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第104話圧倒的龍帝

「お前達、城に迫った魔物共はあらかた片付けた。残りの掃討はお前達だけでも十分だろう。邪妖精は我に任せるがいい」


「りゅ、龍帝陛下なのですか。そ、そのお姿は」

「我が主がパワーアップするのと同時に出来るようになったらしいな。疲労する機会をずっと待っていたところだ」


 龍帝の変化はホタルたちを驚愕させた。

 黄金色の髪と華奢な肩、全体的な印象はまさしく少女。


 しかし鋭い眼光と両側から生えた大きなツノ。そして額に輝く赤い宝石が、普通の人間ではない事を示していた。


「驚いたぞ魔龍帝。まさか人の姿に進化するとはな」


「あのまま踏み潰してもよかったが、貴様には大きな借りがある。せっかくなら同じ人の姿でこらしめてやろうと思ってな」


「自惚れおって。そのような矮小な姿になってなんのつもりだ。舐めているのか」


(違う……。この小さな体にとんでもない量の闘気が閉じ込められている。これは、ひょっとすると我が主に匹敵する力……)


 セイナはその小さな背中を見て驚愕していた。


(それに、この方の持っているのは魔力、闘気、それに)

(神力だよね)


 龍帝の体内から溢れてくる身に覚えのある感覚に、ホタルたち3人はスピリットリンカーの繋がりを一層強く感じとった。


「さあお前達ッ、ぼやぼやしているヒマはないぞ。既に城に迫っているモンスターが兵士達を圧倒している。我が主の願いを忘れるな。1人として犠牲を出してはならぬぞ」


 その言葉に3人の顔付きが変わる。


「行こうッ、セイナさん、フローラさん」

「応ッ」

「行きましょうッ」


 それぞれの役割を思い出し、直ぐさま切り替えて行動を開始する。


「ふっ……さすがは我が主の眷属達よ。己の未熟さを即座に理解してできる事に行動を切り替えるとは」


「たった1人で私を相手にするつもりだったのか」


「あの3人では貴様には対応できぬ。自分達が足手まといになることを理解しているのだ」


「くっく……なるほどなるほど。未熟。しかし伸びしろは無限にある厄介な者どもだ。なんとしてもこの場で仕留めておかねばならんな」


「我を相手にしてそんな余裕が保てるかな。我が主より与えられし神龍の力、とくと味わえッ」


「なにっ、しんりゅ――ぐはっ⁉」


 小さな体は一瞬にして青鬼の視界から消失し、空気の揺らめきを残すほどの超高速移動で迫ってくる。


 だが青鬼はそれを自覚することができなかった。

 その数瞬前には腹の中に拳が叩き込まれていたからだった。


(う、動きが見えなかった……だが、攻撃の重さはあの男には――)


「なにっ⁉」

「【龍八卦・無拍子】」


 腹に突き刺さった拳が引き抜かれたのを自覚した次の瞬間、次の衝撃が体を吹き飛ばした。


「おごっ、おおおっ」


 感覚神経がダメージを自覚するより体が吹き飛んだことを理解する。


 一瞬後に内臓から全身に広がっていく凄まじい痛みが体を硬直させる。


(お、おのれっ。完全戦闘形態に変身したのにこのダメージ。一撃目はこちらの目を欺くためのフェイクか)


 フェイクをもってしてあの威力かっ!

 この女、小さな見た目に反して技の威力も速度も凄まじすぎる。


「どうしたっ。3人を圧倒した力を出してみろッ」


(既に出しているッ。おのれぇ、この力、やはりあの男に匹敵するぞ)


「舐めるなっ!」


「龍八卦・気弾掌」


「ぐおああああっ」


 顔面に鋭い痛みが走る。距離をとろうした瞬間に飛び道具が迫り、顔面を思い切り殴られたようなダメージを受けた。


「おのれっ、ファイアボルトッ、はぁあああああ」


「はははっ! そんなものは避けるまでもないッ」

「なにっ⁉」


 隙を作るためにカウンターで炎魔法を連射するも、避けるまでもなく突っ込んでくる。


「くっ、攻撃だけでなく、防御力も凄まじい。ならばっ」


 バンシーは闘気を溜め込み、正面からサダルを打ち据える。


「むおっ」


 拳の一撃が爆風を作り出し、視界が土煙に覆われる。

 気配を辿って辺りを見回すと、上空に飛び上がったバンシーがこちらを見下ろしているのが見えた。


「一瞬であんなところまで。むっ」


 それは夜空の恒星が地上に降り立ったかのような青白い巨大な光球であった。



◇◇◇


「な、なんだあれはッ⁉」

「まさか、龍帝陛下が?」

「いえ、この邪悪な気配は青鬼です。あれはマズいよ」


 それは遠くに移動したフローラ達にも視認できるほどの大火球であった。

 魔物はあらかた倒した。


 まもなく王都の防衛は完了するかと思われたその瞬間、勝利の予感は絶望の予感に変わる。


「いくら陛下でもあんなものは」

「私達も加勢にっ」


「ダメだよっ。私達が行っても何も変わらないっ。私達は役目を果たそうっ」


 ホタルは加勢に行こうとするセイナとフローラを呼び止め、残り僅かとなった魔物を斬り裂く。


「私達は陛下から王都を任されたんだよ。それならやることは一つだけ。全部守るんだっ。陛下を信じようっ」


「ホタル、そうだな。よしっ、敵は残り僅かだっ。皆の者っ、奮起せよっ! 勇者と救世主に恥じぬ戦いをせよっ」


『オオオオオオオオ!!』


 フェアリール王国軍はホタルたち勇者の鼓舞に奮起した。


 残る魔物達は勢いを増した人間に圧倒され、その数を減らして行く。


◇◇◇


「あんな技まで使えるとは。起死回生の大技といったところか」


「ふはははっ! 油断したなっ。その通りだっ。これを使ってはこの後戦うことはできなくなる。だが、この最大奥義は簡単に防げまい。良ければ王都は壊滅する。受け止めるしかないぞっ!」


「……」


「何も言い返せぬか。ならばそれもよしっ。この王都ごと、消えてなくなれぇええええっ」


 渾身の力を込めた青鬼のバンシー最大の奥義が振り下ろされる。


 超巨大な光球の一撃は既に回避不可能。

 だが龍帝は表情一つ変えることなく、その攻撃を受け止めた。


「ふははははっ! 無駄だッ! あらゆるものを蒸発させる超高熱の火球。我が奥義は受け止めることなど絶対に不可能。そのまま消し炭になるがいいっ」


「はぁあああああああああああああああああああああああああああっ」


 龍の翼を広げ、空中に浮かび上がったサダルゼクスの腕が煌々と光り始める。


「龍の息吹をしかと見よっ! 神龍絶技【滅魔の業火】」


 轟ッ!!!!!


「な、なにっ⁉」


 青白い大火球は一瞬にして突き破られた。真っ直ぐ真っ直ぐに伸びてくる光の坑道がのごとく、何者も阻むことができない黄金色の大槍が迫ってきた。


「うおおおっ、ぬぐっ、うわぁああああああああああ」


 一瞬にして大火球は消滅し、貫き迫ってくる光槍を受け止める。


 だがそれはまったくの無駄であった。受け止めようと突き出した腕は触れた瞬間に蒸発し、青鬼のバンシーは爆風に押し込まれて上空へと舞い上がっていった。


「ぬぐぁあ、ぁ、あああああっ! おのれっ、せっかく蘇ったというのにっ。更にパワーアップしたというのにっ! やはり女神の使いは危険ッ。すぐにでも絶滅、ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 青鬼のバンシーは消滅した。今度は蘇ることが絶対に不可能なほど完全に、チリ一つ残さず消え去ったのであった。

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