目次
ブックマーク
応援する
9
コメント
シェア
通報

第19魔:ご馳走してあげるわよ

「みなさん、今日は折り入ってお願いがあるのですが」

「何かしら未来延さん。私達にできることなら何でもするわよ」

「ん? 今何でもするって言ったよね?」

「沙魔美、そんなにすぐ安請け合いするなよ。未来延ちゃんも、あまり沙魔美に変なことはさせないでくれるかな」


 今日もスパシーバの夕方の開店と共に沙魔美と菓乃子がやって来て、延々とダベっていたところ、未来延ちゃんからお声が掛かった。


「いえいえ、決して変なことではありませんよ。実はお父さんから、そろそろうちの店も新メニューを出したいと言われまして。みなさんに新メニューのアイデアを出していただけないかというのがお願いです。お礼は、うちの店のお食事券でどうでしょう?」

「アラ、面白そうじゃない。そういうことなら、平成のもこ〇ちと呼ばれた私が一肌脱ごうじゃない。いいわよね? 菓乃子氏」

「え、う、うん」

「もこ〇ちも平成だけどな」


 まあ、そういうことなら、別に問題はないか。

 沙魔美はこう見えて、料理は得意だし。


「じゃあ例によってマイシスターも呼びましょう。さあ、今日のマイシスターはどんな醜態を晒してくれるのかしら(ワクワク)」

「晒す前提で話を進めるな!」


 確かに前回みんなで海に行く話をした時は、この時間はお風呂に入っていたが……。

 沙魔美が指をフイッと振ると、俺達の目の前に、全裸でシャンプーハットを被りながら頭を洗っている真衣ちゃんが現れた。

 そ……ッッ、そうきたかァ~~~ッッッ。


「フンフフ~ン。……って、あれ? この感じ……悪しき魔女! あなたまたやりやがりましたね!? ちょっと私今、頭洗ってるから目を開けられないんですよ! 早く何とかしてください! お兄さんもそこにいるんですよね!? そろそろ責任を取って、私と結婚してください!!」

「どさくさに紛れて求婚しないでよ真衣ちゃん。俺は目をつぶってるから、沙魔美は早く真衣ちゃんを何とかしてあげろよ」

「しょうがないなぁ、の〇太くんは」

「誰がの〇太くんだ」


 沙魔美が指をフイッと振ると(俺は目をつぶっているので、そんな気がしただけだが)、真衣ちゃんの「えぇっ!?」という驚嘆の声が聞えた。

 うちの闇堕ちしたドラ〇もんは、今度はどんな非魅津怒雨愚ヒミツドウグを使いやがった!?

 俺が目を開けると目の前には……。


 幼稚園児が身につけるような、スモックと黄色い帽子を無理矢理着せられた真衣ちゃんが、顔を真っ赤にして立っていた。

 ウルトラマニアック!


「悪しき魔女……許しません……許しませんよ……」

「大丈夫。堕理雄はロリコン紳士だから、今のマイシスターを見て、必死に本能と戦ってるわよ」

「えっ!? お兄さんって紳士だったんですか!?」

「沙魔美、勝手にひとを紳士にするな。真衣ちゃんに早く普通の服を着せてやれ。可哀想だろ」

「酷いわ堕理雄! 女の子にここまでさせておいて、恥をかかせる気なの!?」

「お前が無理矢理させたんだろうが!!」

「お兄さん……」

「え」


 真衣ちゃんが潤んだ瞳で俺を見ている。

 いや、そんな目で見られても……。


「……と」

「と?」

「……とてもよく似合ってるよ」

「本当ですか!」


 真衣ちゃんの顔が一瞬で、太陽の様にパアッと光り輝いた。

 嗚呼、俺はまた一つ罪を犯してしまった……。

 でもどうせ沙魔美は他の服を着せる気はないだろうし、だったら真衣ちゃんが少しでも気が楽になったほうがいいもんな。

 ……本当によかったのかな?


「事案ちゃん……間違えた、真衣ちゃん。今日はみなさんに、うちの店の新メニューを開発していただこうという企画なのですよ」

「今、何と間違えましたか未来延さん? 新メニュー……それって味見役は、お兄さんにやってもらえるんですか?」

「もちろんですよ」

「えっ? そうなの? 俺聞いてないけど……」

「私が今決めました」

「そんな……」

「じゃあ私も参加します!」

「おっ、やってるな諸君」

「伊田目さん」

「そういうことだから、みんな一つ頼むぜ。じゃあ他の客邪魔者が来ないように、今日はもう店閉めちまおう」

「伊田目さん、お客さんに『邪魔者』とルビを振るのは、如何なものかと思いますよ」

「イッケネ! メンゴメンゴ」


 イラッ。

 この親子は本当に食えないな。

 伊田目さんは鼻歌を歌いながら、さっさと店を閉めてしまった。


「よし、みんな厨房は好きに使ってくれていいからよ。普津沢の腹の皮を捩れさせてやってくれ」

「伊田目さん、その慣用句は使い方が間違ってます」


 そもそも素人に、自分の店の厨房を使わせていいんですか?

 ハァ……何かまた、ろくなことにならなそうな気しかしない。

 FU・A・N・DA・ZE(急にどうした)。




 三十分後。


「お ま た せ。まずは私の開発した料理から食べてちょうだい」

「真面目に作ったんだろうな沙魔美?」

「真面目かどうかは置いておいて、私は二品作りました」

「置いておくな」


 まあ、とりあえず見てみるか。


「一品目はこれよ!」


 沙魔美はパッと見、ごく普通のサンドイッチを俺の前に置いた。


「沙魔美、これは?」

「名付けて、『BL・Tサンド』よ!」

「変なところに『・』を付けるな。つまりただのベーコンレタストマトサンドじゃないか」

「そうとも言うわね」

「そうとしか言わねーよ」


 俺はサンドイッチを一口食べた。

 ……美味い。

 何の変哲もないサンドイッチだけど、普通に美味いは美味いな。

 でも普通過ぎて、新メニューって感じじゃないな。

 60点ってとこか。


「まあ味は悪くなかったよ。で? もう一品は?」

「次はこれよ!」


 沙魔美はまたしても、ごく普通のハンバーグを俺の前に置いた。


「……これも普通のハンバーグに見えるけど?」

「今度のは、特殊なお肉を使っているのよ」

「へえ、何の肉?」

「名付けて、『ハクユウコウハンバーグ』よ!」

「フザケるな。食えるかそんなもん」


 伝説のトラウマ展開をこんなところで再現するな。

 マイナス100点だ。


「んもぉ~ん。相変わらず堕理雄ちゃんはおカタいのねえ~ん」

「なんで口調までダ〇キちゃんみたいになってんだよ」


 鬼畜っぷりは通ずるものがあるが。


「どきなさい悪しき狐め! お兄さん、次は私の料理を食べてください!」

「ああ、いただくよ」


 真衣ちゃんもすっかりスモックが板についてきた(それでいいのか?)。

 まあ、真衣ちゃんの料理なら大丈夫だろう。

 ……大丈夫だよね?


「私のはこれです!」

「え」


 真衣ちゃんはお弁当箱に入った、ごく普通のお弁当を俺の前に置いた。

 焼き鮭や、玉子焼き等の、定番のおかずが並んでいる。


「……真衣ちゃん、これは?」

「名付けて、『愛情満点、愛妻弁当』です!」

「……」


 イタリアンレストランの新メニューだって言ったよね?

 イタリアンレストランに来たお客さんが、愛妻弁当を出されたらどう思うかな?

 十中八九、モニタリ〇グの撮影だって思うんじゃないかな?

 ただ、曇りなきまなこで見つめてくる真衣ちゃんに、そんなことは言えなかった。

 俺は心の中だけで溜息をついて、お弁当を一口食べた。

 ……うん、美味しい。

 良くも悪くも普通のお弁当だ。

 ただ、やっぱりモニタリ〇グはできれば避けたいな。

 ……50点かな。


「ご馳走様。美味しかったよ」

「はあ~、私このお弁当箱、一生洗いません」

「いや、それは今日中に洗ってね」


 それにしてもヤバいな。このままじゃ確実に企画倒れだ。

 あと残ってるのは菓乃子だけか。

 頼むぞ菓乃子!


「次は私だね。えーと、私の料理は……これです」

「……おお!」


 菓乃子は数種類のキノコが乗った、カルボナーラ風のパスタを俺の前に置いた。

 キタコレ!

 やっとそれっぽいのが出てきた!

 これで勝つる!


「菓乃子! これは?」

「えーと、『和風カルボナーラ』かな?」

「ほほう!」


 いいじゃない!

 っぽいじゃない!

 では、いただきまーす!


 パクッ


 ……。

 …………。

 ………………。

 クッソマジーーー!!!!!

 何だこれは!? 人間の食い物じゃないだろ!?!?

 喰種がハンバーガーを食べた時みたいな味がする。

 確かに俺が菓乃子と付き合っていた時は、菓乃子の手料理を食べる機会は一度もなかったが、まさかこんなことになっていようとは。

 なんということでしょう。

 この小説唯一の良心だと思われていた菓乃子が、こんなメシマズキャラだったなんて……。

 てか最近菓乃子の株の暴落っぷりが半端なくない!?

 作者は菓乃子に恨みでもあるのか!?


「ど、どうかな? 堕理雄君……」

「あ、うん、そうだね……」


 自覚はない感じか……。

 菓乃子のためには、正直に言ってあげた方がいいんだろうけど。


「……こ」

「こ?」

「……個性的な味だけど、とても美味しいよ」

「本当! よかった!」


 俺の意気地なしー!!!

 これで将来、菓乃子と付き合った男が食中毒で倒れたら俺の責任だぞ!

 しかし残念だが、この料理は0点だな。

 マジでどうすんだ?

 どれもこれも、とてもお客さんに出せるレベルじゃねーぞ。


「おや? 普津沢さん、どうしました? 浮かない顔ですね」

「未来延ちゃん……」

「では不肖、ワタクシめも参戦させていただきましょうかね」

「え?」


 未来延ちゃんはトマトとナス等をふんだんに使った、とても良い匂いがするパスタを俺の前に置いた。


「……これは?」

「私が思い付きで作った、『夏野菜ゴロゴロパスタ』です」

「……」


 パクッ


 メチャクチャ美味い!!

 100点満点!

 はい、採用。


 ……何だったんだこの時間は!?

 最初から未来延ちゃんだけでよかったじゃねーか!?

 それなら少なくとも、菓乃子の株はこんなにも暴落することはなかったのに……。


「フフ、流石ね未来延さん。今回は私の負けだわ。でも次はこうはいかなくってよ」

「だから何で毎回お前は健闘した風の態度なんだよ。お前の圧敗だからな」


 まあ沙魔美も真面目に作ってればいい勝負ができるんだろうけど、ある意味それが一番難しいからな。


「そうだわ堕理雄」

「? 何だよ」


 沙魔美は俺に身体を密着させて、俺だけに聞こえるように耳元で囁いた。


「今夜は私が女体盛りを、堕理雄にご馳走してあげるわよ」

「なっ」


 ……。

 これはまさに、魔女と海の幸の、コラボレイションや~(彦並感)。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?