怪我をした村人を救護しながら夜は更けていく。
破壊されてしまった家屋から家財道具を掘り出すのを手伝い、盗賊達の死体を片付けて1箇所に集めていく。
「体の一部って魔石か」
なんと人も魔石を持っていた。殺した盗賊達の肉体はそのまま残り、自動的に魔石が転がり出てくる。
冒険者ギルドに持っていけば賞金首の魔石かどうかは分かるらしい。
詳しい仕組みは知らんしどうでもいいか。
つまり、生き物が死ねば魔石が体から這い出てくる。
魔石が体から排出された時が、死を示していると言うことになるな。これは今後の参考になりそうだ。
「死体の始末をしないと。放置すると野生のモンスターが集まってしまうからな」
「どうするのだ?」
「燃やして跡形もないように始末する。風に晒すか畑の肥料にするかは村人が決めればいいさ」
「なるほど。分かった……」
「フローラ様、火魔法でお願いできますか」
「……は、はい」
「無理はなさらないでください。できなければ私がやります」
「い、いえ、やりますっ。怖くて、何もできませんでしたから、せめて……」
「分かりました」
人の生き死にを間近に見たのは初めてなのだ。この反応も仕方ないだろう。
フローラが強くなっていくのは、旅を初めて一年が経った頃。
今はまだショックを乗り越えられない状態でも仕方ない。
だが、それは俺が介入していなければの話だ。
この小さな村の襲撃は原作のスピンオフ小説には描かれていなかった。
有ったのか無かったのかは分からないが、少なくとも一朝一夕でなんとかなる感情ではない。
できなければ俺が手伝ってやればいい。
心のケアでなんとかするしかない。
その後、俺とホタル、セイナで死体を集め、フローラの炎魔法で焼いてもらった。
悪の盗賊でも死ねば
せめて荼毘に付さないと浮かばれない。
この世界にあの世とかの概念があるのか知らんけど。
『死んだ生き物の行く末は地球も異世界も変わりませんね。悪人は地獄。善人は天界。まあそんな単純な話ではもちろんありませんけど、基本的には同じです』
なるほどな。スピリットリンカーなんてスキルが発現するくらいだ。
魂というのが重要なファクターになっているのは間違いない。
まあ単純な勘でしかないけど。宗教の数だけ考え方があるだろうし。
「し、シビルさん」
「フローラ様、お疲れ様でした」
「は、はい……すみません。私、震えて何もできなくて」
「そんなことはないぞフローラッ」
「せ、セイナちゃん」
「フローラがいなかったら人質は助けられなかった」
「その通りです。勇気を出した結果ですよ。殺す事が全部じゃないんです。守ることが私達の使命ですから」
「ホタルちゃん……」
「ともかく、俺達の役目はまだ終わってない。色々考えるよりも動いている方が気が紛れる事もありますから」
「そうですね。分かりました」
みんなの励ましでなんとか持ち直したフローラと共に、村の人達の復興を手伝った。
◇◇◇
変化は、1日がかりで戦いの後始末をして、村人達からお礼の食事会を開いてもらっていた所で訪れた。
とは言っても、既に建物は半分以上壊されてしまっており、畑も潰されてしまった。
これ以上この村に留まるのは困難だろうということで、1日休息をとって近くの町にある領主に掛け合って保護してもらう事になった。
「おかげで助かりましただ。こんな小さな村じゃ盗賊達にはひとたまりもありませんでしただよ」
確かに、盗賊はこんな村を襲って何がしたかったんだろう。
盗賊は無秩序な暴力集団ではあっても、あくまで利益を追い求める集団の筈。
こんな小さな村で物資を奪っても大した腹の足しにもならないだろうに。
奴隷として売るにしたって若い男女もほとんどいない。
侵略する価値なんてほとんどないのに、あんな大人数で襲い掛かってきた理由はなんだろう。
「一人くらい残しておけばよかったかな」
「どうして?」
ホタルが薬草で作ったお茶を飲みながら俺の隣に座る。
「ホタル。みんなと喋らなくていいのか?」
「一段落。今日一日、シビル君とお話できなかったからさ。ちょっとだけ成分補給かな」
「そうか」
「迷惑だった?」
「そんな訳ないさ。俺も嬉しいよ」
ホタルだってガマンしている筈だ。
精神的に張り詰めた旅の中で、頼れるものがそばにいるのに頼れないというのは、単独で強くなった原作スピンオフ小説の時とは条件が違う。
「ホタル」
「あ…」
華奢な体を抱きしめ、髪を撫でる。
なんだかんだ、俺も殺人を犯したという未経験の感情に心が乱れているのは事実だ。
「シビル君、私……」
「分かってる。俺も一緒だ。守る為だっていっても、限界はあるのは変わらない。だからホタルもちゃんと言ってくれ」
「……うん、ありがとう」
ホタルは責任感が強く、そして抱え込む子だということを俺は知っている。
スピリットリンカーという心同士を繋いで気持ちを伝え合うスキルがあるので、本当にマズい時は伝わってくるメリットを活かさない手はない。
「次の町を越えれば国境だ。そこから先は敵地だから心安まる時は中々ないだろう。今度大きな町に着いたら、一度デートしようか」
「え、で、でも」
「大丈夫。色々できる事はあるさ」
「う、うん。そうだね」
さて、そんな話をしながら間もなく夜明けを迎えようとした頃、焼いて
「ゆ、勇者様ッ! 勇者様大変だっ!」
「そ、村長さん、どうしましたっ⁉」
村長が慌てた様子で駆け寄ってくると同時に、大量の灰が風とは違う何かに舞い上げられて竜巻のようなものを形作る。
「な、なんだありゃっ⁉」
『シビルさんっ大変です。あの灰からタイラントスパイダーの魔石と同じ魔力が。モンスターに変貌しますよっ!』
「なんだとッ⁉」
「どうしたのシビル君ッ⁉」
「あの竜巻はモンスターだ。全員構えろ。まだ戦いは終わっていないっ」
人の死体からできた灰から何故モンスターが作られるのか。
そんなモンスター、本編にいたか?
『げげっ、あ、あれはっ。まさか死神の巨人ッ⁉ またストーリー中盤の魔物ですよシビルさんっ』
マジかよッ。
本編のイベントバトル『死霊の呼び声』で戦うボスモンスターだ。
魔王軍復活の予兆として、ストーリー後半に差し掛かる時にこなすイベント。
こんな奴と戦うストーリーはスピンオフ小説にはなかった。
まただ。タイラントスパイダーの時と同じように、手順を無視したボス戦が始まってしまった。
死神の巨人だってこんな適当に出てきていいボスじゃないのに。
その時、俺が武器を構えると同時に、その前に立ち塞がって名乗りを上げるものがいた。
「シビル殿、ここは私に任せてくれないか」
「セイナ様」
「私は学んだ。シビル殿は立派で、強い御方だ。私は、そんなあなたに並べるような戦士になりたいと思うようになった。どうか、私に成長の機会を与えてほしい」
「……分かりました。危なくなったら助けます。奴の弱点は灰の体の中心にある光るコアです」
「承知した」
セイナは槍を構え、やがて形成されていく死体の灰で出来上がった巨大な人型に立ち向かっていった。
【スピリットリンカー発動 セイナ・グランガラスの魂と接続します】
これは……。
『どうやらセイナさんの感情が高まった結果のようです。パラメータがいつの間にか変わってますよ』
――――――
【セイナ・グランガラス(半龍人族)】女・龍騎士
――友好度【敬愛】
→スピリットリンカーの派生スキル獲得
取得スキル→【ステータスリンク】
※リンク元のステータスの一部を共有する。リンクする人数が増えるほどパーセンテージは高まる。
――――――
また新しいステータスが出現したな。敬愛ってのはゲームにはなかったパラメータだ。
だけどセイナの性格を考えると、この表現は非常にしっくりくるな。
しかも新しいスキルでセイナのステータスがアップした。
これは僥倖だ。
「シビル殿ッ」
「セイナ様?」
「私はっ! あなたに惚れた! 私も側室に加えてくれっ! 返事は戦いの後で聞くっ! 行ってくるぞっ!」
「あ、ちょっとセイナ様ッ」
『フラグっぽい言い方しちゃってますけど、あの顔なら大丈夫でしょ♪』
非常にスッキリした笑顔で戦いに臨むセイナ。
それはゲーム終盤で主人公に最高の感情を見せてくれるイベントと同じ顔だった。