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第20魔:お見せしましょうか?

「堕理雄、今週の案校アンコウ(※『突き抜けろ! 私立案張矢茶絵アンチャンヤッチャエ高校ラグビー部』の略称)は面白かったわね。まさか校長先生が『第三の乳首』の持ち主だったなんて」

「沙魔美! 俺は単行本派なんだからネタバレはやめろよ!」

「アラ、そうだっけ? それはゴメンなさい」

「本当に反省してんのか?」


 まったく、こいつはつくづく、本能が服を着ないで歩いてるような女だな。


 今日も俺達は飽きもせず買い物をするために出掛けているのだが、沙魔美がたまには他の場所で買い物がしてみたいというので、今日は俺達の住んでる肘川ひじかわ市の隣の、船鉢ふなばち市に来ている。

 ここには県内でも有数の、大型ショッピングモールがあるのだ。


「アラ? あの方は……」

「ん? どうかしたか?」


 俺達がショッピングモールに向かって歩いていると、前方からメガネを掛けた美人のおねえさんが、こちらに向かって歩いてきた。

 あれ? この人どこかで見たことある気がする……。ただ、随分顔色が悪いけど、大丈夫かな?

 そう思った矢先、おねえさんがふらついて、その場で前のめりに倒れそうになった。

 危ない!

 俺は咄嗟におねえさんを支えるべく、手を出した。

 すると運悪く(運良く?)俺の手がおねえさんの胸に当たってしまい、むにゅんと、とても心地良い弾力が手のひらに感じられた。

 ジーザス。


「……堕理雄。あなたは何回私の目の前で浮気をすれば気が済むの? 地球がどうなってもいいの?」

「よくないよ! いつも言ってるけど不可抗力なんだって! 今だってこの人を支えようとして……」

「それはよくやったわ。何故なら、この方は日本の宝だもの」

「え? 知ってる人なのか?」


 おねえさんは俺の腕の中で、気を失っている。


「この方は私が敬愛している、B漫画家の諸星つきみ先生よ」

「……ああ」


 海に行った時に、前回のあらすじを担当してた人ね。




「……ん……ううん」

「お目が覚めましたか? 無理せずそのまま寝ててくださいね」

「……あの、あなたたちは? それにここはどこでしょう?」

「ここは私の住んでるマンションです。私は諸星先生の信者の病野沙魔美と申します。勝手とは思いましたが、先生が気を失われていたので、私の家に運ばせていただきました。こちらは私の未来の夫の堕理雄です」

「……どうも」


 あの後すぐに魔法で沙魔美の家にワープしてきて、諸星先生をベッドに寝かせたのだ。


「あ、それはとんだご迷惑を……。その、病野さんは私のことをご存知なんですか?」

「もちろん! 先生のデビュー作の『課長の机がいつもヌルヌルしているのはなんで!?』から、全作愛読していますわ」

「ああ! あれは若さに任せて勢いで描いただけなんで忘れてください! 黒歴史なんです……」

「そんなことはありませんわ! 机がヌルヌルしている理由がわかったシーンなんて、私感動して泣いちゃいましたもの」

「そう言っていただけると……作家冥利に尽きます」


 その漫画メッチャ読みたいな。

 でもB漫画なのか……。

 それはちょっとなあ。


「ところで先生、体調がお悪いようですけど、どうかされたんですか?」

「ああ……ただの寝不足なんで、気にしないでください。実は来週までに次の新作のネームを出さなきゃいけないんですけど、全然ネタが思いつかなくて……。ここ数日ほとんど寝てないんです」

「まあ! それは大変ですわ! …………先生、私達でよかったら、ネタ出しのお手伝いをいたしましょうか?」

「え、でも、そんな……」

「沙魔美! 素人が下手な口出しをするなよ!」


 しかもちゃっかり俺も頭数に入れてるし。


「アラ、私だって全くの素人ってわけじゃないのよ。一応『ナットウゴハン』ってペンネームで、同人活動はしてるんだから」

「えっ!? もしかして『腐海の魔女』のナットウゴハンさんですか!? 私、同人誌持ってます!」

「ファッ!? ほ、本当ですか……先生が私の本を……う、生まれてぎでよがっだ……」


 沙魔美は感動のあまり号泣している。

 こいつぁヤベェ匂いがプンプンするな。

 正直一刻も早く、この場から立ち去りたい。


「私、同人誌はいつも通販でしか買わないから、ナットウゴハンさんのお顔は存じ上げなかったんです。気が付かなくてごめんなさい」

「いえいえ、先生が直接会場にいらしたら、パニックになってしまいますもの、当然ですわ。でも、これで私も先生のお力になれることがわかっていただけましたか?」

「え、ええ……でも、やっぱりネタ出しは私一人でやります。だって私の漫画は……アレですし……」

「確かにこの場には男は堕理雄しかいませんものね。でもご安心ください。実は私、魔女なんです」

「え?」

「オイ! 沙魔美!」


 沙魔美が指をフイッと振ると、沙魔美はポフッと煙に包まれた。

 そして煙が晴れるとそこには……


 高身長で超絶イケメンの、いかにもドSっぽい男が立っていた。


 ……勘弁してくれ。




「ギャー! ギャー! ギャース! ギャース! ギャー! ギャー! ギャース! ギャース!」

「落ち着いてください先生! 何かのリズムゲームみたいになってますよ!」

「俺の名前は沙魔夫さまお。堕理雄とは幼稚園からの幼馴染です」


 そう言うと沙魔夫は、俺の肩に馴れ馴れしく手を回してきた。

 ウッゼェ~。


「アメイジング! 幼馴染最強! 二人は何か部活をやってたりはしないの!?」

「俺達は野球部員の高校生で、俺が部長で、堕理雄が副部長です」

「ファンタスティック! 部長と副部長は鉄板。ちなみにポジション、は?」

「俺がピッチャーで堕理雄がキャッチャー。堕理雄は所謂女房役ですね」

「はい受け確定。堕理雄たそは包容力のある男前タイプなのかしら?」

「あの、先生……」


 俺のあだ名が早くも『堕理雄たそ』になってるんですが……。


「俺は天才肌だけど我儘な厨二タイプで、堕理雄はそんな俺をいつも陰で支えてくれる、ママの様な存在です」

「ママー!!! 控えめに言って最高。ここに紙とペンはないかしら!?」

「こちらにございます」


 沙魔夫はどこからともなく、原稿用紙とGペンを取り出して諸星先生に渡した。


「ありがとう! あの、沙魔夫さん……できればここで堕理雄たそを、お姫様抱っこしてもらえないかしら?」

「お安い御用ですとも」

「オ、オイ沙魔夫! 俺は嫌だぞ!」

「ガタガタ騒ぐなよ。その口、キスで塞ぐぞ」

「マリアージュ! 式には呼んでくださーい!!」

「もちろんですよ。先生は俺達の仲人も同然ですからね(?)」


 そう言うと沙魔夫はヒョイと俺のことをお姫様抱っこした。

 普段は体力ゼロのくせに、男になったらメッチャ力あるじゃねーか。


「コングラチュレーション! ちょっとだけそのままでいてね!」

「先生……これ凄く恥ずかしんですが……」

「黙ってろよ堕理雄。後で優しく抱いてやるから」

「マジで勘弁してくれ」

「ブバー(鼻血)。うおおおおお!!!!」


 諸星先生は光の速さで原稿用紙にペンを走らせた。

 そして五分もしない内に、一本のネームを完成させた。

 ス、スゲェ。


「ハア、ハア、ハア、さ、沙魔夫さん、読んでいただけるかしら?」

「拝見しましょう」


 沙魔夫はいつになく真剣な面持ちで、ネームを読み始めた。

 そして最終ページまで読み終わった後、諸星先生に凛とした顔でこう言った。


「涙とともにパンを食べたものでなければ、人生の味は分からない」


 ……。

 なんでここで、ゲーテの名言が出てくるんだよ。

 漫画と全然関係ないし。


「あ、ありがどうございまずうう~」


 え!?

 諸星先生、突然の号泣である。

 なんで!?

 今のどこに、そんな感動するところがありました!?


「今の台詞は、先生の出世作、『ハーイ、こちら限界集落クリーニング店』で、主人公が初めて上手くワイシャツをクリーニングできた時に、店長から言われた台詞なんだよ」

「あ、そうなの……」


 だから号泣したのか。

 しかし諸星先生の漫画は、どれも内容が凄く気になるな。

 B漫画じゃなければ、是非読んでみたいんだけどな……。


「今日は本当にありがとう、沙魔夫さん、堕理雄たそ。必ずやこのネームで、新連載を勝ち取ってみせるわ」

「その時は俺と堕理雄が、一人百冊ずつ単行本を買わせていただきますよ」

「さ、沙魔夫! 俺は貧乏学生なんだから……」


 そもそも自分がモデル(しかも受け)のB漫画なんか、怖くてとても読めないよ。


「フフフ、あ、そうだ先生」

「? 何ですか?」

「エッチシーンの参考に、今から俺と堕理雄の絡みをお見せしましょうか?」

「え!? ………………是非」

「是非じゃないですよ!!」


 てか今回、男性読者付いて来れてる!?

 次回の話は腐ってないから安心してね!(迫真)

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