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第103話赤き黄金の龍

【sideセイナ】


 ホタルの急報を受けて敵陣の前に急いだ私達の前に現われたのは、主によって倒された筈の青鬼のバンシーだった。


「ホタルッ! フローラッ」


「力よッ漲れッ、極限魔法【スピリット・エンパワーメント】」


「極限スキルッ【ブレイブハート】」


「【龍真化・ドラゴニックアーツ】!!」


 青鬼のバンシーがどういうわけか蘇った。

 だけど私達はそれに対して狼狽えたりしなかった。


 すぐさま最大奥義を発動。全力全開の攻撃を間髪入れずに仕掛ける。


「うおおおおおっ、ブレイジングソードッ」

「煌龍絶華ッ!」


「むぅっ」


 推進力を得たホタルの技がバンシーの足下を狙う。

 一撃必殺の技を避けたところに、私が頭上から煌龍絶華の一撃をお見舞いしてやる。


 心の繋がりで連携の順番を一瞬にして構築した私達は、どちからともなく下をホタル、上からの攻撃を私で担当した。


 そして二つの攻撃で弱らせたところに、フローラの貫通力と攻撃力の高い魔法でトドメを刺す。


 なぜならバンシーは私達がまともに戦って勝てる相手ではない。


 主様が一気呵成にたたみ掛けたのは、奴の戦力差が油断できないレベルで逼迫していたからだった。


 だから私達は不意打ちで大ダメージを与えなければ、活路を見出す事が出来ないだろう。


「甘いッ! かぁああああっ」

「うえっ⁉」

「なにっ⁉」


 だがバンシーは、裂帛の気合いと共にホタルの横薙ぎの一撃を足の踏み込みでせき止め、私の煌龍絶華をはじき返した。


「くっ」


「水流掌底波ッ」


「ぐふっ、おおおおっ」


 最大奥義をはじき返され、大きな隙を晒してしまった腹のど真ん中に凄まじい衝撃が走る。


 一瞬にして体が向かってきた方向とは真逆に吹き飛ばされてしまい、内臓が飛び出そうなダメージを受ける。


「セイナさんっ」

「よそ見をしているヒマはないぞッ」

「きゃぁあああっ」


 視界が暗くなりそうな私の耳にホタルの悲鳴が届く。


「ホタルッ」


 なんとか意識を保った私の視界にフローラに襲い掛かるバンシーが移る。


 ドラゴンの翼を目いっぱい広げ、体を反転させて空中を闘気で蹴り出す。


「バンシーッ!!!」


 フローラに攻撃を仕掛けようとするバンシーを止めようと、私は決死の覚悟で特攻を仕掛けた。


「ははははっ! それでこそ勇者達よっ。かかってこいっ」


 愉快そうに笑うバンシーに向かって攻撃を仕掛けるも、奴は余裕綽々で距離を詰めてきた。


「なにっ⁉」

「むんっ」


 再び掌底突きを胸に喰らってしまい、心臓が悲鳴を上げる。


「あぐっ、くぅ」


 飛び上がっていた体が空中で停止し、髪を掴まれて地面に叩き付けられた。


「ぐあぁあっ」


 つ、強い。やはりまともに戦って勝てる相手ではない。


 だが諦めることなどできるはずもない。繋がった心の波動で誰1人諦めていない事が分かる。


「まだまだっ!」


「おっとっ」


 槍を振る上げ、切っ先を顎がかすめていく。


「せりゃりゃりゃりゃりゃっ! せいやぁああっ」

「むっ、いいぞ、攻撃に鋭さがでてきた」


 大技は当たらない。だとしたら速度重視の攻撃を当てていくしかない。

 私は鈍重だからあれだけの素早い攻撃を避けることはできない。


 だったら攻撃を受ける覚悟で速度のある技で隙を作るしかない。


「だが甘いッ」

「なにっ、うわぁああっ」


 だが突き出した槍の穂を掴まれて引き上げられてしまう。

 咄嗟に槍を手放し、徒手空拳による攻撃に切り替える。


「良い判断だ」


 バンシーの顔がニヤリと笑い、奪い取られた槍の柄で後頭部を打ち付けてきた。


「うぐっ」


 ダメだ、まるで刃が立たない。全力状態の体術をもって何度も応戦するが、バンシーは子供の遊戯に付き合うようにいなしてしまう。


 だがホタルとフローラから引き離すことには成功した。


 一番耐久力のある私がこいつを引きつけ、2人の回復の時間を稼がなければ。


 ちらりと見やれば、私の意図をくみ取ったフローラが倒れているホタルに甘露の水差しを使っていた。


「でやぁあああっ」

「むんっ、くくっ。いいぞ龍騎士よ。もっともっと私を楽しませろッ」


 完全に遊ばれている。私達が手間取っている間に王都に迫るモンスター達はドンドン前進を続けていた。


 このままでは王都に敵軍が入り込んでしまう。


 我が主との約束だ。絶対に犠牲を出すわけにはいかない。


「せいやぁあああっ」

「むおっ⁉」


 攻めあぐねている私の元へ復活したホタルが加勢してくれた。


「このままではじり貧です。1度態勢を立て直しましょうっ」

「ダメだっ。私達が下がったら一気に攻め込まれてしまうっ。なんとしてもここで食い止めなければっ」


「ご立派なことだなっ。だが私を止めている間にも王都の防衛はどんどん苦しくなるぞっ」


 バンシーの言うとおりだ。高笑いしながらこちらを攻め立ててくるが、決定打には至らない。


 奴の戦闘力を考えれば決着はすぐにでもつきそうなのに、いたぶって遊んでいるのか?


 それとも他になにか狙いが……。


「ぼんやりしている時間はないぞっ。もっと私を楽しませろッ」


 気が付くと青鬼の体がドンドン大きくなっていく。

 あれは、主がトドメを刺そうとした時に変身しかけていた姿だ。


「ライトニングピアスッ」


「むっ。邪魔だっ」


「きゃぁあああっ」


「フローラッ」


 私の危機を救おうと魔法を仕掛けたフローラだったが、返り討ちにあって吹き飛ばされた。


 私は慌てて翼を広げて後ろに回り込む。

 城壁に激突しかけたフローラを受けとめ、気が付けば城門付近まで追い詰められてしまっている事に気が付いた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「くくっ、よく頑張ったがここまでのようだな。やはりあの女神の使いでなければこの程度か。3人まとめて始末してやる」


 バンシーの手の平にドス黒い魔力が集まっていく。


「これまで……かっ」


「死ねぇえええええっ、なにっ⁉」


 ズドォオオオオオオオンッ!


 黒い魔力が解き放たれようとした一瞬手前、突如として爆風が視界を覆う。


「な、なんだっ」

「今のはっ」

「青鬼が」


『情けない顔をするなおぬし達。我が主の眷属がこの程度の相手に苦戦するとは情けないぞ』


「りゅ、龍帝陛下ッ」


 青鬼は龍帝陛下の巨大な足に踏み潰されていた。


「ぐ、おおっ、き、貴様はっ」


『ふんっ』


 大きな足を払いのけた青鬼を笑い飛ばし、素直に足をどけている。



「はははっ。久しぶりだな龍帝サダルゼクス。邪神様の祝福で魔に染まっていればよかったものを」


『貴様にはあの時の大きな借りがある。龍帝たる我を邪に染めてくれた礼はたっぷりさせてもらうぞっ』


「はははっ。そのデカい図体で私のスピードについてこられるかな」


 龍帝陛下は青鬼を鼻で笑い、私達を背中で庇うように立ちはだかってくれた。


『ふん、そのことか。ならば同じ条件で戦ってやろうではないか』


「なに?」


『おお……ッ、おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』


「な、なんだっ⁉」

「龍帝さんの体がッ」


 突如として龍帝陛下の体が眩い黄金色に光り出し、私達の視界を包んでいく。


「こ、この猛烈な波動は」


 凄まじい風と熱量が辺りを包み、龍帝陛下の威圧感がドンドン高まっていく。


 それなのに体積はドンドン小さくなっていく。それこそ1人の人間のような……。


「え、えええっ⁉」

「そ、その姿は」

「まさか、人化した?」


「そ、その姿は……やはり女神の使い。油断ならぬ」


 小さく、金色髪の少女が立っていた。


 少女の額には、龍帝陛下の証たる真っ赤な宝石が輝いていた。


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