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第13魔:前を見ていてね

「女性用成人向け漫画家、諸星つきみがお送りする前回のあらすじ! 私、諸星つきみは女性用成人向け漫画を描いている、新進気鋭の漫画家。この度、デビュー当時からお世話になっている担当さんが産休に入ってしまい、代わりに新卒の子が新担当になったの。でもこの子が典型的なカワイイ系のヘタレ受け厨で、屈強な男前受けが好きな私とは意見が真っ向から対立してもう大変。果たして来週の締め切りまでに原稿は間に合うのかしら? そして、みんなで海に来た堕理雄達は、その後どうなっているのかしら? それでは後半をどうぞ」

「今のおねえさん誰!? あと、あらすじほとんど関係ないこと喋ってたけど、今の要る!?」

「堕理雄、何を一人で叫んでるの? 次はビーチバレーをするわよ」

「あ、ああ、ビーチバレーね」


 見ればいつの間にか砂浜に、立派なビーチバレーコートができている。

 大方沙魔美が魔法で造ったのだろう。

 まったく、ちょっと目を離すとすぐこれだ。

 まあ、今日ぐらいは大目に見てやるか(また方々から甘いやつだと言われそうだが)。


「じゃあチーム分けをしましょ。五人だから二人と三人のチームね。このクジを引いて赤い印が付いていたら二人チーム、無印なら三人チームよ」

「よし! お兄さん、私と一緒に絶対二人チームになりましょう!」

「いや、運次第だから何とも言えないよ」

「アッハハー、私はイタリアンレストランの娘ですから、クジ引きには自信がありますよ」

「それクジに関係ある未来延ちゃん? ――おや? どうしたんだ菓乃子、クジを引く素振りなんかして。そんなに一緒のチームになりたい人でもいるのか?」

「あ、いやいや別にそんなことないけど、あはははは」

「?」

「さあ、みんなクジは掴んだわね。じゃあせーので一斉に引きましょう。せーの」




「おい、沙魔美」

「……何かしら」

「お前魔法でクジを操作して、俺と二人チームにしただろ?」

「……いったい何のことだか」

「あ! やっぱりそうなんですね悪しき魔女! このチャオズが!」

「真衣ちゃん、今の若い子はチャオズが天下一武道会でクジを操作したことなんて知らないよ」

「フフン、何とでも言うがいいわ。鳥が自分の羽で空を飛んだからといって、なんで咎められなきゃいけないの?」

「開き直りやがったこいつ……。ハア、しょうがない。真衣ちゃん、次の試合では絶対に魔法は使わせないから、この試合はこのチームでやってもいいかな?」

「ぐぬぬぬ、つ、次は絶対に魔法はナシですからね!」

「ツーン」

「沙魔美」

「……わかったわよ。次は使わないわ」

「よし、じゃあ始めようか。言っとくけど、試合中も魔法で肉体を強化するのはナシだからな沙魔美」

「え!? ちょっと待ってよ! 私魔法使わないと、運動能力ゼロなんだけど!?」

「そんなの知るかよ。普通の人は魔法なんて使わないで生きてるんだ。たまには自分の力だけで戦ってみせろよ」

「魔法も私の力の一部なんだけど……」

「屁理屈を言うな。さあ、試合開始だ」

「よーし! まずは私のサーブからですよ悪しき魔女! 喰らいなさい!」


 真衣ちゃんの打ったサーブは意外に鋭く、一直線に沙魔美のほうに跳んでいった。


「沙魔美! レシーブだ!」

「え!? あ、ちょっと、マジ、怖い、キャアア!」


 宣言通り、沙魔美のフォームはへなちょこだった。

 どうやら沙魔美は魔法無しだと本当にポンコツらしい。

 しかし偶然にもボールは沙魔美の豊満な胸にぶつかり、その反動でボールは相手コートに返って地面に落ちた。

 オオフ……。


「あれ? あ! ねえ堕理雄! 見た今の!? これが私の実力よ!!」

「うん、そうだな……。まあ、よくやったよ……」


 胸の大きさも、実力の内なのは確かだしな。


「なっ!? 何ですか今のは!? キィー!!!」


 真衣ちゃんがいろんな意味で凄く悔しがっている。

 ド、ドンマイ。

 だがその後は主に真衣ちゃんが、徹底的にポンコツ魔女を狙い続け、あっという間に俺達のチームは負けてしまった。


「フハハハハ! 貴様の力はそんなものか悪しき魔女よ! 我に勝とうなど百万光年早いわ!」

「真衣ちゃん、完全にキャラが変わってるよ。あと、光年は距離の単位だよ」


 沙魔美はというと、そんな真衣ちゃんの煽りにも反論できないくらい、ヘロヘロに疲れきっていた。


「大丈夫か、沙魔美?」

「だいじょばないわ……。申し訳ないけど、私は少し休憩させてもらうわ……」

「ああ、そのほうがよさそうだな。そこのパラソルの下で休んでろよ」

「ええ……」

「さあ、お兄さん! 今の内に残った四人で次の試合をやりましょう!」

「ん、ああ、そうだね。じゃあまたクジを引こうか」

「ホアアーッ! チャオズよ、我に力を!」

「チャオズはクジの神様ではないよ真衣ちゃん」




「堕理雄君、よ、よろしくね」

「ああ、よろしくな菓乃子」

「何故じゃあああ!! 何故なんじゃチャオズゴッドよおおお!!!」

「まあまあ、きっと次は愛しのお兄さんと同じチームになれますって。今回は私と一緒に頑張りましょう」

「え、ええ……」


 これが物欲センサーというやつか。

 何故真衣ちゃんがそんなに俺と同じチームになりたいのかは謎だが、そう望めば望む程、それは手のひらから零れ落ちていくものなのだろうな。


「こうなったらこの試合も、さっさと終わらせます! 喰らえ!必殺サーブどどん波!!」


 すっかり真衣ちゃんがチャオズ信者になってしまった。

 どどん波は真っ直ぐに菓乃子の方に向かっている。

 だがさっきの試合を見る限りでは、菓乃子はビーチバレーの腕は悪くない。

 このサーブも取れるはずだ。


「菓乃子! 頼む!」

「は、はい!」


 案の定、菓乃子は見事にボールの勢いを殺したレシーブをし、ボールは俺の頭上にフワッと上がってきた。

 よし、いいぞ!

 俺は菓乃子にトスを上げた。


「菓乃子、スパイクだ!」

「うん!」


 バシッと小気味良い音を立てて、ボールが相手コートに跳んでいった。

 やったか!?


「やってないですよ。残念でした」


 いつの間にか未来延ちゃんがボールの着地地点に移動しており、これまた見事なレシーブを披露した。

 何だか沙魔美以外の三人は、結構運動神経良いよな。

 沙魔美が悪すぎるだけかもしんないけど。

 再び相手チームの鋭いスパイクが跳んできたが、今度も菓乃子がトスを上げやすい、最高のレシーブをしてくれた。

 だがそんな菓乃子に、俺は若干の違和感を覚えた。

 何だろう? 何かがおかしいな。

 いや、今は試合に集中だ。

 俺は再度菓乃子にトスを上げた。

 ところが余計なことを考えていたせいか、今度はトスが少し乱れてしまった。


「ごめん! 菓乃子!」

「大丈夫! 任せて!」


 菓乃子は乱れたトスを物ともせず、的確にボールの位置に跳び上がった。

 が、その瞬間俺は違和感の正体に気付いた。

 菓乃子の首の後ろで結んでいる、ホルターネックのビキニの紐が緩んでいる!

 むしろ今にも解けてしまいそうだ!

 危ない!


「菓乃子! 水着の紐が!」

「えっ?」


 菓乃子が空中でスパイクを打った弾みで紐は解け、水着が完全にはだけてしまった。


「キ、キャアアア!!」

「菓乃子! 危ない!」


 菓乃子が変な体制で地面に着地しそうになったので、俺は慌てて菓乃子の下に駆け寄った。

 しかし不安定な砂場に足を取られ、俺は仰向けに転んでしまった。

 そしてその俺の上に、菓乃子が不時着してきた。

 結果、俺の顔に菓乃子のはだけた形の良い胸が、ふにゅんっと覆い被さった。

 く、苦しい。息ができない。


「わあああ!! ごめんなさい堕理雄君! すぐどくから!」

「むぐぐぐぐ」


 その時だった。

 俺の近くの砂が人間の手の形になり、俺の首を締めてきた。


「ぐええええ。し、しむ……」

「堕理雄君!」

「堕理雄……今のは浮気ということでいいのかしら?」


 沙魔美が全身にドス黒いオーラを纏いながら、俺達のところにゆっくりと歩いてきた。


「ち、ちが……さま、み……」

「沙魔美氏! 違うの! 堕理雄君は本当に、私を助けようとしてくれただけで!」

「菓乃子氏、私にNTR属性はないって、何度も言ってるわよね? 菓乃子氏のことは信じてたのに……」

「もう! しょうがないな。えい!」

「えっ」


 菓乃子は突然沙魔美に抱きついて、唇にキスをした。

 おファッ!?


「か、菓乃子氏……そんな……困るわこんな……。菓乃子氏とはお友達だと思っていたのに……」

「いや、こうでもしないと沙魔美氏は落ち着かないと思ったから、こうしただけ。どう? 落ち着いた?」

「え、ええ……そうね」

「冷静になってみて。さっきのはどう考えても事故でしょ?」

「うん……そうね。疑ってごめんなさい菓乃子氏」

「わかってくれればいいよ」

「さま、み……早くこれを……」

「アラ、ごめんなさい堕理雄。忘れてたわ」


 沙魔美が指をフイッと振ると、砂の手は元の砂粒に戻った。


「ブハアッ! し、死ぬかと思った……」

「コラアッ! 悪しき魔女!! お兄さんに何てことするんですか!!」

「アラ、私と堕理雄は愛し合ってるんだから、私には堕理雄の生殺与奪の権利があるのよ」

「ないですよそんなの!! やっぱりあなたは今すぐお兄さんと別れなさい!!」

「堕理雄と別れるくらいなら、私は地球を消滅させるわ。幸い私は、それくらいの力を持っているしね」

「くうっ! どこまでも卑怯な!」

「まあ落ち着いてよ真衣ちゃん。俺なら大丈夫だからさ。さあ、続きをしよう」

「む、むう」


 何とか場を収めて試合を再開したが、その後は特にトラブルもなく、からくも俺と菓乃子のチームが勝利した。


「やったな菓乃子!」

「うん! ありがとう堕理雄君」

「ムキイィー! さあ! さっさと次のチーム決めですよ!」

「あ、私も体力回復したから、また試合に参加するわ」

「じゃあクジ引きです! せーの!」




「フハハハハ! このまま私がお兄さんと組めないまま終わるオチだと思ったでしょう? 残念でしたー! 組めちゃいましたー! ただ、悪しき魔女も同じチームなのがアレですけど……」

「フフフ、こんなこともあろうかと、復帰しておいてよかったわ」

「キィー! 足を引っ張ったら承知しませんよ、悪しき魔女!」

「真衣ちゃんも、胸を引っ張らないように気を付けてね」

「胸を引っ張るって何ですか!? どういう状況!?」

「その点、真衣ちゃんは引っ張る程の胸がなくて羨ましいわ」

「クッソがあああ!!!」


 何だかんだ仲良いよなこの二人。


「まあまあ真衣ちゃん、こんなやつでも今はチームメイトなんだから、みんなで力を合わせて頑張ろうよ」

「ハ、ハイ、お兄さん!」

「私だって、バレーは薄い本で散々勉強してるんだから、次こそは目に物をお見せするわ」


 だが試合が始まってみれば、ポンコツ腐魔女がミスを連発し、あっという間に相手チームのマッチポイントになってしまった。


「イエーイ、あと一点で我々の勝ちですね、菓乃子さん」

「そうだね、未来延ちゃん」

「悪しき魔女ー!! あなたのせいですよ!!」

「ちょ……ちょっと、待って……今は話し掛けないで……吐きそう……」

「大丈夫か沙魔美!」


 『ヒロインがゲロを吐くアニメは名作』を、ここで発揮しないでくれよ。


「何だったら後は俺と真衣ちゃんに任せて、お前は休んでろよ」

「! そうですよ悪しき魔女! そうしなさい、そうしなさい!」

「いや……やるわ。真衣ちゃんを堕理雄と二人になんてさせないわよ。任せておいて……。左手はそえるだけ」

「それはバレーじゃないぞ。しょうがないな、くれぐれも無理はするなよ」

「じゃあそろそろよろしいですかー? 私のサーブから、いっきまっすよー」


 未来延ちゃんの弾丸サーブが、沙魔美のほうに容赦なく跳んでいった。

 くっ! 万事休すか!


「沙魔美!」

「悪しき魔女!」

「大丈夫よ、左胸はそえるだけ」


 何それ!?

 沙魔美は左胸を右胸にそえて(?)、右胸でボールを受け止めた。

 ボールは絶妙な角度で、俺の頭上に舞い上がった。

 お前の胸スゲーな!

 まるで将棋だな(?)。

 さてこのボールを、沙魔美と真衣ちゃんどちらに上げるか。

 普通に考えれば真衣ちゃんだが。


「堕理雄! 私に任せて!」

「! 沙魔美!」


 いけるんだな?

 お前を信じるぞ。

 俺は沙魔美の頭上に、高めのトスを上げた。


「なっ! お兄さん! させるかー!!」

「真衣ちゃん!?」


 真衣ちゃんは沙魔美に跳び掛かり、沙魔美の胸を踏み台にして、三角飛びの要領でボールに向かって跳躍した。


「私(の胸)を踏み台にしたぁ!?」

「フハハハハ! お兄さんのトスは私のものです!」

「……イケナイ子ね真衣ちゃん。お姉さん怒ったわ。お仕置きよ」


 沙魔美が指をフイッと振ると、真衣ちゃんの白スク水が、空中で木端微塵に弾け跳んだ。

 えーーー!?!?!?

 真衣ちゃんは日焼け止めを塗っていなかったらしく、日焼けした箇所と、してない箇所がくっきりと浮き彫りになっており、何とも言えないアブナイ絵面になっていた。


「キ、キャアアア!!」

「真衣ちゃん! 危ない!」


 真衣ちゃんが変な体制で地面に着地しそうになったので、俺は慌てて真衣ちゃんの下に駆け寄った。

 しかし不安定な砂場に足を取られ、俺は仰向けに転んでしまった。

 アレッ!? 天丼!?

 そして俺の上に、真衣ちゃんが不時着してきた。

 結果、俺の顔に真衣ちゃんの小さなお尻が、ぽふんっと覆い被さってきた。

 く、苦しい。息ができない。


「ああ! お、お兄さん! 責任を取ってください!!」

「むぐぐぐぐ」


 その時だった。

 辺りの砂が一箇所に集まり、二メートルはあろうかという、巨大な人間の手の形になった。


「堕理雄……あなたは一度ならず二度までも……」

「いや今のはお前のせいだろう!? お前が真衣ちゃんの水着を、木端微塵にするから!」

「問答無用!」


 俺は巨大な手に思い切りビンタされ、海の彼方まで吹っ飛ばされた。

 あーれー。

 何だこの、劣化版のトラ〇ルみたいな展開は……。




「じゃあ日も傾いてきたし、次の試合でラストにしましょうか」

「悪しき魔女! 私この水着恥ずかしいです! なんで普通の水着を出してくれないんですか!」

「アラ、とっても似合ってるわよ真衣ちゃん。これで私達お揃いね」

「全然嬉しくないです!」


 真衣ちゃんの新しい水着も、沙魔美と同じスリングショットだった。

 しかも水着の色は、深い青だ。

 浜辺の放課後電磁波クラブが誕生した瞬間である。


「さあ、泣いても笑っても、これが最後のクジ引きよ。せーの」


 どうせこの流れなら、最後は俺と未来延ちゃんがペアなんだろ?




「いやーすいませんね。私みたいな伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンがペアで」

「お前どっから出た!?」


 実に五話ぶりの登場じゃないか!

 むしろ懐かしくて、ちょっと嬉しいくらいだわ。

 ちなみに伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンは、高校時代(?)バレー部で、インターハイ出場経験(??)もあったらしく、試合は俺と伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサンチームの圧勝で終わった。

 やだ素敵。




「みんなよっぽど疲れてたんだろうな。ぐっすりとよく寝てるよ」

「フフフ、そうね。でも堕理雄こそ疲れてるでしょ? 魔法で自動運転にしましょうか?」

「いや、いいよ。お前に魔法は使わせたくないからな」

「本当に堕理雄はカタいんだから」

「普通だよ」


 車の後部座席で、菓乃子と未来延ちゃんと真衣ちゃんは、肩を寄せ合いスヤスヤと可愛い寝息を立てている。

 そりゃ、あれだけはしゃげば疲れるだろう。

 まあ、みんなが楽しそうだったから、よしとしよう。

 俺も正直ちょっと眠いが、事故るわけにはいかないから、気を引き締めないとな。


「そうだわ堕理雄。今日一日頑張ったご褒美に、眠気を飛ばしてあげるわね」

「……何をする気だ?」


 例によって嫌な予感がする。


「まあまあ、あなたはそのまま運転に集中しててね」


 そう言うと沙魔美は、おもむろに俺の股間に手を伸ばし、ズボンのファスナーをジイィッと下した。


「オ、オイ! 沙魔美!?」

「大きな声を出さないで。みんなが起きちゃうわ。私が口でしてあげるから、あなたはちゃんと前を見ていてね」

「いや、それは……」


 確かに眠気はトんだけれども……。

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