王城の奥、玉座の間。
多くの兵士達を退け、俺達はこの場に立っている。
「くっ、どうなっているっ。いつの間にこんな」
「あんたが邪神の一派、四鬼衆の操り人形だってことは分かってる。出てこいよ鬼」
サイモン王子を追い詰めた。
そしてその奥から漂ってくる濃厚な邪悪なる気配。
神力を身につけたことによって一層敏感に感じとる事ができる。
四鬼衆は、確実に近くにいる。
「そこだっ」
鋭い針のように貫通力を高めたライトニングピアスをサイモン王子に向かって放つ。
「ぐわっ」
サイモン王子が座る玉座に隠れるようにしてこちらを見ていた黒い影が呻き声を上げる。
「くっ、何故分かったの……。気配は完全に消していた筈なのに」
現われたのは真っ黒な、人間ではない色をした黒い男。
モヒカンのような独特のヘアスタイルに筋骨隆々とした体躯。
なぜだかうねりのある声色で喋る、いわゆるオカマみたいな奴だった。
「聖なる光のお導きです」
「お、お前はッ」
「邪悪なる意志よ、正しき心を取り戻せッ、ホーリーライトッ」
「ぐわっ、ま、眩しいッ」
それは神聖なる浄化ノ光。彼女本来が持つ聖属性の魔法に、俺の神力が加わった、より完璧な浄化の力だ。
そう、この聖女ヒロイン、ミーティア・アルテミスによって、サイモン王子の正気を取り戻すんだ。
◇◇◇
~2時間ほど前~
インビジブルの魔法を使って国王様を始め、アナスタシア王女、スーリア王女を救出した。
そして俺は今、この国を出立する際に打っていた次善策の中心人物の元へと向かっていた。
そこは城の地下通路を通って市街地へと逃れ、城壁の外ギリギリの所にひっそりと作られた場所だった。
「ここは?」
「ここを出発する直前、不穏な気配を感じとった俺は事前にこの国で起こる事件に備えておいたんです。大規模な戦争を起こす国を止めるには、出来るだけ大きな組織を動かせる人の協力が必要だと思ったんです」
あの日、俺はこの国で打てる次善策として、ある人物とコンタクトをとることにした。
このアジトは彼女の協力を得て密かに建造したもので、魔王討伐の旅に出ている間に組織を拡大してもらっていた。
彼女の名前は……。
「おお、あなたは」
「お久しぶりでございます、国王陛下、両王女殿下。次期聖女候補として修行しております、ミーティア・アルテミスと申します」
小さな小さな女の子がそこにいた。
ミーティア・アルテミス。
マド花の聖女ヒロインだ。
お尻まで伸びたクリアブルーの髪。垂れ下がった眉と儚げな紫水晶のような瞳。
体は小さく、真っ白な修道服に包まれた体は少女のそれそのものだった。
しかし、この体は偽りの……おっと、今はそれよりもやるべき事がある。
「なんと。教皇猊下の跡継ぎであるミーティア様。彼女がこの組織の中心人物とは」
魔王討伐に出発する直前、ミルメットのアドバイスで次善策を打った。
その次善策とは……。
「シビルお兄様~~♡」
「うおっとっ。お待たせミーティア。ご苦労だったね」
「はいですわ♡ お兄様の言いつけ通りレジスタンスを組織しておきましたのっ♡ 秘密裏に軍隊から払い下げの武器も仕入れておきましたわっ」
「あ、あのシビル君、これは一体」
「ああ、そうですね、最初からご説明いたします」
俺はここに至るまでの経緯を、魔王討伐出発の日に遡って説明することにした。
◇◇◇
2ヶ月前のことだ。
それはこの王都にやってきて、王様に謁見した次の日。
実は王様と謁見してから旅に出発するまで1週間ほど王都に滞在していた。
俺はその1週間で彼女――聖女ヒロインであるミーティア・アルテミスに接触した。
実は彼女はゲーム本編開始前だと王都の修道院で修行しているから外には出てこないのだが、ある時期に1度だけ外に出て誘拐されるイベントが存在する。
それは現在の時間軸、つまりホタル主役のスピンオフ小説のイベントで、彼女はホタルの活躍によって救出されて事なきを得る。
だがミルメットがミーティアの気配を感じとり、丁度そのイベントが起こっている最中である事を探り当てたのだ。
これ幸いにと誘拐現場に乗り込み、ホタルと一緒に事件の解決に乗り出した。
そして本編登場前で無垢な少女であるミーティアをゲーム知識全開で攻略したのだ。
「スリスリ~♡ ああ、お兄様ぁ。わたくしの大切なお兄様の匂い♡ 2ヶ月ぶりのお兄様の匂い~♡」
「よくやってくれたなミーティア。エラいぞ。ナデナデしちゃうぞ」
「きゃううん♡ お兄様くすぐったいですぅ♡」
本編登場後のミーティアは、聖女としての使命に大真面目に取り組む堅物キャラとして登場する。
当然この時代の彼女も同じように堅物であったが、それは彼女本来の性格ではない。
真面目で融通の利かないフリをしているが、本当は教会というお堅くて自由の利かない組織の雁字搦めから解放されたがっている。
本編の彼女は成長した後なので、もう少し大人びた性格をしているのだが、この段階では今のように天真爛漫で無垢な少女だ。
『シビルさんってロ〇コンだったんですねぇ』
誤解を招くような事を言わんでもらおうか。
俺は彼女の成長した姿を知っている。だからこそ愛せるのだ。
それにこの世界じゃロリ〇ンは許される倫理観だ。
貴族が幼い少女の唾を付けて婚約するなんて当たり前。
まるでエロゲーみたいな倫理観だが、昔の地球でも似たような倫理観はあったみたいだから同じようなものだろう。
『言い訳乙って奴ですね。モノは良いようって言葉がピッタリですわ★』
やかましいってんだよ。ともかく攻略した後で発覚する明るくて開放的な性格の聖女ヒロインが大好きだった俺にとって、この状態こそ俺の求めていたミーティアの姿である。
話を元に戻そう。
王都奪還の超電撃作戦のために結成した秘密組織の中心となったミーティア協力のもと、邪神一派の動きを抑えてもらう。
「よし、作戦開始だっ」
そうして、事実上邪神一派に支配されている王城を取り戻し、サイモン王子を洗脳から解放する超電撃作戦の
◇◇◇
時間は現在に戻り、俺達はサイモン王子にかけられた邪神の洗脳を解いてその黒幕をあぶり出した。
「くっ」
「お前は四鬼衆だな。姿から想像するに黒鬼ってところか」
正体を見破られて我に返ったのか、黒い奴は歪めていた表情を整え、不適に笑い始めた。
「うふふふ、驚いたわ。聖なる力を操るその力、まさか教会の聖女が乗り出してくるなんてね」
「邪悪なる者よ、あなたの企みもこれまでです」
伝説の勇者パーティの聖女から受け継いだという聖なる杖を掲げ、黒い鬼に睨みを効かせるのだった。