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第102話戦闘開始

【sideホタル】


「来たッ! 敵軍が侵攻を開始しました」


 物見の兵士からの報告で、私、セイナさん、フローラさんの顔に緊張が走る。


 モンスターとの混成部隊をメインとしたサウザンドブライン軍が、いよいよ王都へと攻め込んできた。


 それは普通の戦争のていを為しておらず、整列もなにもない、文字通りの侵略だった。


「隊列を組んでいない分だけ敵の動きが読めん。これは厄介だぞ」


「私達は遊撃部隊です。危なそうな所から攻めて敵の戦力を減らしましょう」


 シビル君から甘露の水差しは預かっている。


 アイテムは出し惜しみなく使いまくっていいと言われているので、彼から預かった多くのアイテムを私達3人で訳あって持っておいた。


 フローラさんは魔力の回復。セイナさんは体力の回復がメインだ。


 消費型の回復アイテムも併用し、私は全体を見渡しながら甘露の水差しで兵士達を回復させつつ敵を遊撃する。


「よぉおしっ、いくぞっ! フローラッ、頼むッ」

「うんっ! 力よ、漲れッ【フィジカル・エンチャント】」


 セイナさんの号令で一兵団が前進を始める。

 同時にフローラさんの身体強化魔法が広範囲に広がり、漲った力を振るって敵に向かっていく。


 私達の立てた作戦は至極単純。全体で守りを固めながら攻撃部隊で前進と後退を繰り返すのみ。


 幸いにして敵軍は正面にしか展開していない。


 防衛ラインを守りつつ敵の進軍をひたすら食い止める。

 そのうえで冒険者を中心とした遊撃部隊がモンスターや敵兵を攻撃する。


「せぇええええええやあああああああっ!」


「なんだっ。デカい女が突っ込んでくるぞっ」


 セイナさんの迫力に押された敵兵がひるみ、地面に叩き付けた槍が爆風を起こした。


 ドゴァアアアアアアアアアアアアアアンッ!


「うわぁあああああっ!?」

「ぐぁああっ!?」

「ギャァウウウウオオオオオオッ!」


 人もモンスターも同様に一撃の爆風に舞いあげられていく。

 セイナさんは相手を確実に絶命させるように力いっぱい技を振るった。


 例え操られているとしても、敵である以上手加減はできない。


 相手の数が多すぎるのもあってそんな気遣いをしている余裕はなかった。


「第1部隊後退ッ」


 槍と盾を構えた攻撃部隊が防御しながら後退する。

 入れ替わりに私が先頭に立った部隊が前に出て攻撃を開始した。


「守りを固めて各個撃破してください」


『おおおおおっ!』


 兵士全体の士気が高い。加えて向こうは統率が取れていないのか動きはバラバラだ。



 戦争のやり方なんて知らないけど、あれだけ動きがバラバラでは統率の取れたこちらの軍に負ける要素はないように思える。



(ホタル、聞こえるか?)

(セイナさん、どうしましたか?)


(物見から敵の陣地に動きがあったと報告がきた。何か仕掛けてくるかもしれん。気を付けろ)


(分かりましたッ!)



 こういう時テレパシーで直接会話できるのは大きい。


「気を付けてください。敵が何か仕掛けてきますッ!」


「分かりました。全員防御態勢ッ」


 隊長さんの号令で攻撃から防御の構えをとり、敵の動きに伺う。


 敵の波が左右に割れ、これまでにないほどの統率された動きを見せた。


 そこで空気が変わった。


 波の向こう側に、寒気のような冷たい気配を放つ存在が馬のようなモンスターに乗って向かってくる。




「セイナさん、フローラさんっ! 集まってくださいっ!」


(分かっているっ! すぐに向かうッ)

(一体なにがっ⁉)



 私の呼びかけに2人の緊張が高まったのが分かる。

 それだけ呼びかけた声に緊迫感が乗っていたのだろう。


 それもそのはず……。


「あなたは」


「しばらくぶりだな、勇者一行よ。あの男のいない隙を突くのは本意ではないが、これも役目。覚悟してもらおう」


「青鬼のバンシーっ!」


 それはシビル君が倒した筈の四鬼衆、青鬼のバンシーだった。


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