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【死神の巨人】
LV35 HP2000 MP 0
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レベル帯は本編と同じくらいか。
敵キャラのステータスは設定はされているが公式には発表されていない。
内部では設定されているらしく、解析好きな動画投稿者が分析していたが、細かいことは流石に覚えていない。
『そこで妖精ミルメットちゃんの出番ですっ! 死神の巨人の細かいステータスを分析しちゃいましょうっ!』
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【死神の巨人】
LV35 HP2000 MP 0
腕力 280
敏捷 90
体力 330
魔力 0
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おお、なるほど。すげぇな。敵のステータスが丸見えだ。
これなら戦略も立てやすいぞ。
今の三人ではかなり厳しい戦いになるが、戦略次第では負けない絶妙なバランスだ。
いざとなったら俺も助け船を出せる。
この程度なら弱点の炎属性の魔法で一撃だ。
本来は風魔法や威力の高い攻撃で弱点を露出させ、コアに向かって弱点属性や高威力の攻撃を叩き込むのがセオリーの戦い方だ。
セイナは槍を構えて死体で出来上がった大きな人型に立ち向かっていく。
「てやぁあああっ!」
だが灰の塊で出来た化け物は、風斬り音と共にセイナの攻撃を無効化していく。
竜巻のように灰が人型の中に渦巻いており、中央のコアを破壊しなければダメージが入らない。
そこに辿り着くには体を取り巻く死体の灰を剥ぎ取らないといけない。
「くっ、攻撃が届かない」
死神の巨人は嘲笑うかのように攻撃を繰り出してくる。
アンデッドの巨人なので動きは
だがデカい分だけその回避は非常に困難なのは変わらない。
『オオオオオオオオオオオッ』
死者の呻き。地獄の底から這い上がってくるかのようなおどろおどろしい叫びを上げながらセイナを押し潰そうとしている。
「くそっ……攻撃が届かない。……私では、勝てないのか」
歯噛みするセイナ。防戦一方になりつつある状況が打開できないでいる。
「セイナちゃんっ!」
「フローラ?」
そこへ、それまで震えて動けなかったフローラが躍り出てくる。
「私も戦う。あれはセイナちゃんだけじゃ勝てない。私達全員の力を合わせないと、勝てないからっ」
「フローラ……分かった。サポートを頼む。勇者様……いや、ホタルも一緒に戦ってくれ」
「わかりましたっ!」
お、これは小説版第1章の山場。
敵の種類が町を襲ってきたキングリザードかどうかの違いはあるが、勇気を出し、心が一つになって強敵に立ち向かっていく描写が一致した。
『原作小説の流れからは外れてますけど、心は順調に成長してますね。これもシビルさんが鼓舞したおかげですね』
そうなっててくれると有り難いものだ。
「シビル殿、奴にコア以外の弱点はないかっ⁉」
戦いを続行しながらセイナがアドバイスを求めてくる。
俺はその場で自分の知識を共有する。
「風属性で灰を吹き飛ばしてくださいっ! コアの辺りが一番密度が濃いので連続使用が必要です」
耳元でミルメットが送ってくれたアドバイスをそのまま伝える。
こういう時にこいつの知識ってありがたい。言葉にすると絶対調子に乗るので後にしよう。
「分かったッ。フローラッ」
「はいっ!」
「ホタル、詠唱時間を稼ぐぞ」
「分かりましたッ」
「風圧で灰を吹き飛ばす。タイミングを合わせてくれ」
「はいっ」
セイナが指示を矢継ぎ早に、かつ的確に飛ばしていく。
さすが武人の家系だけあって、人を動かす力にも長けている。
「セイナちゃんッ、準備できたっ」
「よしっ。ホタル、外皮部分を技で吹き飛ばすぞ」
「分かりましたッ」
セイナの槍が光る。これはスキルが発動する兆候だ。
この世界には魔法の他にスキルがある。
使うのは魔力。武器に魔力を伝えて繰り出す技。それがスキルだ。
ホタルのブレイジングソードもその一つだな。
「いくぞっ、一斉攻撃ッ!」
「【ストームブレイザー】ッ!」
ブレイジングソードの要領で剣に魔力を通し、インパクトの瞬間に爆風を巻き起こすストームブレイザー。
「【暴風・崩岩撃】ツ」
槍の切っ先に風の塊が回転し、相手を吹き飛ばす技だ。
コアを守っている死体の灰が吹き飛び、もう少しで届きそうだ。
だが一手足りない。
二人の技が壁を吹き飛ばし、コアに届くまであと少し。
「【ゲイルバースト】ッ」
風の中級魔法、ゲイルバースト。緑色の渦が真っ直ぐに突き破る。
「セイナちゃんっ、ホタルちゃんっ、今ッ!」
「ホタル、最大威力の攻撃を」
「はいっ!」
二人の魔力が高まる。魔力が武器に伝わり、同時に飛び上がる。
「いっけぇええええっ! 【ブレイジングソード】ッ!」
「奥義【
奥義を放って炎をまとった二人の攻撃が最後の壁を突き破ってコアに突き刺さる。
すげぇ。ゲーム終盤で覚える奥義を使っちまってる。
『スピリットリンカーの影響みたいですねぇ』
「まだだっ! 粉々になるまで砕き続けろッ!」
コアは完全に破壊しないと再生する場合がある。
これは設定資料に書いてあったことだ。ゲーム内でも登場するこのモンスターは、聖属性以外の攻撃では何分の一かの確率で蘇生してしまうという現象があった。
それは恐らくコアが再生の力を持っており、オーバーキルくらいの力で砕かないとならないからだろう。
本来なら勇者のホタルには聖属性が備わるが、まだレベルが足りない。
「はぁああああああっ!」
「でやぁあああああっ!」
剣と槍の連撃がコアを何度も砕いていく。
再び死灰が集まり、彼女達を取り囲もうと迫ってくる。
「ゲイルバーストッ! ゲイルバーストッ! ゲイルバーストッ!」
フローラの魔法が連続で灰を吹き飛ばす。
コアの中心に入られると直接攻撃ができないらしく、死神の巨人は右往左往している。
「はぁあああっ!」
「倒れろぉおおおおっ!」
バキィイイイインッ!
怒濤の連続攻撃が、とうとうコアを破壊する。
フローラは魔法の連続使用によって魔力切れを起こし、コアが砕け散るのと同時に後ろに倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、……ああ、凄い……あんな凄いモンスター、倒しちゃった」
「フローラ様も素晴らしかったです。お疲れ様でした」
村人達にフローラの介抱を頼み、飛び上がって自由落下し、地面に落ちた二人の元へ急ぐ。
「セイナ様、ホタル、大丈夫か」
「はぁ、はぁ、はぁ……ああ、なんとか、な」
「えへへ……わたし、頑張った、よぉ……はあ、はぁ」
精根尽き果てる。そういう表現がピッタリだろう。
二人は魔力も気力も使い切って倒れ込んでいる。
なんというか、誇らしい気持ちになると同時に、もどかしい。
(俺も一緒に戦いたかったな……)
死神の巨人は中盤の魔物だ。カンストオーバーステータスの俺なら初級魔法を一発撃ち込めば倒せてしまう。
『おセンチな気持ちにもなりますよね。でも、シビルさんの目的は』
ああ。分かってる。
俺の目的は過程を楽しむことじゃないから、こんな感情を感じている場合じゃない。
「さあ、今度こそ大丈夫だろう。次に何か出ても俺がなんとかするから、今日はゆっくり休んでくれ」
そこまで言ったところで、二人は気を失った。
大好きなヒロイン達の健闘に心からの称賛を送るのだった。