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第99話狡猾な罠は看破するもの

「こちらです。お急ぎくださいルインハルド様」


 メイドのアミカの案内でサウザンドブライン邸の地下にある罪人を捕らえる牢屋に向かう。


 流石に地下牢に入ったことはないので案内してもらうしかなかったが、その気になればサーチの魔法で居場所は特定できる。


 ミルメット、エミーの場所を特定しておいてくれ。

 アミカさん、多分洗脳されてる。


『了解です。たぶんこの奥にいるエミリアちゃんは偽物ですね。絶対罠なんで気を付けてください』


 ああ、分かってる。

 アミカさんの安全を確保したいから迂闊な行動はできない。


 考えなしに浄化すると相手の出方が見えなくなる可能性もあるしな。


 実はつい先ほど、移動している最中にミーティアからテレパシーで通信が入ったのだが、黒鬼の記憶から四鬼衆の実体を吸い出す事に成功した。


 時間がなかったのでこのサウザンドブライン領の中で何をしようとしているのか。


 その計画の部分だけを抽出してもらい、黒鬼が知っている限りの赤鬼の情報を教えてもらった。


「ここです。エミリアお嬢様、ご無事ですか?」


 地下の一番奥にある、もっとも堅牢な造りをした鉄格子の向こう側に、ドレスを着た少女が鎖に繋がれていた。


『気を付けてください。エミリアちゃんそっくりですけど、メタモルスピリットって人の姿を真似るモンスターです』


 バリバリの偽物だな。まあ俺がエミーを見間違えるのは有り得ないので、見た瞬間に偽物だと分かる。


 ゲームだとプレイアブルキャラの能力をそのままコピーして大技も使ってくる厄介な敵だ。


 だが……俺はこいつの対処方をよく知っている。


「エミーッ、無事だったか」

「シビルちゃん、来てくれたんだ」


 性格までそっくりだな。仕草の一つ一つも全く同じで、偽物だと知っていなければ騙されていたかもしれない。


 ちょっと前の、ゲームの中で見るエミリアしか知らない俺だったら騙されていた。


「シビルちゃん、大変なの。アルフレッドがお父様を洗脳して、フェアリール王国に戦争しに」


「ああ、分かってる。奴は陣頭指揮を執っているのか?」

「そうみたい」


 その瞬間、予想通りアミカが俺の背後から羽交い締めをし始め、偽エミリアは手に持っているアイテムを俺の首に填めようと迫ってきた。


 直感的に危険を察知し、エミリアの手首を掴む。


「グッ、クソッ」


「そいつは、隷属の首輪か。なるほど。本物のエミリアもそいつで操ってるって訳か」


 メタモルスピリットはコピーした本人の思考を真似る。

 ただ闘争本能が剥き出しになるので味方になることはないのが玉に瑕だ。


 聖獣や神獣を操るミーティアなら、能力の開花の仕方次第では手懐けられるかもしれないな。




『でもシビルさん、思考はエミリアちゃんと同じなので、やり方次第では』


 そうなのだ。一つだけ例外がある。それがエミリア編でのイベントだ。


「エミー」

「え、ぁ……」


 俺は羽交い締めにしているアミカを振りほどき、首に巻かれている隷属の首輪に浄化ノ光を当てる。


「ァッ……」


 ガチッと音を立てて首輪が外れ、そのまま気を失う。


 偽エミーは驚いたように動きを止め、俺はその隙に彼女を抱きしめた。


「ひあっ、あっ」

「エミリアをコピーしたなら、分かるだろ? お前は俺に手出しはできない」


「ぁ…」

「なぜならお前はエミリアだからだ。俺の知ってるエミリアはどうあったって俺を傷つけるようなマネはしないだろ」


「ぁう…シビル、ちゃん…」


 メタモルスピリットの弱点。それは本人とリンクしすぎるが故に、思考までそっちに寄ってしまうことだ。


 逆に言うなら…。


「エミー」

「ダメ、私にシビルちゃんを傷つけることなんてできない」


 思った通り。ゲーム本編でもこいつがヒロインの偽物として登場する場面がある。


「そうだろエミー。いくらコピーだからって、お前はエミリアの思考をしている。だったら俺に対する感情も同じように感じているだろう?」


「そう、感じてる。このエミリアって子、ずっとずっとあなたのこと思ってた。自分が偽物であることが悲しくなるくらいに」


 やっぱりな。ゲームのエミリア編のイベントと同じ反応だ。


「お願いシビルちゃん、私を殺して。アルフレッドの洗脳魔法で、私はシビルちゃんを攻撃してしまう」


「君はエミーなら、俺がそんなことできる筈ないって分かってるだろ。心配するな。そいつが邪神の力なら、こうして」


 俺はコピーエミリアをしっかりと抱きしめ、神力を込めて浄化ノ光をかけた。


 でもこれは他の奴らにかけた攻撃的な浄化とは違う。


 ゲーム本編で、エミリアのコピーは本人の意識により過ぎて敵意を失い、最後は主人公を庇って死ぬというイベントがある。


 メタモルスピリット自体はフィールド戦闘でもゲーム終盤には普通に出現するが、イベントで死ぬ個体は特殊な事例だ。


 恐らく彼女はそれと同じで、コピーした本人の意識に寄り添いすぎてしまう特殊な個体なのだ。


 だから植え付けられた攻撃の呪いさえ解除してしまえば、俺にとっては敵じゃなくなる。


 それどころか仲間になれば結構頼もしいかもしれない。


「ぅわぁ…ぁ、ぁあ」

「気分はどうだ?」


 神力特有の淡いグリーン色に光ったコピーエミリアの抱きしめる力が強くなる。


 やがてスッと脱力し、ウットリとした表情でこちらを見つめていた。


「うん。すごくスッキリした気分。ありがとう。こんなに良い気分は生まれて初めてだよ」


「どうだエミー。俺と従魔契約しないか? このままコピーを解除したらそのまま理性を失ってしまうだろ?」


 メタモルスピリットは本体の意識はなく、人格をコピーすると意思を持つ。


 だが、今の俺が従魔契約をすれば、それを解決できる可能性は十分ある。


「うん。お願いシビルちゃん。私をあなたのシモベにしてほしい」


 よし、従魔契約を発動。サダルやエネルのように魂同士が繋がれば、固有の意志を持てるはず。



「んっ、んんんっ、あ、これ、温かい……。私、初めて自分の意志を持った気がする。お願いが、あるの」

「なんだ?」


「名前、付けてほしいの。今の私はエミリアのコピー。ご主人様に名付けしてもらったら、もっと強くなれる気がする。あなたのために役に立ちたい。支配契約して」


「よし、いいぞ。そうだな、せっかくエミリアのコピーとして出会ったんだ。エミリアの分身、エリアでどうだ?」


「エリア、素敵な名前。そうするね」


 すると、エリアと名付けたメタモルスピリットの体が青白い光に包まれた。

 高温の炎のようで、水の揺らめきでもあるような柔らかな光だ。


――――――


 メタモルスピリットが進化。


【エリア】→神の眷属として上位進化。

 ヴァリアブル・スピリットとして支配契約


――――――


 おお、初めて聞く名前だ。サダル達みたいに上位種族に進化したみたいだな。


 ヴァリアブル・スピリットなんてゲームにはいなかったし、名前も格好いい。


 どんな事ができるんだろうか。


「よし、エリアの知っている事を教えてくれ。エミーを助けにいくぞ」

「うんっ!」


 新たな仲間、エリアと共にアルフレッドの後を追うこととしよう。

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