罠を看破して新たに仲間になったエリア。
気絶したアミカさんを介抱し、放置することはできないので客間のベッドに運んだ。
「ご主人、この子の体、しばらく借りられないかな」
「どういうことエリア?」
「このままここに放置するのは危険だし、連れて行くのも危険。でも私が憑依して魔法を使えるようになれば、最低限身を守れると思うの」
「なるほど。それは名案だ。アミカさんには申し訳ないが同意を得ている時間はない。エリア、やってくれ」
「うん、じゃあ借りるね」
エリアの体が煙のように霧散し、霧の塊がアミカの体を包んでいく。
「エリア、魔法はどのくらい使える?」
アミカの体に乗り移ったエリア。手足の動きを確かめながら感触を慣しているようだ。
すると彼女の姿が徐々に変わっていく。
アミカはもともと背中まである銀色のロングヘアで、柔らかな性格が表れている垂れ下がった瞳と整った顔立ちが特徴の美人だ。
それが徐々にエミリアの特徴である栗色に変化し、ケモミミが生えてくる。
背丈が小さくて巨乳であるトランジスタグラマーのエミリアと違い、ちょうどエミリアとアミカの中間のような特徴を持ったまったく別人の美人が誕生した。
「コピーしたエミリアがベースになってるから基本的なことはおおよそできるよ。回復魔法もバッチリ」
「さすがメタモルスピリット。いやヴァリアブル・スピリットか。何か前と違う事はできるようになった?」
「うーん、多分だけど精霊魔法がオリジナルと同じ感覚で使えるようになったかも」
「え、それは凄いな。よし、行きながら話そう。エミーの元へ急ぐぞ」
「待ってご主人。その前に、行っておきたいところがあるんだ」
「どうした?」
エリアは何かを知っている。俺は彼女の案内でエミーの部屋の隠し部屋へと戻った。
「これって、隠し通路か」
ここはサウザンドブライン家の緊急避難用の隠し通路のようだ。
その下には階段が続いており、更なる隠し部屋へと続いていた。
そこで俺達は驚きの人物と再会することになる。
「まさか、ルルナ姫」
「シビル君、シビル君なのねっ」
フェアリール王国第3王女、ルルナ。
マド花の王女ヒロインだった。
◇◇◇
【sideエミリア】
質の悪い馬車での移動を初めて数日。
アルフレッドはフェアリール王国侵攻のために進軍を開始した。
彼の魂の色は日に日にドス黒く、粘り気を帯びるような気持ち悪い揺らぎをするようになった。
私は日に1度は暴力と精神的陵辱を受け、さすがに心が疲弊してしまっていた。
(早くシビルちゃんに会いたい……)
戦争が始まれば逃げ出すチャンスはあるかもしれない。
でも魔力が封印されている今ではどのみちモンスターはおろか、兵士に囲まれても切り抜けられるかどうか。
あとは事前に打った作戦が上手く行けば、ルルナちゃんとシビルちゃんが接触しているはず。
アミカは上手くやっているだろうか。
実家に襲撃を受けた際、私はすぐにルルナちゃんをアミカと共に隠し部屋に避難させた。
恐らくあそこなら見つからない筈だけど、捕まって洗脳されてしまったら作戦は台無しになってしまう。
シビルちゃんならきっとなんとかしてくれる。
まだ私の切り札はバレていない。シビルちゃんから託された裏ダンジョンのアイテムがまだ手元に残っている。
大丈夫。絶対に上手くやる。私は助けを待つだけのお姫様じゃない。
本当はシビルちゃんに格好よく助けてほしいけど、世界の全てを救済する使命がある彼にそんな負担はかけられない。
私も上手くやらなきゃ。
――ガタンッ
「止まった……」
馬車が止まり、周りが騒がしくなる。どうやら戦場の陣地に到着したみたいだ。
兵士に外へと連れ出され、陣地に設置されたテントの中へと連れて行かれた。
彼らはサウザンドブライン家の私兵達だ。彼らも残らず洗脳されてしまった。
私の事が分からなくなってしまっているのは明白だった。
「ご機嫌ようエミリアお嬢様。ご気分は如何ですか?」
「ええ、すこぶる快調ですわ」
腕を鎖で締め付けられ、繋がれた首輪が皮膚に食い込む。
この男の狂気は日に日に酷くなっていく。
昨日は気絶するまで殴られた。
体内魔力の循環でも追いつかないほどのダメージが蓄積し、体の痛みを和らげるのがやっとだった。
それに、話を聞く限りシビルちゃんの体を手に入れようとしているらしい。
そこから想像できるのはシビルちゃんとしか経験できない異世界の行為。
それを入れ知恵している何者かがアルフレッドのそばにいる。
この男は時折誰かと会話しているかのような独り言を喋っている時がある。
多分それが黒幕だと思う。アルフレッドが自分でクーデターを起こすなんて大それた事ができるはずがない。
彼をおかしくした何者かが必ずいる筈なんだ。
それを必ず暴いてやる……。