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第14魔:監禁に?

「これだわ!」


 何だ?

 今日も今日とて、俺の家で沙魔美と二人でゴロゴロしている。

 俺は漫画を読み、沙魔美は女性週刊誌を読んでいたのだが、急に沙魔美が声を上げた。

 またぞろ嫌な予感がするな。

 チラッと沙魔美が読んでいるページを盗み見ると、そこには『意中の男子のハートを掴むには、ツンデレを上手く活用すべし!』という見出しが書いてあった。

 うわあ。

 何かまた面倒くさいことになりそうな予感がする。

 沙魔美を見ると、沙魔美は膨れっ面で俺を睨んでいた。


「な、何見てるのよ! 勝手に人の顔、ジロジロ見るんじゃないわよ!」

「あ、ああ、ごめん……」


 早速活用しだしやがった。

 早くも面倒ゲージがカンストしかけている。

 俺はなるべく関わらないように、漫画に目を戻した。


「ちょっと! 何無視してんのよ! こっち見なさいよ!」

「あ、ああ、ごめん……」


 帰りてえ~。

 いや、帰るも何も、ここが俺の家なのだが。


「まったく、こんなに可愛い幼馴染が横にいて、漫画ばっか読んでるなんて、失礼しちゃうわ」

「あ、ああ、ごめん……」


 幼馴染って設定なんだ……。

 むしろこれ、ただのサムい寸劇になってないか?


「そ、そうだわ! 今日たまたまお弁当を作り過ぎちゃったから、勿体ないからあなたにあげるわ。か、勘違いしないでよ! べ、別にあなたのために作ったわけじゃないんだからね!」

「あ、ああ、ありがとう……」


 沙魔美は弁当箱を手渡してきた。

 えっ? もしかしてコレ中身入ってるの?

 さっき昼飯食べたばっかだから、お腹空いてないんだけど……。

 しかも沙魔美の指を見ると、指が絆創膏だらけになっている。

 何、料理苦手なのに頑張りましたアピールしてんだよ!

 お前は料理は得意だろ!

 まあ、でもコレ、食べないと終わんないやつだよなあ。

 仕方ない、さっさと食べて終わらせよう。

 俺はため息を吐きながら弁当の蓋を開けた。


「……オオウ」


 弁当の中身は、全体的に絶妙に下手に作ってあった。

 玉子焼きの形は歪だし、唐揚げは明らかに揚げすぎだ。

 いやだから、お前はもっと上手く作れるだろうが!

 むしろさっきの昼飯でも、玉子焼き作ってただろ!?

 この短時間で作り方忘れちゃったのか!?

 なんで変なところのクオリティが、無駄に高いんだよ。


「な、何よ! 食べたくなかったら、別に食べなくてもいいわよ!」

「……いや、食べる。食べさせてもらいますよ」

「ほ、本当に!」


 露骨にパアッと嬉しそうな顔をする沙魔美。

 くっ、イカン。ちょっとだけ可愛いと思っちゃったじゃねーか。

 これじゃ女性週刊誌と沙魔美の思う壺だ。

 気を引き締めていこう。


「いただきまーす」


 俺は玉子焼きを一口食べた。

 ……。

 甘ーい!!!

 砂糖入れすぎだろこれ!

 味までワザと下手に作ってやがる!

 いや別に、ツンデレな子が全員料理が下手なわけじゃないからな!?

 お前はツンデレを何だと思ってるんだ!?


「どう? 美味しい?」

「……美味しいよ」

「やったあ!」


 「……早起きして頑張ってよかった」と沙魔美が小声で呟いたのを聞いて、俺は不覚にもまた、トゥンクと胸がときめきメモリアルしてしまった。

 どーしちまったんだ俺!?

 俺はそんなチョロイン(?)じゃないはずだろ!?

 その後俺は、絶妙にマズい弁当を、ヒーヒー言いながら何とか完食した。

 すると沙魔美が言った。


「そういえば堕理雄、来週野球の試合だよね?」

「え?」


 そうなの!?

 俺って野球部だったの!?


「あ、ああ、そう、試合だよ」

「しょうがないから、応援に行ってあげるよ。か、勘違いしないでよ! 幼馴染として、仕方なくだからね!」

「うん……ありがとう、頑張るよ」

「……そういえば、今日ってバレンタインだよね」

「えっ!?」


 今日は8月11日の山の日だけど!?

 何か設定盛り過ぎて、収拾つかなくなってないか!?


「どうせ堕理雄のことだから、誰からもチョコもらってないんでしょ? しょうがないから私があげるわよ。か、勘違いしないでよ! 義理だからね! 義理!」


 沙魔美は直径20cmはあろうかという、可愛らしくラッピングした包みを差し出してきた。

 この上チョコも食わせる気なのか!?

 もうお腹パンパンだよ!

 しかも指はさっき以上に、絆創膏でグルグル巻きになっている。

 まるで、キセキの世代のナンバーワンシューターのようだ。


「あ、ありがとう、いただくよ」


 箱を開けると歪なハートの形をした、巨大なチョコが鎮座していた。


「あ! 違うから! その形はそういう意味じゃないから!」

「いや、大丈夫。勘違いしてないよ」


 覚悟を決めてチョコを一口頬張ると、さっきの玉子焼きの百倍くらい甘かった。

 最早、砂糖にチョコを混ぜていると言ったほうが適切かもしれない。


「どう? 美味しい?」

「……美味しいよ」

「やったあ!」


 「……カカオ豆から栽培してよかった」と沙魔美が小声で呟いたのを聞いて、俺は不覚にもまた……いや、これにはときめかねーよ!

 何、豆から栽培してんだよ!

 どこの歌って踊れる農家兼バンドだよ!

 俺は血圧バスターのチョコを、血の涙を流しながら何とか完食した。

 すると沙魔美が言った。


「今日はいよいよ、野球の試合当日ね」

「え?」


 沙魔美が指をフイッと振ると、俺達はどこぞの野球場にワープした。

 いつの間にか俺は、野球のユニフォームを着ている。

 沙魔美はチアガール姿で、髪をポニーテールにしていた。


「私が応援してあげるんだから、絶対ホームラン打ちなさいよね!」

「あ、ああ、頑張るよ……」


 オイオイ、『野球回があるアニメは名作』の法則を、無理矢理ブッ込んできたな。

 作者は全然野球に詳しくないけど大丈夫か?


「あ! ライバル校が入場してきたわよ!」

「えっ」

「ククク、この鳥糸麺賭とりいとめんと高校のエース、大谷・伝説の神獣アーティスティックモイスチャーオジサン・翔平から逃げなかったことだけは誉めてやろう」

「……」


 まあ、お前だろうなとは思ったよ。

 しかも大谷って言いながら、マエケン体操してるし。

 さてはお前も、野球の知識フワッとしてんな?

 もうメンドイから、さっさと試合して終わらせよう。


「あ! 待って堕理雄!」

「ん? 何だ?」

「し、仕方ないからお弁当作ってきてあげたわよ。か、勘違いしないでよ! 堕理雄のために作ったわけじゃないんだからね!」

「え……」


 いや流石にもう無理だよ!

 とっくに胃袋のライフはゼロだよ!

 さてはお前、レベルを上げて弁当で殴ればいい(?)と思ってるな!?

 しかも左腕だけ、肘の辺りまで絆創膏でグルグル巻きになっている。

 完全にただの厨二病患者に成り下がってしまった……。


「え……もしかしてお腹いっぱいなの……?」

「いや……」


 そんなウルウルした眼で見られても……。


「……い」

「い?」

「……いただきます」

「本当に!? しょうがないわね! はいどうぞ」

「……ありがとう」


 弁当箱の蓋を開けると、弁当箱いっぱいにオムライスが敷き詰められており、その上にはケチャップでハートマークが書かれていた。


「あ! 違うから! そのハートマークは、好き好き大好きっていう意味じゃないから!」

「うん、わかってる。いただきまーす」


 俺はオムライスを一口食べた。

 ……。

 甘ーい!!!!!

 なんでオムライスが甘いんだよ!?

 これはもう悪意あるだろ!?


「どう? 美味しい?」

「……美味しいよ」

「やったあ!」


 「……惣菜コーナーで買ったオムライスに、砂糖を混ぜてよかった」と沙魔美が小声で呟いたのを聞いて、俺は不覚にも殺意を抱いてしまった。

 最早自分で作ってすらいねーし、完全にただの嫌がらせじゃねーか!

 俺は、フワフワ悪意のオムライスを、胃袋の限界リミットオブスタマクと死闘を繰り広げながら、何とか完食した。

 すると沙魔美が言った。


「さあ堕理雄、いよいよ試合は九回裏、ツーアウト満塁で、ホームランが出ればサヨナラ。バッターは堕理雄よ」

「あ、そこは端折るんだ……」


 まあいいけど。

 正直、もう歩くのもしんどい。

 多分沙魔美が、魔法でホームランにしてくれるんだろう。

 それでやっと、この地獄ともサヨナラだ。

 俺はハアハア言いながら、バッターボックスに立った。


「ククク、これで決着をつけるぞ、我がライバルよ。喰らえ! 伝説の魔球キューティクルイイヨコイヨムネニカケテムネニキューティクルチェンジアップ!」


 今キューティクル二回言っただろ?

 しかも本当にチェンジアップを投げてきた。

 チェンジアップは投げるのがバレてたら、ただの遅い球だぞ。

 これなら素人の俺でも、バットに当てるくらいはできる。

 思い切りバットを振ると、快音を響かせてボールは高く上がっていった。

 よし、後は頼むぞ沙魔美。

 これで逆転満塁サヨナラホームランだ。

 ……ん?

 これ微妙に、スタンドには届かなくないか?


「堕理雄! 走って!」

「え?」

よ!」

「……マジかよ」


 誰かさんのせいで、俺の胃袋は今、イカ飯みたいにパンパンになってんだぞ。

 この上お前は、まだ俺に全力疾走しろというのか?


「どうしたの堕理雄!? ミナミを甲子園に連れてってくれるんじゃなかったの!?」


 こんな鬼畜なミナミちゃんがいるか。

 お前それ言いたいだけだろ?

 ああもう、俺がゲロイン(?)になっても知らないからな!


「チックショオオオオッ!!」


 俺は魂のシャウトをしながら、ダイヤモンドを駆け抜けた。

 一塁、二塁……三塁も回った。

 後はホームベースだけ。

 だがホームまであと少しというところで、俺のすぐ横を、キャッチャー目掛けてボールが飛んでいくのが見えた。

 クソッ! 間に合わないか!?

 俺は一か八か、ホームに向かってヘッドスライディングした。

 判定は……。


「セーフ!」

「堕理雄ー!!!」


 沙魔美はアルマゲ〇ンのテーマをBGMに流しながら、俺の下に駆け寄ってきた。

 そして俺達は熱い抱擁を交わした。


「堕理雄……あなたならできるって信じてたわ」

「ああ……自分でもビックリだよ」


 そして今にも吐きそうだ。


「堕理雄、この試合に勝ったら、伝えたいことがあるって言ってたわよね?」

「あ、ああ……」


 言ってないけど。


「実は私……子供の頃から、堕理雄のことがずっと好きだったの……。ほ、本当よ!」

「……」


 デレたな。


「な、何とか言いなさいよ!」

「……俺もずっと好きだったよ、沙魔美」

「本当に!? 嬉しい!」


 俺達は軽く触れるくらいの、初々しいキスをした。


「……なあ、沙魔美」

「何? 堕理雄」

「何で急に、こんな茶番ことしようと思ったんだ?」

「……だって」

「?」

「……最近堕理雄、いろんな女の子にチヤホヤされてるから、私のことなんてどうでもよくなっちゃったかと思って……」

「……」


 何だ、そんなことか。

 普段はグイグイ来るくせに、意外と自分に自信ないよな沙魔美は。

 いや、自信がないからこそ、グイグイしてないと不安になっちゃうのか?


「バカだな。俺が沙魔美のことをどうでもよくなるわけないだろ」

「……本当に?」

「ああ、本当だ」

「本当に本当に?」

「本当に本当だ」

「本当に本当に本当に?」

「本当に本当に本当だ」

「監禁に監禁に監禁に?」

「監禁に監……ゴメン、今のは意味わかんない」

「フフ、愛してるわよ堕理雄」

「俺もだよ」

「……ねえ堕理雄」

「……何だ?」

「身体中、すっかり汚れちゃったわね」

「お陰様でな」

「じゃあ、今から二人でシャワーを浴びましょ。私が全身くまなく洗ってあげるわ」

「……」


 やっぱりこっちのほうが沙魔美らしいな。

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