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第12魔:お楽しみにね

「みなさん! よかったら来週、みんなで海に行きませんか?」

「アラ、良い考えね未来延さん。来週からうちの大学、夏休みだものね。菓乃子氏の大学は?」

「うちも夏休みだよ。でも私、水着持ってないからなあ……」

「じゃあみんなで一緒に買いに行きましょうよ!」

「う、うーん、でも、水着は恥ずかしいよお」


 何やら女性陣が盛り上がっている。

 最近はすっかりバイト先のスパシーバが、沙魔美達の溜まり場になってしまっていた。

 未来延ちゃんもとっくに仕事に慣れ、俺がシフトに入っていない日は一人で店を回しているのに、何故か未だに俺がいる日もスパシーバに来て、仕事を手伝ってくれている。

 もちろん俺としては大変助かっているのだが、何かバイトに来たい理由でもあるのだろうか?

 沙魔美達とよっぽど馬が合ってるのかな?

 沙魔美も今では未来延ちゃんと、噓のように仲良しだ。

 どうやら未来延ちゃんが、ことあるごとに俺と沙魔美を、やれ『オシドリ夫婦』だの、『パートナー・オブ・ザ・イヤー』だの、『令和の利家とまつ』だのとおだてて(?)いるのが満更でもないらしく、未来延ちゃんのことを妹のように可愛がっている。

 本当に単純なやつだ。

 まあ、嫉妬に狂って破壊の限りを尽くされるよりは114514倍マシなので、例によって放っておくことにしている。

 ちなみに未来延ちゃんや伊田目さんにも、沙魔美が魔女だということはとっくにバレている。

 それでも変わらず沙魔美と接してくれているので、意外と俺の周りには、器がデカい人しかいないらしい。

 しかし、海かあ。

 何だか嫌な予感がプンプンするのは俺だけか?


「そうだわ! せっかくだから私の未来の妹も呼んでいいかしら?」

「おっ、噂のツンデレ妹ちゃんですね! 是非是非!」

「私も会ってみたいな。可愛い子なんでしょ?」

「そりゃなんたって私の妹ですからね!(ドヤッ)早速今から話をつけましょう」

「沙魔美、お前真衣ちゃんの連絡先知ってるのか?」

「もちろん知らないわよ。だからここに直接呼ぶのよ」

「えっ、呼ぶって……」


 沙魔美が指をフイッと振ると、俺達の目の前に全裸で水浸しの真衣ちゃんが現れた。


「フンフフ~ン。……って、え? キャアアアア!!!!」

「うわあああ!!!」

「アラアラごめんなさい、入浴中だったのね。それにしても、まだ夕方なのにお風呂に入ってるなんて、真衣ちゃんはし〇かちゃんキャラだったのね」

「あッ! あなたはこの間の悪しき魔女! 突然こんなところに連れてきてどういうつもりですかッ! 今すぐ戻してくださいッ! そしてお兄さんと別れてください!!」

「申し訳ないけどどっちの頼みも聞けないわね。大事なお話があるから、とりあえずこれでも着ておいて」

「えっ?」


 沙魔美が指をフイッと振ると、未来延ちゃんの身体は一瞬で乾き、その上からエプロンが着せられた。


「ちょ、ちょっと悪しき魔女! なんで裸エプロンなんですか!? こんなの全裸より恥ずかしいですよ! ちゃんとした服を出してください!」

「まあまあ真衣ちゃん、私今疲れてるから、それしか出せなかったのよ(大噓)。それより私のお友達を紹介するわ」

「いや、勝手に話を進めないでくだ――」

「オッスオッス、いろいろとご馳走様です! 私はこの店の店長の娘の、伊田目未来延でっす!」

「え、あ、その」

「突然ごめんね。私は沙魔美氏の友達の本谷菓乃子。よろしくね真衣ちゃん」

「あ、よ、よろしくお願いします」


 ……押し切られた。

 裸エプロンで初対面の人と挨拶している様は何ともシュールだが、俺が何か言うと余計拗れそうだから、そっとしておこう。

 ただ、今他のお客さんが入ってきたらお店の業種が変わってしまいかねないので、俺は沙魔美にアイコンタクトをして、人払いの魔法を掛けるように指示した。

 まったく、本当は沙魔美に魔法なんて使わせたくはないのだが、ままならないもんだ。


「……それで、話っていうのは何なんですか」

「ああ、そうだったわね。真衣ちゃんが次に会う時には、Fカップになってるって言ってたのに、あと五段階程足りないなーと思ってたら、ウッカリしていたわ」

「なっ! くっ! あなたって人は」

「まあまあ真衣ちゃん、落ち着いて。沙魔美もふざけすぎだぞ。真衣ちゃんが可哀想だろ」

「お兄さん……」

「ハイハイ、確かに私もちょっとは、やりすぎたかなって反省してるわ」

「本当かよ……」

「話っていうのはね真衣ちゃん、来週このみんなで、海に行かないかってことなのよ」

「えっ、海ですか」

「そう、真衣ちゃんも、もう夏休みでしょ?」

「……それはお兄さんも来るんですか?」

「もちろんよ」

「…………じゃあ、行きます」


 行くんだ。


「よし決まりね! 私達で、海という海を、血の海に変えてやりましょ!」

「沙魔美、お前が言うと洒落にならないからやめろ」

「あのー、話が終わったなら、さっさと私を家に戻してください」




「みなさーん。私お菓子持ってきましたよ。食べませんか?」

「ありがとう未来延ちゃん。一つもらうね」

「ところで悪しき魔女、なんであなたが助手席なんですか! 私、助手席がいいです」

「ごめんなさいね真衣ちゃん。道路交通法で、助手席はGカップ以上じゃないと座れないことになってるのよ」

「なっ!」

「噓をつくな沙魔美。真衣ちゃんも、沙魔美の言うことはいちいち真に受けない方がいいよ」

「は、はいお兄さん」


 車の免許を持っているのが俺だけだったので、湘南のビーチまでレンタカーの運転は俺がしているが、何かにつけて真衣ちゃんが沙魔美に突っかかるので、疲労感は倍だ。

 やっとの思いで昼過ぎにビーチに着いた時には、俺は既に帰りたくなっていた。

 案の定ビーチは凄い人で、人混みが嫌いな俺には、そのこともゲンナリする要因の一つだった。


「わあ、やっぱり凄い人だね。あ、堕理雄君、ずっと運転させちゃってごめんね」

「ああ、気にしないでよ菓乃子」


 菓乃子の水着は、可愛いフリフリが付いたホルターネックのビキニで、菓乃子によく似合っていた。

 俺が菓乃子と付き合っていたのは寒い時期だけだったので、俺も菓乃子の水着姿は初めて見た。

 ただ、あまりジロジロ見ていると沙魔美にぶちのめされそうなので、チラ見ぐらいに抑えておいた。


「あーきはーばらー!」

「いや、未来延ちゃん、ここは湘南だよ」


 未来延ちゃんの水着は大胆なマイクロビキニで、これまた未来延ちゃんの大胆な性格が表れていた。

 しかも意外と、未来延ちゃんは胸が大きかった。

 菓乃子より大きいかもしれない。

 着瘦せするタイプなのだろうか。


「きーたせーんじゅー!」

「何だそれは沙魔美。お前最近ボケが雑すぎるぞ。突っ込むほうの身にもなれ」

「フフ、そう言って何だかんだ突っ込んでくれるんだから、堕理雄は優しいわよね。堕理雄は本当に、私にツッコムのが上手いんだから」

「お前が言うと全部いやらしい意味に聞こえるな。それに何だその水着は」

「アラ、どこかおかしいところがある?」

「おかしいところしかないだろ。名医がいる眼科に行け」


 沙魔美の水着は所謂スリングショットというやつで、パッと見は痴女にしか見えない。

 昭和生まれの方には、放課後電磁波クラブの格好と言えばおわかりいただけるだろうか。

 たわわに実った双丘が今にも零れそうで、いろんな意味でハラハラする。

 しかも水着の色が真っ赤なので、メチャクチャ目立つ。

 頼むから最低限の常識は身に付けてもらいたいのだが……。


「ちょっと悪しき魔女! あなた私の水着を魔法で変えたでしょう!」

「大丈夫よ真衣ちゃん。そっちのほうが似合ってるわ」

「わっ、真衣ちゃん、それは……」

「あ、あまり見ないでくださいお兄さん!」


 真衣ちゃんの水着はスクール水着だった。

 しかも白のスク水だ。

 何てマニアックなんだ……。

 真衣ちゃんのロリ体型と相まって、事案感が半端ない。

 オオ〇コ半端な(ry


 しかしこの四人が揃うと、全員が美少女な上に、格好がアレな人が多いせいもあって、周りの男達からの視線が痛過ぎる。

 「何であんな男が」という嫉妬の視線と、「え、何あれ?」というドン引きの視線で、光と闇が両方そなわり最強に見える(?)。

 ちなみに、参考までに各人の胸の大きさを順位付けすると、


 沙魔美>>>未来延ちゃん>菓乃子>>>越えられない壁>>>真衣ちゃん


 といったところか。

 現実とは斯くも厳しいものである。


「さ、じゃあまずは定番通り、堕理雄を砂に埋めて、地中に監禁しましょうか」

「嫌な言い方をするなよ。最近わかったんだけど、沙魔美ってヤンデレっていうよりは、ただの監禁マニアだよな」

「アラ、いつ私が自分のことをヤンデレなんて言ったの? それは堕理雄が勝手に思ってるだけでしょ。私は私よ。それ以上でも、それ以下でもないわ」

「……そうだな」


 そりゃそうか。

 そもそも一人の人間を、ヤンデレだのツンデレだのと、一言で言い表せるわけがないのだ。

 星の数程ある属性の集合体が、人間なのだから。

 まったく同じ人間は、この世に一人としていない。

 たとえそれがクローンだとしてもだ。

 しかしそれだと次回から、タイトルを『俺の彼女は魔女、しかも重度のヤンデレかと思いきや、ヤンデレっていうよりは、ただの監禁マニア』に変えないとな。

 変えないけど。


「あ、あの! 私もお兄さんに砂かける係やりたいです!」

「あ、じゃあ私も普津沢さんに砂かけたいです」

「じゃ、じゃあ私も……」


 何だ何だ。

 みんなそんなに砂が好きなのか?

 まあ、みんながそこまで言うなら、年長者として一肌脱ぐか。


「精々お手柔らかに頼むよ」

「それは約束できないわね。と言いたいところだけど、今回は任せて堕理雄。さあ、魔法でもう穴は掘ってあるから、ここに入ってちょうだい」

「え、穴?」


 見ると人間一人がスッポリ入るくらいの縦穴が、砂浜に開いていた。


「え? 何この穴? ここに俺入るの?」

「そうよ。ちょうど顔だけが出る深さに掘ってあるから、ここに堕理雄に入ってもらって、隙間を砂で埋めれば、監禁完了よ」

「『監禁完了よ』じゃねーわ! なんで海まで来て、ヤンキーに虐められてる子みたいな悲しいシチュエーションに、文字通り身を投じなきゃいけねーんだよ!」

「んー、今のはちょっと突っ込みがくどいわね。もう少しコンパクトにまとめられないかしら?」

「それよりもお前は、ゴッドハンドがいる精神科に行け」

「ゴッドハンドって普通、外科医に使う言葉じゃない?」

「……」


 ぐぬぬ。


「心配しなくても三食のご飯は、私が口移しで食べさせてあげるわよ」

「なんで口移しなんだよ」

「あ! ズルいですよ悪しき魔女! その役は私がやります!」

「じゃあおやつはイタリアンレストランの娘である私が、ティラミスを口移しいたしましょう」

「え、えーと……じゃあ私は、寝る前の小腹が空いた時に夜食を……」

「いやみんな、役を取り合う前に、縦に埋めるのを止めてよ」


 何だ。

 もしかして、みんな監禁癖があるんじゃないだろうな?

 沙魔美一人でもお腹いっぱいなのに、あと三人も増えたら胃が破裂してしまう。


「それにここはもう少しで潮が満ちるから、ここに埋まってたら、俺は溺れ死んじゃうよ」

「あなたは死なないわ、私が守るもの」

「沙魔美、さっきボケが雑になってると注意したばかりだろう。ハア、もういいよ。普通に仰向けに寝るから、そこにみんなで砂かけてよ」


 俺は適当な場所に、仰向けに寝転んだ。


「じゃあ私は、堕理雄の股間付近に砂をかける係ね」

「ちょっと悪しき魔女! 何度もズルいですよ! 股間は私が担当します!」

「じゃあじゃあ、私も私もー。コッカーンー、ヘーイ、コッカーンー」

「コ、コッカーンー……コッカー……」

「菓乃子! 苦手なら無理に合わせなくていいから! みんなマジで落ち着こう。俺達今、一人の男を女の子達が『コカンコカン』言いながら取り囲む、完全にヤバい集団になってるから!」

「しょうがないわね。今回だけは特別に、みんなで堕理雄の股間に砂をかけましょう」

「いや、股間以外にもかけてもらいたいんだが……って、ウワッ」


 堰を切ったように、四人共俺の股間目掛けて砂をかけ始めた。


「ちょっと待ってみんな!? マジでちょっとッ!」


 ……ダメだ。

 みんな何かに取り憑かれたように、俺の股間に砂をかけている。

 あっという間に俺の股間部分にだけ、50cm程の砂山が積み上がった。

 うわあ、スゲー恥ずかしい。

 小学校の時とか、こういうことするやついたわあ。


「あ! みなさん、私イイコト考えたんですけど」

「何かしら未来延さん」

「この普津沢さんの股間の砂山、名付けて『普津山ふつやま』に、みんなでトンネルを掘って貫通させるというのはどうでしょう?」

「……それだわ!」

「どれだよ! あれ? みんな……なんで無言で、普津山の四方を囲んでるの? ちょ、ま……」

「GO!」

「うわあああ」


 四人が一斉に普津山に手を突っ込んで穴を掘り始めた。

 怖い怖い怖い怖い怖い。

 みんな目がイッちゃってるよ!

 し、しかもこのままだと、みんな俺の股間に触れてしまうかもしれない!

 それはダメだ!

 それはダメだあああ!!!


「あ、そうだわ堕理雄」

「なっ、何だよ沙魔美」

「文字数が思ったよりかさんでしまったから、この続きは後半をお楽しみにね」

「え」


 ここに来てまさかの前後編かよッ!

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