「みなさん、今日は折り入ってお願いがあるのですが」
「何かしら未来延さん。私達にできることなら何でもするわよ」
「ん? 今何でもするって言ったよね?」
「沙魔美、そんなにすぐ安請け合いするなよ。未来延ちゃんも、あまり沙魔美に変なことはさせないでくれるかな」
今日もスパシーバの夕方の開店と共に沙魔美と菓乃子がやって来て、延々とダベっていたところ、未来延ちゃんからお声が掛かった。
「いえいえ、決して変なことではありませんよ。実はお父さんから、そろそろうちの店も新メニューを出したいと言われまして。みなさんに新メニューのアイデアを出していただけないかというのがお願いです。お礼は、うちの店のお食事券でどうでしょう?」
「アラ、面白そうじゃない。そういうことなら、平成のもこ〇ちと呼ばれた私が一肌脱ごうじゃない。いいわよね? 菓乃子氏」
「え、う、うん」
「もこ〇ちも平成だけどな」
まあ、そういうことなら、別に問題はないか。
沙魔美はこう見えて、料理は得意だし。
「じゃあ例によってマイシスターも呼びましょう。さあ、今日のマイシスターはどんな醜態を晒してくれるのかしら(ワクワク)」
「晒す前提で話を進めるな!」
確かに前回みんなで海に行く話をした時は、この時間はお風呂に入っていたが……。
沙魔美が指をフイッと振ると、俺達の目の前に、全裸でシャンプーハットを被りながら頭を洗っている真衣ちゃんが現れた。
そ……ッッ、そうきたかァ~~~ッッッ。
「フンフフ~ン。……って、あれ? この感じ……悪しき魔女! あなたまたやりやがりましたね!? ちょっと私今、頭洗ってるから目を開けられないんですよ! 早く何とかしてください! お兄さんもそこにいるんですよね!? そろそろ責任を取って、私と結婚してください!!」
「どさくさに紛れて求婚しないでよ真衣ちゃん。俺は目をつぶってるから、沙魔美は早く真衣ちゃんを何とかしてあげろよ」
「しょうがないなぁ、の〇太くんは」
「誰がの〇太くんだ」
沙魔美が指をフイッと振ると(俺は目をつぶっているので、そんな気がしただけだが)、真衣ちゃんの「えぇっ!?」という驚嘆の声が聞えた。
うちの闇堕ちしたドラ〇もんは、今度はどんな
俺が目を開けると目の前には……。
幼稚園児が身につけるような、スモックと黄色い帽子を無理矢理着せられた真衣ちゃんが、顔を真っ赤にして立っていた。
ウルトラマニアック!
「悪しき魔女……許しません……許しませんよ……」
「大丈夫。堕理雄は
「えっ!? お兄さんって紳士だったんですか!?」
「沙魔美、勝手にひとを紳士にするな。真衣ちゃんに早く普通の服を着せてやれ。可哀想だろ」
「酷いわ堕理雄! 女の子にここまでさせておいて、恥をかかせる気なの!?」
「お前が無理矢理させたんだろうが!!」
「お兄さん……」
「え」
真衣ちゃんが潤んだ瞳で俺を見ている。
いや、そんな目で見られても……。
「……と」
「と?」
「……とてもよく似合ってるよ」
「本当ですか!」
真衣ちゃんの顔が一瞬で、太陽の様にパアッと光り輝いた。
嗚呼、俺はまた一つ罪を犯してしまった……。
でもどうせ沙魔美は他の服を着せる気はないだろうし、だったら真衣ちゃんが少しでも気が楽になったほうがいいもんな。
……本当によかったのかな?
「事案ちゃん……間違えた、真衣ちゃん。今日はみなさんに、うちの店の新メニューを開発していただこうという企画なのですよ」
「今、何と間違えましたか未来延さん? 新メニュー……それって味見役は、お兄さんにやってもらえるんですか?」
「もちろんですよ」
「えっ? そうなの? 俺聞いてないけど……」
「私が今決めました」
「そんな……」
「じゃあ私も参加します!」
「おっ、やってるな諸君」
「伊田目さん」
「そういうことだから、みんな一つ頼むぜ。じゃあ
「伊田目さん、お客さんに『邪魔者』とルビを振るのは、如何なものかと思いますよ」
「イッケネ! メンゴメンゴ」
イラッ。
この親子は本当に食えないな。
伊田目さんは鼻歌を歌いながら、さっさと店を閉めてしまった。
「よし、みんな厨房は好きに使ってくれていいからよ。普津沢の腹の皮を捩れさせてやってくれ」
「伊田目さん、その慣用句は使い方が間違ってます」
そもそも素人に、自分の店の厨房を使わせていいんですか?
ハァ……何かまた、ろくなことにならなそうな気しかしない。
FU・A・N・DA・ZE(急にどうした)。
三十分後。
「お ま た せ。まずは私の開発した料理から食べてちょうだい」
「真面目に作ったんだろうな沙魔美?」
「真面目かどうかは置いておいて、私は二品作りました」
「置いておくな」
まあ、とりあえず見てみるか。
「一品目はこれよ!」
沙魔美はパッと見、ごく普通のサンドイッチを俺の前に置いた。
「沙魔美、これは?」
「名付けて、『BL・Tサンド』よ!」
「変なところに『・』を付けるな。つまりただのベーコンレタストマトサンドじゃないか」
「そうとも言うわね」
「そうとしか言わねーよ」
俺はサンドイッチを一口食べた。
……美味い。
何の変哲もないサンドイッチだけど、普通に美味いは美味いな。
でも普通過ぎて、新メニューって感じじゃないな。
60点ってとこか。
「まあ味は悪くなかったよ。で? もう一品は?」
「次はこれよ!」
沙魔美はまたしても、ごく普通のハンバーグを俺の前に置いた。
「……これも普通のハンバーグに見えるけど?」
「今度のは、特殊なお肉を使っているのよ」
「へえ、何の肉?」
「名付けて、『ハクユウコウハンバーグ』よ!」
「フザケるな。食えるかそんなもん」
伝説のトラウマ展開をこんなところで再現するな。
マイナス100点だ。
「んもぉ~ん。相変わらず堕理雄ちゃんはおカタいのねえ~ん」
「なんで口調までダ〇キちゃんみたいになってんだよ」
鬼畜っぷりは通ずるものがあるが。
「どきなさい悪しき狐め! お兄さん、次は私の料理を食べてください!」
「ああ、いただくよ」
真衣ちゃんもすっかりスモックが板についてきた(それでいいのか?)。
まあ、真衣ちゃんの料理なら大丈夫だろう。
……大丈夫だよね?
「私のはこれです!」
「え」
真衣ちゃんはお弁当箱に入った、ごく普通のお弁当を俺の前に置いた。
焼き鮭や、玉子焼き等の、定番のおかずが並んでいる。
「……真衣ちゃん、これは?」
「名付けて、『愛情満点、愛妻弁当』です!」
「……」
イタリアンレストランの新メニューだって言ったよね?
イタリアンレストランに来たお客さんが、愛妻弁当を出されたらどう思うかな?
十中八九、モニタリ〇グの撮影だって思うんじゃないかな?
ただ、曇りなき
俺は心の中だけで溜息をついて、お弁当を一口食べた。
……うん、美味しい。
良くも悪くも普通のお弁当だ。
ただ、やっぱりモニタリ〇グはできれば避けたいな。
……50点かな。
「ご馳走様。美味しかったよ」
「はあ~、私このお弁当箱、一生洗いません」
「いや、それは今日中に洗ってね」
それにしてもヤバいな。このままじゃ確実に企画倒れだ。
あと残ってるのは菓乃子だけか。
頼むぞ菓乃子!
「次は私だね。えーと、私の料理は……これです」
「……おお!」
菓乃子は数種類のキノコが乗った、カルボナーラ風のパスタを俺の前に置いた。
キタコレ!
やっとそれっぽいのが出てきた!
これで勝つる!
「菓乃子! これは?」
「えーと、『和風カルボナーラ』かな?」
「ほほう!」
いいじゃない!
っぽいじゃない!
では、いただきまーす!
パクッ
……。
…………。
………………。
クッソマジーーー!!!!!
何だこれは!? 人間の食い物じゃないだろ!?!?
喰種がハンバーガーを食べた時みたいな味がする。
確かに俺が菓乃子と付き合っていた時は、菓乃子の手料理を食べる機会は一度もなかったが、まさかこんなことになっていようとは。
なんということでしょう。
この小説唯一の良心だと思われていた菓乃子が、こんなメシマズキャラだったなんて……。
てか最近菓乃子の株の暴落っぷりが半端なくない!?
作者は菓乃子に恨みでもあるのか!?
「ど、どうかな? 堕理雄君……」
「あ、うん、そうだね……」
自覚はない感じか……。
菓乃子のためには、正直に言ってあげた方がいいんだろうけど。
「……こ」
「こ?」
「……個性的な味だけど、とても美味しいよ」
「本当! よかった!」
俺の意気地なしー!!!
これで将来、菓乃子と付き合った男が食中毒で倒れたら俺の責任だぞ!
しかし残念だが、この料理は0点だな。
マジでどうすんだ?
どれもこれも、とてもお客さんに出せるレベルじゃねーぞ。
「おや? 普津沢さん、どうしました? 浮かない顔ですね」
「未来延ちゃん……」
「では不肖、ワタクシめも参戦させていただきましょうかね」
「え?」
未来延ちゃんはトマトとナス等をふんだんに使った、とても良い匂いがするパスタを俺の前に置いた。
「……これは?」
「私が思い付きで作った、『夏野菜ゴロゴロパスタ』です」
「……」
パクッ
メチャクチャ美味い!!
100点満点!
はい、採用。
……何だったんだこの時間は!?
最初から未来延ちゃんだけでよかったじゃねーか!?
それなら少なくとも、菓乃子の株はこんなにも暴落することはなかったのに……。
「フフ、流石ね未来延さん。今回は私の負けだわ。でも次はこうはいかなくってよ」
「だから何で毎回お前は健闘した風の態度なんだよ。お前の圧敗だからな」
まあ沙魔美も真面目に作ってればいい勝負ができるんだろうけど、ある意味それが一番難しいからな。
「そうだわ堕理雄」
「? 何だよ」
沙魔美は俺に身体を密着させて、俺だけに聞こえるように耳元で囁いた。
「今夜は私が女体盛りを、堕理雄にご馳走してあげるわよ」
「なっ」
……。
これはまさに、魔女と海の幸の、コラボレイションや~(彦並感)。