そして
「この
そう言って、
主人は喜んで、
「これは良い。派手だし、分かりやすい。是非うちで働いてくれないか。
魯乗は丁寧に礼を返し、
「気に入っていただいて何よりです。それよりも、給金は普通で構いませんから、宣伝を盛大にやっていただきたいのですが」
主人が不思議そうな顔をする。
「言われずともそうするが、何か事情でも?」
すると魯乗は、精一杯悲しげに肩を震わせて
「実はこの娘、家族と生き別れになっていまして、この
と礼をする。萍鶴もそれに
主人は慌てるように手を振り、
「それは気の毒に、苦労なさったな。
さっそく萍鶴は小屋の一員となり、魯乗との二人組で芸を披露することが決まった。
「まったく大胆だな、鋼先」
鋼先が軽く笑う。
「兄貴の言いたいことは分かるよ。なぜ萍鶴と魯乗を危険に
雷先と
「
「お互いにじりじりと近づくのね」
「もう一つある。鉄車輪の情報網を逆用して、萍鶴や
鋼先の
数日後、見世物小屋の新しい出し物が大々的に宣伝されていた。大きな看板に描かれた美女が、筆を振っている。
「さあ、こんな珍しい技はちょっとないよ。筆から飛ばした墨が文字になり、その文字の通りのことが起こる。皿を割ったり、それをくっつけたり、自由自在だよ!」
看板は、宣伝係の男たちに運ばれて練り歩いている。物好きたちがいち早く見ようと、後を着いて行っていた。鋼先たちも、紛れて同行する。
着いてしばらくすると小屋は満席になり、出し物が始まった。
萍鶴は、きれいな
「まずは見た目でバッチリつかんだね。あの
李秀が、
「まったくだ。案外、
雷先が感心するのを、鋼先が笑いながら
「案外って何だ。
「見て、魯乗が何か言うよ」
李秀が指をさした。魯乗が両手を広げ、注目を集めている。
「よく来られた、皆の衆。これなる
そう言って少し下がり、
萍鶴が筆を構える。それを
だが、観客は
「墨を飛ばしただけで、掛軸に文字を書いた!」
「『
今度は魯乗が皿を取りだし、萍鶴が筆を振るだけだったが、またもや歓声と大きな拍手が上がった。
李秀が、目をこすって言う。
「どうなってんの? 萍鶴、飛墨してないよね」
雷先も目をこすり、
「ああ、まったく何も起きてないぞ。どうしてこんなに受けてるんだ」
鋼先が、周囲に目を配りながら言った。
「飛墨の芸は、魯乗の幻影なんだ。俺たちにはかからないようにしてもらった」
「何でそんなことをする、鋼先?」
「もし、鉄車輪が幻影を見抜けるほどの奴らなら、ここで尻尾がつかめる」
「そうか。では、幻影にごまかされていたら?」
「萍鶴たちに接近しようと、何か動きがあるはずだ。外で百威が見張っている」
それからも飛墨の芸は続き、観客はますます喜んだ。やがてたけなわとなったところで、魯乗が観客席に手を振る。
「お楽しみいただけたようで何より。本日は、これにてお別れでございます。ごきげんよう!」
そう言って、萍鶴を
あまりの
やがて観客たちは席を立ち、帰り始めた。鋼先たちは怪しい者がいないか見ていたが、特に変わったことはない。
ふと、鋼先が笑った。
「それにしてもあの二人、うまかったな。期待以上だぜ」
李秀も頷いて、
「本当ね。大入りだったし、ずいぶん稼いだんじゃないかしら」
雷先も
「萍鶴もやるが、魯乗の立ち回りもよかったな」
すると、
「そうじゃろう。あの
と、不意に魯乗の声がしたので振り向くと、後ろの席に魯乗が座っていた。
「お疲れ様だったな、魯乗」
鋼先が
「終わって何よりじゃ。舞台から見た限り、幻影を見破った者はおらんかった」
「萍鶴はどうしている」
「うむ。実は彼女が
魯乗がそう言うので、鋼先たちは不安げに顔を見合わせた。