二人は左右から刀を振り下ろしてくる。
「若いくせに、修練を積んでいるな」
「才能も認めてね」
李秀は片目をつむって見せ、素速い突きを繰り出す。山礼汎は払い落として間合いを取った。
「これはどうだ!」
もう一人の
「くっ!」
李秀は危険な軌道を見切り、孔緒の
「生意気な」
山礼汎も駆けつけて加わり、三人はさらに
そのとき、
「うわっ、何をする!」
百威は孔緒の顔面をつつき、動きを封じる。山礼汎もそっちに注意を取られたので、李秀は窓を破って外に出た。
「逃げた、追うぞ」
山礼汎はすぐに後を追って窓を出る。孔緒と百威もすぐに続いた。
李秀は走って逃げるが、うっかり
「孔緒、槍を持ってこい。ここで仕留める」
孔緒が走り、槍を取って山礼汎にも手渡す。広い場所で
「小娘といえど、
二本の槍が、交互に李秀を襲う。李秀は二人の動きを良く見て、
「なんだと?」
槍を封じられた山礼汎が驚く。さらに李秀は身を
「あっ、
驚いた孔緒は、百威を捨てて李秀に襲いかかる。李秀は首の動きだけで槍をかわすと、一歩踏み込んで孔緒の手首を斬り付けた。
「うっ」
思わず槍を取り落とした孔緒に、百威が後ろからくちばしを刺す。ぼんのくぼ(首の後ろにある急所)を突かれて、孔緒は
脚の傷を押さえて苦しんでいる山礼汎に、李秀は戟を突きつけて言う。
「刀は苦手だけど、長物の相手は得意なの。
「くそ、なぜだ」
「あたしの師も軍人で、
「そうだったのか。さぞかし名の有る人だろうな。教えてもらいたい」
「自慢したいけど、
そう言って、李秀は戟で
「何とかやっつけたね。
百威は、意を受けて
鋼先たちは、情報を整理して
「
「それか、呉文榮には
鋼先の疑問に
「おい、百威だぞ。李秀はどうした?」
萍鶴が言った。
「ここで、李秀に何かあったのね」
鋼先が、身支度を始める。
「そうらしいな。だが百威は落ち着いているし、
百威はキッと鳴いて、急須のそばに寄る。鋼先たちはすぐに出発した。
外はもう夜になっている。
夜になると城門は閉まり、街への行き来ができなくなる。鋼先たちは番兵のいないところまで移動した。
「ここらでいい。城壁に縄を掛けよう」
鋼先がそう言うと、萍鶴が首を振って
「それだと時間がかかるわ。跳び越えましょう」
そう言うと同時に、鋼先の靴に飛墨を打つ。「跳」の文字が現れた。
「なるほど、うまい手だ」
鋼先はニヤリと笑うと、二、三度軽く跳ねてから、放たれた矢のように城壁を跳び越えて行く。
それを見ていた雷先が、ワクワクした顔で自分を指さしたので、萍鶴はほほ笑みながら飛墨した。
城内への侵入には成功したが、練兵場へはかなり遠ざかっている。
鋼先が、地図を見ながら言った。
「この辺りはひょっとして……やっぱり、まずいな」
「どうした、鋼先」
「あの大きな倉庫。
そのとき、萍鶴が指さした。
「鋼先、あれ」
灯りも持たずに、近づいてくる
「お前は、
暗がりに浮かぶ
「
鋼先たちは驚いたが、しかし閻謬は武器も取らずに言う。
「殺してやりたいが、今は任務中だ。魔星の
「なんだって?」
そのとき、閻謬の後方から、黒い馬に乗った女性が声を掛けた。
「閻謬、もう時間がない。次の手順に」
それを聞いた閻謬は、ため息をつく。
「承知しました、
部下たちにそう声を掛けると、全員で風のように走り去った。
「魔星の憑いた荷、と言っていたな」
雷先が思い出して言う。
「閻謬が忙しいようで、良かったぜ。その荷は気になるが、李秀が先だ」
しかし、少し進むと、道の真ん中に大きな
「鋼先、何だ、あれ」
「閻謬の言っていたものか。大きすぎて隠す場所もなかったのかな」
三人は近付き、
「放っては行けないな。収星しちまおう」
鋼先はそう言って
雷先が訊く。
「箱の中を見るか?」
「収星はしたから、やめておこう。関わらない方がいい」
そして三人が行こうとしたとき、バキバキッと音がして、木箱の
「何が起きたんだ?」
「中に、何かいるわ」
三人は
「どうなってるんだ?」
三人が同時に言うと、男は鼻をひくつかせて、くるりと三人を見た。顔には生気が無く、
「兄貴、これは」
「間違いないな。
「僵尸?」
首を
「人間の死体が
「あなたたちは?」
「使えるわけないだろ!」
兄弟が、苦笑して叫ぶ。
やがて鋼先たちの吐息を
雷先が指示を出した。
「まとまらずに、ぐるぐる動け。僵尸には考える頭はなく、匂いで追ってくる。
「逃げてはいけないの?」
雷先が首を振る。
「こいつらは、人の血を吸うんだ。吸われた人も僵尸になってしまう。封じの
「分かったわ」
萍鶴が筆を一振りし、「燃焼」と現す。
「やった」
喜ぶ三人だったが、しかしすぐに火が消えてしまい、僵尸はまた鼻をひくつかせる。よく見ると、燃えたのは僵尸の服だけで、その下には、身体をすっぽり
鋼先が、首を
「どうもおかしいぜ。この僵尸、準備が良すぎる」
そのとき萍鶴が、飛んだ木箱の蓋から封書を見つけて開いた。
「これ、見て。妙なことが書いてある」
兄弟が
――
読み終えて、三人は真っ青な顔を寄せる。
「なんてこった。あの魔星は封印だったのか」
「閻謬たちに
「ねえ、夫妻って、ひょっとして」
萍鶴が箱を指さす。呼ばれたかのように、中からもう一体、細身の女性の僵尸が現れる。
「これで分かったぜ。呉文榮は、この僵尸を倒したかったんだ。だから魔星を取り込んで力を
鋼先が
夫婦の僵尸が、爪と牙を