「久しぶりだな、
「食えるなら何でも構わん。
それを聞いた唐流嶬は、か
「……元気なものか。話すのもつらいくらいだ」
しかし呉文榮は、無表情のまま言う。
「そこまでして
唐流嶬は、ゆっくりと
「小父、どうか力を貸してほしい。
それを聞いて、呉文榮は吹き出して笑った。
「何をいうかと思えば。お前たちが、あんな
唐流嶬は、椅子に身を沈めたまま言う。
「それがな。すでに
呉文榮は、驚いて椅子を立つ。
「南宮車までやられたのか? 馬鹿な。奴らの中にそんな
唐流嶬は首を振った。
「南宮車を倒したのは、こちらで
「焼死体? 光彩楼が火事になったと噂を聞いたが、本当だったのか」
「光彩楼は
「だからこの倉庫にいるのか」
「
「墨……。
呉文榮が
「小父、鉄車輪に来てくれないか。あなたが賀鋼先の
それを聞いて、呉文榮の眉がぴくりと動く。
「確かに、狙ってはいるがな。ただ、お前が『あれ』を始末してくれないから、拙者は魔星を集めているのだぞ。そこの因縁を、忘れたとは言わさぬ」
すると、唐流嶬はむっとして、呉文榮をにらみ返した。
「あのときは、ああするのが精一杯だった。だいたい、先に失敗したのは小父ではないか! 勝手に逃げおって。私がどんな思いで『封印』したか、あなたに解るか!」
そう言って、唐流嶬は立ち上がろうとした。しかし、
「ううっ」
すぐに目眩がして、唐流嶬は椅子に倒れ込む。呉文榮が、はっとして言った。
「すまん、興奮させる気はなかった。……とにかく養生しろ、その問題はまた今度だ」
すると、唐流嶬は、すがるように手を伸ばし、
「お願いだ小父、鉄車輪の
せわしなく言い、唐流嶬は咳き込んだ。呉文榮が
「長くないとは、まさか」
唐流嶬は、冷や汗をかいていた。
「
それを聞いた呉文榮は、
「……お前のことは気の毒だが、拙者にはこんな手広い組織は無理だ。帰る」
「小父!」
「許せ、稜薫」
呉文榮は、強引に振り切って倉庫を出て行った。
唐流嶬は震える手でそれを飲むと、大きく息をつき、言った。
「やはり、小父への切り札として封印を持ち出すのは、無理があったか。――朱差偉、
「
朱差偉は、
「祝月下、来てくれたか。急ですまないな」
立ち上がろうとした唐流嶬を、彼女は押しとどめる。
「ご無理なさらず。ご用とは、何でしょう?」
青輪は、
唐流嶬は言った。
「ゆっくりと会議をする時間がなくてすまない。先だって書面でも伝えたが、鉄車輪の人事異動を行う。
――まず、私の怪我は軽くない。よって、総輪からは
「なんと。やはりそうなのですか」
祝月下と朱差偉は同時に驚く。唐流嶬は頷いた。
「いずれ回復を待って復帰もしよう。その間、梁山に戻って来た
唐流嶬は寂しそうに笑う。
「そこで、
「ごもっともであります」
両名が礼で答える。唐流嶬は頷き、
「了承、感謝する。また、通達に書いたとおり、朱差偉は
「そこは仕方ありません」
祝月下は、苦笑して答えた。朱差偉も笑っている。
「さて、組織図はこれでよしとする。ここから先は、書面にも書かなかったことだ。よく聞いてくれ」
唐流嶬は、今度は感情のまったく無い目で言った。
「祝月下、
祝月下は驚いて、
「よろしいのですか。使うことは無いとおっしゃっていましたのに」
「最後まで迷った。だがこちらの構成員がここまで減ったのでは、やはりやむを得ん」
「黒輪員を全て使えば、賀鋼先らを追い詰めるには足りるでしょう」
唐流嶬は首を振り、
「魯乗の幻術、あれを
「はあ……」
それを聞いた祝月下は、一度は頷いたものの、別な困惑を顔に
「総輪、一人の年長者として、忠告します。その手段はお止めになった方が。そこまで
だが、唐流嶬はきちんと礼をして、
「
と答える。祝月下は少し間を置くと、何も言わず静かに座った。
唐流嶬はぱっと明るい顔になり、
「それに
と言って、高く乾いた笑い声を放った。
その笑いが収まってから、祝月下は額の汗を
「……お話を進めます。黒輪次頭は、確かに戦力としては絶大です。それに頼らざるを得ないことは承知しました。が、事後の
と言い、憂い顔をする。
唐流嶬は、少し考えて
「――ならば、今回の出動を、黒輪次頭最後の任務とする。黒輪員を全て出し、
祝月下は、曇らせた顔のまま頷いた。
「そこまでお覚悟されたのであれば、私も納得して運び出せます。外に次頭がおりますから、すぐに」
◇
しかし、魯乗だけは煙のような
そんなある日、
「おい、見てくれ、これは本当だろうか」
「どうした、兄貴?」
しかし、鋼先たちも朔月鏡を見て、驚きの声を上げる。
「あっ。
「
「
「キィッ」
「ああ、これで胸のつかえが取れた。鋼先、お前が
「なに、礼なら
ひとしきり喜びあった後、鋼先たちは、仇凱から聞き出した情報を
「運輸担当の青輪、軍隊と
鋼先が苦々しく言った。
「赤輪はどんな役割をしてるの?」
「鄆州の
「軍から
そう言って李秀は少し考え、
「あたし、梁山に戻って様子を見てくる。指名手配の
と告げる。鋼先たちは、不安げな顔を見合わせた。
「私も行くわ。一人では危険でしょう」
萍鶴が立ち上がったが、李秀は手で制する。
「萍鶴はここにいて。魯乗が眠ってる今は、あんたの飛墨がないと、大勢が来たときに危険だから」
「そうね。わかったわ」
萍鶴は頷いて、静かに座る。代わりに鋼先が立った。
「だが、一人の
「じゃあ、
夕方、李秀は鄆州へ入った。百威は上空から李秀を見守る。
李秀は街を歩き、人相書きを探す。しかし、あちこちに破れ
「誰かが剥がしてくれたんだ。
「お前、人相書きの娘だな。最近剥がされているんで変だと思っていたが、お前の
「えっ、ちょっと、違うわよ」
それは、年老いた兵士だった。李秀は何をいう間もなく、引きずられて行く。発見した百威は、慌てて後を追った。
李秀はそのまま
「その娘を、どこで見つけた」
老兵士は背筋を伸ばして答えた。
「城門付近をうろついていました。人相書きの少女かと思いまして」
「ああ、そのようだ。まだ仲間がいるかもしれん、お前は警備に戻れ」
老兵士は礼をして部屋を出る。李秀は両手を広げて、必死に
「ちょっと聞いてください。あの人相書きは、
二人がぎろりとにらむ。
「そうか。では、
「
「それも
李秀は思わず後ずさる。二人が立ち上がった。
「運が悪かったな、
「団練副使、赤輪次頭、
二人は壁に掛けられた刀を取り、
「軍人二人か、ちょっとやばそうね。でも、魔星は見逃せない!」
李秀は苦笑して身を
「孔緒、兵を集めろ。この小娘を生け捕る」
「は、承知!」
しかし李秀は、扉に向かう孔緒に先回りして立ちはだかった。
「ちょっと。いくらあんたたちが
「ぐっ……!」
李秀の挑発に、山礼汎は怒りを見せる。
「言ってくれたな。いいだろう、俺たち二人で充分だ!」
「あのね、おじさん。一人じゃ何にもできないの?」
李秀は