光が晴れた先は一面に白い花の咲き乱れる場所だった。
視界を下界に移せば、ザフィーア修道院と湖が見えた。
こんな景色は既視感がある。そんな風にアルマが思ったと同時だった。
「……よかった」
聞き馴染みも無い、少し掠れた少女の声が響く。
ふと、その声を探ると、目の前に輝かしい光の球が現れ、やがて人の形となった。
そこに現れたのは──二十歳の自分よりも僅かに年下といった見てくれの少女だった。
瞳の色は自分とどこか似た空色。
癖も無い髪は蜂蜜のような金色で、彼女はエーデルヴァイスの正装にどこか似た純白のワンピースを纏っていた。
そんな彼女はアルマに近付くと、三つ編みを摘まんで悪戯気に笑む。
「……よく頑張ったわね私のお花。だけど貴女、私に似た道を辿るなんて、どんな運命をしてるのかしら?」
不思議ね。なんて彼女は笑んで目を細める。
礼拝堂の
恐らく、今まで彼女がテオファネスに干渉していたのだとアルマは直ぐに見当が付いた。
……幾ら赦しの力といえ、侵食を和らげ寿命を長引かせた事も不自然と思った。
その上、あの死線を彼が生き残った事もそうだ。何もかも全て奇跡に等しいとしか言えやしないのだから。
「どうして……貴女は私たちを天使として選ぶの、私を天使にしたの、彼を……」
どうして生かしたのか。と、アルマが戦きつつ尋ねると、彼女は
「貴女とあの人に関しては、自分と彼を見てるようで、力になりたくなっただけよ」
感慨深そうに彼女は言う。ふと、結び付くのは彼女が恋した男の話だ。
これが正しければ……彼女は恋した男を不死の病の苦しみから救い出した。確かに機甲化したテオファネスも死を辿る侵食なので似た状況に違いない。
「天使として選ぶのは私の意思じゃないけど……とても簡単な話。少女から女になる娘はとてつもなく純粋な想いの力を秘めているから。それが一際強く、この山を臨む場所で魂の輝きが強い子たちが私の代わりとして選ばれてるの」
──あ。私が天界の掟を破った事が原因して人間の女の子に不思議な力を持たせるのは悪いとは思ってるわよ?
なんて、付け添えて。少し申し訳無さそうな半面、ふて腐れるように言うので、アルマは少し笑ってしまう。
「別にそこは困ってないよ。どうして自分かと散々思ったけど、それを人の為に使える事は誇らしい事だって思えたもの」
確かにこれが理由で、窮地に追いやられた事もあった。それを除けば悪い事なんて何一つ無かったに違いない。
しかしそれ以上は、どう話したらいいのか分からない。
彼女はそんなアルマに「それなら良かった」と、はにかむように笑んで、アルマを優しく射貫く。
「でも貴女と、あともう一人の女の子はじきに力が失うわね。でもそれが〝花の終わり〟じゃない。あなたたちは、幸せにならなきゃいけない。実を結び次に残すの。そして新しい時代がどんどん創られていく」
──ただ、この時代は残酷な事ばかり、最悪だったわね。
なんて、苦笑いをして。彼女はスッと消え失せた。
そうして、眩い光が再び視界を覆う。
ふと気付くと、アルマはんぼんやりと霊峰を見つめていた。