 パーセンテージが設定されているらしいが、公式から公開されていなかった。


 有志による内部データの分析で消滅確率は50%と判明しているが、確率はあくまで確率なので全然当てにならない。


 一応80層のボスドロップで無制限蘇生アイテムの【フェニックスの魂】が存在しているが、取りに行くには時間が足りない。


 エミーからもらったエボルウェポンがあればワンチャンいけそうとも考えたが、ゲーム画面で見るのと実際の光景は体感の広さが桁違いだった。


 だから1層地下に降りるのもゲーム以上の時間が掛かるし、デバフをかけられたり、 麻痺攻撃を使ってくる奴もいるから、やはり下に行くほど独りでは厳しくなってくる。


 それに集団戦がやっかいだ。回復の手間も独りでやらないといけないから、モンスターハウスにうっかり足を踏み入れたりするとマジで焦る。


 それはともかく、あとは状態異常回復のアイテムでもあれば最高だったのだが、それらの無制限特別アイテムは60層のボスドロップなので、これも今は難しいだろう。


 しばらくは大丈夫だろうが、唯一、呪い系のスキルを使う敵には注意しないといけない。


 ゲームだと中盤のイベントと終盤のボス戦。


 スピンオフ小説の範囲内だと出現は示唆されていないが、物語は破綻しているから注意しておく必要はあるだろう。


 裏ダンジョンには他にも魅力的なアイテムが盛りだくさん存在しているが、ソロ攻略だとかなり厳しいので、今は30層までが限界か。


 いや、このエボルウェポンの使い勝手の良さは想像以上だ。


 甘露の水差しもある事だし、もっと下までいけるかもしれない。


 出発まであと2ヶ月。他にも沢山やるべきことは残っているから優先順位を決めて取りかからないとな。


◇◇◇


「ふう……。さて、晩飯はどうするか」


 裏ダンジョンを脱出して帰路についている途中、夕食をどうするかの思案をしながら歩いていた。


 エミーは毎日でも夕食を食べに来て良いと言ってくれたが、ガイスト公爵の手前もあるのでちょっとはばかられる。


「今日は適当な店に入って済ますか」


 今は丁度夕食の時間帯だ。屋台やレストランは賑わいをみせている。


 いつもはライハル兄さんと一緒に食べているのだが、丁度忙しい時期で事務仕事に苦労している。


『そんじゃあ食事がてらあの魔石の分析結果でも共有しましょうか』


 頼む。


 適当なレストランを選んで定食的なセットを注文して隅っこの席に座った。


 さて、あの事件は一体なんだったんだ?


『恐らくですが、あのタイラントスパイダー達は召喚されたモンスターですね』


 召喚モンスターか。


 確かにいきなり現われたし、そうだとは思うが。


 問題は誰が召喚したのかってことだ。


『それはまだ分かりませんが、ゲームだと召喚魔法ってかなり特殊な立ち位置でしたよね』


 確かに。イベントで特殊な魔道具を使った敵勢力の暗躍で、学園がモンスターの集団で溢れるというものがある。


 召喚魔法って通常の魔法と違ってイベントでしか存在しない異色の魔法となっており、マド花のゲーム内ではあまり目立つ存在じゃなかった。


 公式設定資料集によると、術式が複雑で、複数の魔道具を媒介にして大量の魔力を必要とする高度な技術だそうな。


 高位魔族が複数人で行なうか、術式を封印した『魔結晶』と呼ばれる高純度の魔石を使うことでしか発動できない。


 つまり戦闘中にお手軽に使えるファイアボルトなどの魔法とはまったく毛色の違う魔法だ。


「もしかしてまた何かのイベントの先取りなのかな。でもタイラントスパイダーの大蜘蛛の狂乱は魔王軍の暗躍によって強制進化させられた下位個体だったよな」


『そうなんですよね。その線もあるのかと思ったんですが、分析した魔力反応から召喚によるものなのは間違いなさそうなんです』


「と言うことはアレを召喚した何者かがこのサウブラ領の町に潜伏してるってことか」


『その線が強そうです。ゲーム本編のレベルだとかなりの高レベル帯の敵じゃないとこんなマネはできないでしょうね』


 うーん。既にかなりイレギュラーが起こりまくってるし、ゲーム本編基準で物を考えない方がいいかもしれないな。


 未知の敵勢力が暗躍している可能性も考慮したほうがいいかもしれん。


 しかし、こんな状態の町を放置して旅に出るのはちょっと心配だな。


 かといって公爵との約束もあるし、魔王を放置することもできないしな。


『まああの手の魔術って乱用できるものじゃないので、滅多な事じゃあんなことはないと思いますけど……』


 お前の楽観視ほど不安を煽るモノはないな。


 うーむ、悩ましいぞ。


「あ、そうだ。裏ダンジョンのアイテム集めまくってエミーに渡しておこう」


 既に裏ダンジョンの存在は2人に知らせてあるし、早いところ2人にはチート状態になってもらった方がよさそうだ。


 よし、その線でいこう。


『あのー、ところでシビルさん』


「なんだ?」


 話を中断したミルメットが何やら耳打ちをするように声を潜めてきた。


 そんなことしなくてもお前の声は俺以外に聞こえないんじゃなかったか?


『そうなんですけど、シビルさん、さっきから私との会話が全部声に出ちゃってますよ』


「あっ」


 気が付くと俺は周りの客に注目を集めていた。

 奇異な目が一点に集中し、俺は珍獣を見るような視線を浴びまくっていた。


 慌ててその場を後にしたのは言うまでもない。


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