盗賊襲撃。
異世界ものじゃ定番中の定番イベントだが、実際に遭遇するとヒリつく空気感が桁違いだ。
裏ダンジョンの化け物達とは違った意味で強い殺気を裏に隠して近づいてくる。
モンスターは本能で襲ってくるが、悪意という名の理性で襲い掛かってくる盗賊っていうのは、ある意味でモンスターよりも化け物だ。
ゲームの敵幹部も残酷で性格のひん曲がった奴らはいたから、やはり悪意のある相手とのバトルはいずれ起こるものとして練習しておくのに丁度良い。
「ホタル、フローラ様、セイナ様、準備はよろしいですか?」
村長の家に戻ると、家の人達全員を起こして息を潜めていた。
「ああ、準備は万端だ。どうする?」
セイナは持ち武器である槍を握り絞めて闘志を漲らせている。
だがちょっと力みすぎている感じだ。
「ど、どどど、どうしましょう。盗賊ッ……ってことは相手は人間。魔物とは違うんですよね」
そしてフローラは分かりやすいほど狼狽えている。
ホタルは静かに剣の柄を握り絞めて震えている。
訓練はしてきただろうに、実際に人間を殺す場面は初めてなのだろう。
そのリアルさに想像力が追いついてない感じだ。
こんだけ狼狽えてる相手がいると、逆に俺自身が冷静になれる。
「こっちから打って出よう。向こうはスキルで夜目が利いている状態だ。こっちの様子は全部筒抜け。間もなく襲い掛かってくる。村長さん、この村で戦える人は?」
「村の入り口で見張りをしている若者が2人と、力自慢の若者が一人だけですだ」
「ほとんど戦力になりませんね。ならば、村長さん達は全員をこの家に集めるように動いてください。盗賊達は俺達で相手をします」
「ほ、本当ですだかッ。で、でも、大人数相手にアンタ達だけじゃ……」
「ご心配なく。ここにおわしますのは教会より神託を受けた勇者様です。我々は勇者様と命を預け合う者。盗賊の30人程度はものの数ではありません」
「ゆ、勇者様ですだかっ。そ、それは頼もしい」
「ええ、どちらにしても老人が多いこの村ではほとんどが殺されます。皆さんどうか勇気を持って行動してください」
「わ、分かりましただっ。おねげぇしますだ。どうかお助けください」
そういって村長は村人達を呼びかけにひっそりと部屋を出て行く。
どちらにしてもスキルで位置を捕捉されているから直ぐにでも打って出るべきだ。
「セイナ様、フローラ様、そしてホタル」
「は、はい」
「な、なんだ?」
「ど、どうしたんですか?」
「間もなく盗賊達は襲い掛かってくるでしょう。今から、俺達は人殺しをしなければなりません。覚悟を決めて下さい。もしもまだ覚悟が決まらないのであれば、全員俺が始末します。どうですか?」
「だ、大丈夫。私、やれるよッ」
「私もだ。いずれ経験することだし、旅に出ると決めた時から対人戦は覚悟していた」
「わ、私は……」
フローラは無理そうだな。仕方あるまい。まだ年端もいかぬ少女なのだから。
「よし、常に二人一組で行動しよう。セイナ様、フローラ様、お二人はここに残り、集まってきた人達の護衛をお願いします」
「し、しかし」
「フローラ様があの様子では戦えません。ここに集まってくる人達を守る人員が必要です。フローラ様は全員が集まったら防御魔法を展開して籠城してください」
「わ、分かりました……」
「セイナ様はフローラ様のサポートを。盗賊は俺とホタルで始末します。ホタル、やれるな?」
「う、うん。大丈夫。悪い人達だもんね」
「そうだ。悪を成敗して人々を守るのも勇者の務めだ。今から俺達は人の命を奪う。だが、絶対にためらうな。ホタルがためらった数の分だけ不幸になる人が増えると思え」
「分かってる……。うん、分かってるよ」
「よし、どうしても無理ならここに戻って籠城するんだ。外の連中を始末したら直ぐに駆けつける」
正直俺一人でも全員を始末するのはたやすい。
だが、彼女達にも経験値を積ませないとこの先大変だろう。
俺だって怖くない訳じゃない。だけどヒロイン達を守るためなら血まみれの泥水くらい
「分かった。頼りにしてるから」
「シビル殿……」
「シビルさん……」
「お二人とも、村人達をお願いします」
「心得た」
「分かりました。私も覚悟を決めます」
セイナもフローラも震えが止まった。
奮起したのだろう。
盗賊程度なら二人はそうそう遅れをとることもないだろうが、そうもいかないのが戦いって奴だ。
「よし、打って出るぞ。まずは俺が敵の位置が分かるようになる魔法を使う。敵は赤く光るようになる。そいつ目掛けて剣を振るえ。いいな?」
「分かった」
そして行動を開始する。
俺は先ほどから練り上げていた魔法のイメージに魔力を乗せ、上空に向かって手の平を突き出す。
『索敵と仕分け作業はお任せくださいっ! 派手にやっちゃいましょう』
「よーし行くぜっ! 二次創作発動……【マーキングフラッシュレイン】ッ!」
二次創作による魔法の創造。
俺が放ったのは上空に広がる光と水の魔力。
弾けた水の塊が雨となって降り注ぎ、村を取り囲んでいる盗賊達の体に付着していく。
強い光と多量の水。夜目スキルを強い光で潰し、付着した水は敵と味方を明確に視認することができるようになる。
闇夜に紛れて見えなかった人影が次々に浮かび上がり、突然の事に狼狽する声がざわめきとなって広がっていく。
「今だッ! いくぞっ!」
「やぁあああああっ!」
俺の号令を皮切りに、ホタルが村の中に侵入してきた盗賊達に打って出る。
「くそっ、目がッ。光魔法かっ⁉」
「な、なんだっ⁉ 女ッ⁉」
「ただのガキだっ、返り討ちにし――」
斬ッ!
ホタルは一切の躊躇無く盗賊の首を刎ねる。
「ふぅうう~~~~、ああああああああああっ!!!」
斬ッ!! 斬ッ!!!!
レベルと勇者の剣技により、豆腐のように柔らかく斬り飛ばされた複数の首が空中を舞った。
スピリットリンカーからはホタルの例えようもない悲しみと苦しみが伝わってくる。
「よし、俺もいくぞっ」
轟ッ!
パワーアップしたフィジカルは両脚の踏み込みすら爆風を引き起こす。
爆速で自分の体を弾き出し、エボルウェポンから槍を作り出して瞬時に振るう。
「こ、今度はなんd――」
斬ッ! ザザザザザザ斬ッ!
パワーストライドで一気に加速し、直線上に並ぶ赤いマーキング目掛けて大槍を振るう。
攻撃力と範囲に優れ、複数体攻撃には槍が一番だ。
血飛沫が舞い、肉片が散らばって顔に付着するのも構わず次に敵に向かっていく。
「おおおおおおおおおっ!」
「うわぁああ、な、なんだコイツッ!」
「なんだっ、何が起こってるんだッ!」
『敵数減少。残り25人ですっ』
よし、一気に減らすことができた。
「村長の家を中心にして遊撃しろ。回り込まれないように注意しろよ」
「分かったッ!」
「くそっ! 相手は少人数だっ、取り囲めッ! 囲んでたたんじまえッ!」
「殺せぇええっ」
殺気を叩き付けてくる盗賊達を次々に槍の刃先で斬り飛ばし、接近戦に持ち込んだら双剣に切り替えて素早く刺して、斬って、刺して斬る。
細かい取り回しが利く双剣ならば素早く戦う事ができる。
「14っ、15っ、1617っ、じゅううはちぃいいいっ」
剣を振るい、攻撃をされる前に斬り飛ばす。
躊躇はしない。不思議と恐怖心は生まれなかった。
たった今殺人を犯しているにも関わらず、驚くほど心は冷静だった。
後でぶり返すのが怖そうだが、振るった刃が肉とホネを斬り裂いても躊躇が生まれない。
『シビルさんっ、残りの敵が村長宅に向かっています。セイナさんが囲まれていますよ』
「なにっ! ちぃ」
敵の数は残りあと僅か。ホタルに気を配りつつ、セイナのもとへと急いだ。