翌日昼過ぎ。アルマ達は帰りも父の
そうして宿舎に戻り正装に袖を通せば、いつも通りの日常へ。だが、アルマはどうにも夢見心地だった。
昨晩テオファネスと永遠を約束したのだ。
……お嫁さんにしたいと。
当たり前だが、両親には伝えていないし、特に父に関しては恐ろしくて言えたものではないので、黙っているが……。
どうにも心がソワソワと浮ついて仕方ない。そう、こんなに幸せで嬉しくて良いのかと思える程だった。気を緩めてしまえば唇が緩んでしまいそうな程。アルマは鏡の前で頬を叩いて礼拝に向かう。
しかし、礼拝が終わった後──妙に深刻な顔をしたゲルダとアデリナに捕まり、裏庭に連れて行かれたのであった。
こんな場面は既視感がある。いつだかもあったような気がするもので……。
「どうしたの?」
極めていつも通りに
「どうしたじゃないわよ。何だかニコニコニコニコしちゃって……休暇中に何があったの?」
それもやや怒った口調で言われたのでアルマはシュンとしてしまう。
「まさかとは思うけど……アルマ、テオファネスさんと何かあったじゃないの?」
──正直に言って欲しいわ。と、少し厳しい口調でゲルダに言われて、アルマは目を瞠った。
なぜにそこでテオファネスの名が出てくるのか。一言も彼との事は二人には言っていない。
「なんでテオの話……」
「他に何があるのよ……もうどう見たってアルマ、テオファネスさんに好意を寄せてるのダダ漏れだし、何だかソワソワしてるから気になって仕方ないのよ」
低くアデリナに言われて、アルマは唇を引き結ぶ。
「正直に話して欲しいわ。尽くしたいだの
真面目な口調でゲルダに言われて、完全に萎縮したアルマは緩やかに唇を開いた。
隠し事は無しだ。そう約束したからので、アルマはありのままの事実を話す。
それら全てを聞き終えると、彼女らは大きなため息を一つつき、やれやれと首を振ってこめかみを揉んだ。
間違いなく怒っている。規則破りも
「あ~やっぱりそうだったじゃん! もう、おめでとう」
朗らかにゲルダが笑い出したのである。いくら何でも態度が変化しすぎだ。アルマは理解が追いつけず目をぱちくりしばたたくと、脇腹がとてつもなく
「え、ちょ……ちょっとやめてよ! 何、アデリナ!」
アデリナは無言でアルマの脇腹を
あまりのこそばゆさに悶え、アルマはケラケラと笑い声を漏らすと「馬鹿! 色々心配したんだから!」とにんまりと笑みを溢し、ようやく手を離してくれた。
……先程の態度は茶番だったのだろう。そう、彼女たちはとっくに認めており祝福してくれているのだとすぐに理解する。
「で、でも規律違反だよ。この件は皆に内緒にして欲しくて……」
おどおどとアルマが話を切り出せば二人は同時に頷いた。
「そりゃそうよ、規律違反だし言える訳がない。でも、友人としては幸せを願いたくなるじゃない?」
アデリナの言葉にゲルダは頷きつつも笑みを溢す。
「そうね。でも……規律違反は私も、あの……同じだから。リーダー失格なんだけど……」
「え……」
ゲルダの告白に、アルマは何度も目をしばたたいた。
確かに、十八歳を超えた彼女には縁談が沢山来ているので、未だ会っても居ない相手に文を交わして恋をしていたっておかしくな話ではない。
「あのね、きちんと話してなかったけど私縁談全部蹴ってるのよ。実は、ずっと好きな人が居てね……。相手は幼馴染みだけど、たまに日曜礼拝で会うし、いつも手紙でやりとりしてて……この休暇中も会っててね」
──アデリナにはバレてたけどアルマに隠してたの。ごめんなさい。
そう付け添えたゲルダは頬を紅潮させてアルマにやんわりと微笑んだ。
「だけど、アルマの所はなかなかに……大変そうよね。こう毎日一緒だし。それにアルマのお父さん頑固で怖そうだし……うん」
これから苦労が絶えなそう。と、アデリナは苦笑いを浮かべつつ言った。
確かに言う通りだ。アルマも苦笑いを浮かべて頷けば、二人に何度も肩を叩かれた。
『私達は同僚だけど友達。共犯者って事は協力者。相談は幾らでも乗るわ』
二人が告げたその言葉は、何よりも心強くアルマは思えた。