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第46話盗賊の襲撃

「申し訳ねぇけど客室は一つしかねぇだ。狭い部屋だどもガマンしてくんろ」


「いえ、寝床を貸して頂けるだけでもありがたいです。これ、少ないですが宿代として」


「これはすまねぇだ。村も貧しくてな。お持て成しの食事も出すことができねぇでよ」


「いいんです。屋根のある部屋を貸して頂けるだけで十分ですから」


 ホタルは村長にお礼をいいながら銀貨の入った袋を渡す。


 路銀も無限ではないので道中で稼ぎながら旅を続けるしかない。


 裏ダンジョンで稼いだアイテムもあるけど、あそこは魔物の素材が落ちずに、表の世界には滅多に出回らない魔物の魔石しかドロップしないので中々売却できないのが難儀だ。


◇◇◇


「それじゃ俺は馬屋を借りたからそっちにいくよ」


「え、シビル君一緒に寝ないの?」


「男と女が同室って訳にはいかないだろ」


 まだホタル以外とは完全に打ち解けた訳じゃない。

 一つしかない部屋に男が一緒に居座るわけにはいかないだろうな。


「し、シビル殿」


「どうしましたセイナ様」


「いえ、その。そろそろ旅にも慣れてきましたし、あなたの人間性は分かってきたつもりです」


「そうです。今更私達にいかがわしい事をする人じゃないのは理解しましたので、一緒の部屋で寝ましょう」


 マジか。まだ1ヶ月共にしただけだが、二人の友好度は徐々に上がってきていた。


 ここにきて一つステップアップできた事に喜びを禁じ得ない。


 セイナとフローラの友好度は最初の【最悪】の状態からかなり改善している。


『友好から友情までもう少しってところですね。エロ同人まであと少し。頑張れシビル~、エロエロシビルーっ♡』


 うぜぇ……。


 だが少しずつ良い方向に来ているな。旅は長いんだ。慌てず行こう。


 そうして、俺は女の子三人との同室を許されて眠りに就いた。


◇◇◇


『シビルさん、シビルさん起きてくださいッ』


 眠りについてしばらく経った頃、頭の中でミルメットが騒ぎ出した。


 大声でたたき起こされた俺は若干不機嫌になりながら小声で話しかける。


「どうした?」


『村の周りで不穏な気配が多数近づいてきてます。気配を消しながら徐々に取り囲むように。盗賊かもしれません』


「なんだと」


「んぁ……シビル君、どうしたの?」


「ホタル、二人を起こして急いで着替えを。盗賊の襲撃かもしれない」


「エッ、と、盗賊ッ⁉」


「しっ~。恐らく不意打ちをしてくる筈だ。こっちから迎え撃とう」


「わ、分かった」


「俺は先に外を偵察してくる」


「うん、気を付けて」


 ホタルに二人を任せてそっと扉を開いて外に出る。


(なるほど……確かに殺気が伝わってくるな)


 裏ダンジョンのモンスターに比べればクソみたいなものだが、相手は人間だ。


 そう、つまり……俺は今から人を殺さないといけない。


 シビルとしても日本人としても初めての行為。


 だけどこの異世界で生きていく上で、必ず通らないといけない道だ。


 夜の闇に一定間隔で置かれているかがり火の炎だけが周りを照らしている。


(ミルメット、どのくらいの数がいるか分かるか?)


『ちょーっと待っててくださいよー。索敵索敵……うーん。ざっと30人はいますね』


 30人か。こんな小さな村を襲うのに過剰戦力じゃねぇか。


 この世界って物資を奪う以外に何をするんだ盗賊って?


『主に食料と金銭。それから若い男女は奴隷として売られます。ご存じの通り性行為が存在しないのでレイプはありませんが、性欲はあるので女の体を蹂躙する概念はありますね』


 なるほど。性行為がないのにどうやって陵辱するのかは知らんけど、まあ知りたくもないからどうでもいい。


 形は違えどレイプは悪だ。そういうことを平気でする奴らは全員ぶっ殺してやる。


 しかし盗賊は金になる。殺さずに捕まえた方がいいのかな。


『いえ、冒険者組合に体の一部を持っていけば賞金首かどうかは分かりますので、手加減は必要ありません』


 分かった。システムは後で詳しく聞こう。とりあえず全員ぶっ殺す方向で良さそうだ。


 ここまで来たらビビっている場合ではない。


 ホタルも、恐らくセイナもフローラも殺人経験はないはずだ。


 俺が躊躇していたら彼女達に危険が及ぶかもしれない。


 レベルはあっても勝負の度胸がなければ体がちゃんと動かない事もありうるし、魔族だって人型だから、慣れておかないとこれからが危険だ。


「ミルメット、敵の位置は捕捉できるか?」


『お任せください。全員の場所を把握してますから。さーてさて。ここでミルメットちゃんの新機能をご披露しちゃいましょうっ!』


「新機能?」


『異世界転生のド定番ッ! サーチ機能と画面共有機能ですよーっ』


 テンションの高い声と共に視界に変化が現われる。


 半透明の青い枠が視界の右上に現われ、前世のゲーム画面で馴染みのある光景、マップ機能だ。


 赤い点がそこかしこに散らばっている。


 点滅しながら少しずつ移動してこの村を囲い込むように近づいている。


 これが敵の位置だろう。


「これは神機能だな。ありがたい。よし、ホタル達のところに戻ろう」


 かがり火の影響で向こうからこっちの様子は丸見えだろう。


 夜目が利くようになるスキルとかあんのかな?


『ありますね。敵さんもちゃんと使ってますよ。こっちからは見えないんで不利ですけど……シビルさんなら』


 ああ、ないなら作っちまえばいい。


 この世界の夜目スキルってどんな機能?


『単純に視界が良くなるだけですね。炎魔法とかで強い光を浴びると目が潰れるくらいの激しいまぶしさが弱点です』


 ナイトスコープみたいなものか。

 よーし、それならやりようはいくらでもあるな。


 それにこっちから見えるようにする方法も作ってしまおう。


『それなら色が付着する水魔法とか作っちゃいましょう。敵の仕分けの演算は私の方で担当しますから』


 なんかミルメット、できる事増えてない? マップ機能使えないって言ってたのに。


『ふふふ、どうやらセイナちゃんとフローラちゃんの好感度が上がったことで、ホタルちゃんがますますシビルさんに惚れ込んじゃったみたいです。だからスピリットリンカーがパワーアップしたんですねぇ。早くフローラちゃんとセイナちゃんも攻略しちゃってくださいね』


 だからそういう目的で攻略するのはなんだか複雑なんだってば。


 しかし冒険が有利になるのは有り難い。


 よーし、それじゃあ異世界初の本格的対人戦闘としゃれ込みますか。


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