よっしっ! 黒鬼の野郎を完全に消滅させることに成功した。
偽物の肉体を捨てて逃げ去っていった黒鬼だったが、そこはサーチ魔法の出番。
奴のニセの肉体を媒介にしてサーチをかけ、本体の居場所をすぐに特定した。
加えてミーティアが使う聖女の魔法で、より精度の上がったフローラのサーチ魔法によって奴の本体の居場所を正確に見つけ出す事に成功したのだ。
こいつらをのさばらせておく訳にはいかない。急いでサウザンドブラインに赴いてエミーを救出しなければ。
黒鬼の話じゃ、サウザンドブラインで暗躍しているのは赤鬼って奴らしい。
そしてもう一つ。既に黒鬼を生かしておく必要はなくなった理由がある。
「ふぅ。ご苦労さんミーティア、フローラ。おかげで四鬼衆を倒せた」
「お兄様のお力あればこそですわ♡」
「ミーティア様の魔法は素晴らしいです」
「情報は?」
「完璧です。黒鬼の記憶は完全に掌握しました。赤鬼の詳しい場所までは分かりませんが、時間さえかければ奴の知っている情報は全て引き出す事ができます」
ミーティアの聖属性の魔法は、邪悪なるものを屈服させる力がある。
斬り飛ばした黒鬼の肉体の一部から記憶を抜き取って情報を引き出す事ができるようになった。
それ故に奴を生かしておく必要はなくなったわけだ。
そうして、俺達は国の中で起こっていた混乱を収め、第一王子のサイモンは秘密裏に逮捕拘束された。
洗脳されて操られていたため、罪に問うかどうかは今後の検討が必要であるが、王位継承権の剥奪は免れないだろうとのことだ。
さて、ここでゆっくりと休みたいところだったが、そうもいかない事情ができてしまった。
それは戦いの後始末を兵士達に任せて一息つくために部屋で休んでいた時の事。
国王様やアナスタシア姫、スーリア姫は寝る間も惜しんで王城内の後始末に追われ、ようやっと一段落ついたところで食事に招待されたのである。
「この国のために尽力してくれたこと、誠に感謝したい。だがまだ気を抜くわけにはいかん。恐らくもうすぐサウザンドブラインから軍が押し寄せてくるはずだ」
「ええ。偵察部隊からの報告は?」
「多分もうすぐ来ると思うが……」
そう、まもなくサウザンドブラインから王都に向けて軍隊が襲撃してくる。
アルバート国王は混乱から立ち直ったばかりの兵士達を鼓舞し、すぐに王都の南に位置する平原に国軍を布陣させるように指示を出していた。
「国王様ッ」
「来たか」
「ハッ。サウザンドブラインの方面から見渡す限り。魔物との混成軍です。数、およそ3万」
「3万か。国軍でギリギリ対応できるかどうか」
魔物との混成軍か。それも情報通りだな。
「ならば、まともに戦っても勝ち目はあるまい」
「ええ。恐らく指揮系統を破壊しなければ、数に押し切られてしまいます」
国軍の全兵力はおよそ5万。その中で戦闘兵は7割程度。残りは衛生兵や補給、輸送部隊など、戦闘サポートだ。
割合は向こうも同じはずだが、魔物との混成軍となると赤鬼の洗脳力は更に厄介だ。
「ガイスト……。洗脳の影響とはいえ、奴ほどの男が敵になってしまうとは。勝てるかどうか」
「勝つ必要はありません。国軍はサウブラ軍を抑えておいてください。その間に俺達が潜入します」
「なるほど。魔龍帝に乗って上空から乗り込めば敵軍を通過できるというわけか」
「そうです。ついで俺達が潜入したらサダルゼクスには敵の背後を突いてもらいましょう」
「分かった」
「国王様ッ。敵軍が迫ってきます」
「よし、防衛戦だ。各将校に伝達。命を最優先にし、なんとしても国民を守れ」
「ははっ!」
「よし、俺達は少数精鋭でいこう。ホタル、セイナ、フローラ。ここに残って防衛戦のサポートを頼む。前線に出る必要はないからな」
「分かりました我が主」
「シビル君はどうするの?」
「言った通りだ。サダルに乗ってサウブラ軍の上空を通り抜ける。赤鬼を探し出して倒す」
「国民達の混乱は教会がお引き受けいたしますわ。お兄様は心置きなくエミリア嬢の救出を」
「頼むぞミーティア。すぐにでも行動した方がいい。行ってくる。黒鬼の分析を一刻も早くたのむ」
「かしこまりました」
そうして俺はすぐに行動を開始した。
透明化を施したサダルを駆ってサウザンドブライン領に向けて出発する。
待ってろエミリア。必ず助け出してやる。