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第34魔:もう何も言うな

「ラブコメがしたいのよおおおお!!!!」

「ビックリした!? 今度は何だ沙魔美!?」


 今日も俺と沙魔美は俺の家で熟年夫婦のごとくゴロゴロしているのだが、何の前触れもなくまた沙魔美が叫び出した。

 ラブコメがしたい?

 どういうことだ?


「堕理雄、あなたはこの小説に足りないのは何だと思う?」

「そりゃ挙げたらキリがないだろ。センスだろ、モラルだろ、あと構成力に魅力的なキャラクターと……」

「それはね! ラブコメ感よ!!」

「たまには俺の話も聞いてくれよ。それに何だよラブコメ感って?」

「この小説は、既に私達が付き合ってる状態から始まったじゃない?」

「……まあ、そうだな」

「でもラブコメの一番の見せ場って、主人公とヒロインがくっつくまでのモダモダした感じだと思うの」

「そんなことはないだろ。主人公とヒロインが付き合ってる状態から始まるラブコメでも、名作は沢山あるぞ」

「そういう意見は今は求めてないの」

「出た、沙魔美節」

「とにかく私は、私と堕理雄が付き合うまでを描いたラブコメをやりたいのよ!」

「やりたいって言ってもどうやって? いや、やっぱり言わなくていい」

「では私達は高校生のクラスメイトね。シチュエーションはそうね……朝一の、私達以外誰もいない教室にしましょう」

「結局またいつぞやの寸劇をやるのかよ! 俺もうヤだよ!」

「イエス以外の返事は、今は求めてないの」

「出た、沙魔美大魔王」


 沙魔美が指をフイッと振ると、俺の部屋が一瞬で学校の教室に変わり、沙魔美はセーラー服に、俺は学ランに着替えていた。

 俺の高校はブレザーだったんだけど、もしかして沙魔美って学ランフェチなのか?




「おはよう普津沢君。今日も早いね」

「あ、ああ、おはよう、沙魔……病野さん」


 何だかお互いを苗字で呼び合うのは新鮮だ。

 さっきはああ言ったけど、やってみらたら少しだけ楽しくなってきたかもしれない。


「……ねえ、普津沢君」

「ん? 何?」

「ありがとね、この間は。ヒグマに襲われてるところを助けてくれて……」

「……ああ、当然のことをしたまでだよ」


 ヒグマ!?

 ヒグマって何!?

 女子高生がヒグマに襲われてるって、どんなシチュエーションだよ!?


「あと昨日はカニの大群からも助けてくれたし、本当にカッコよかったよ」

「いえいえ、どういたしまして」


 北海道だ!

 これ舞台が北海道の大自然の中の学校とかなんだろ!?


「……普津沢君、普津沢君はさ…………好きな人とか、いる?」

「え……」


 ……これはどう言うのが正解なんだ?

 多分俺と病野さんは両想いなんだろうけど、まだお互いの気持ちは知らないのかな?

 だったらこれを機会に、「好きな人は君だよ」って言っちゃうのもアリか?

 いや、でも、それだと万が一両想いじゃなかった時に、死ぬ程恥ずかしいし、かと言って「好きな人はいない」って言うのはどうなんだろう?

 ……クソッ、こんなことなら、普段からもっとギャルゲーをやっておけばよかった。

 ギャルゲーを怠ったツケが、こんなところで回ってくるとは。

 どうする?

 どう答える……?


「……好きな人は、いないかな」

「そうなんだ! へえ、そうなんだー」


 病野さんはパアッと明るい顔になり、ニコニコしながら両手で頬杖を突いた。

 よし、何とか正解だったみたいだな。

 しかし、こうやって無数の選択肢を選び続けるのがラブコメの主人公なら、俺にはとても務まりそうにないな。

 まあ、中には間違った選択肢ばかりを選び続ける主人公もいるけど。


「じゃあさ、じゃあさ、普津沢君の好きな女の子のタイプは?」

「え? タイプ?」


 ……これまた難しい質問だな。

 しかも今回はイエスノーの二択じゃなく、答えが無限にあるやつだ。

 クソッ! 何故プレイしているところを親に見つかったら恥ずかしいからという理由だけで、今日こんにちまでギャルゲーを避けてきたんだ過去の俺!

 これからは頑張ってギャルゲーもプレイしますので、読者のみなさん、オススメのギャルゲーがあったら教えてください!

 しかしこれは本当に難しいぞ。

 病野さんは容姿は百点だが、見た目が可愛い子がタイプなんて言ったら反感を買いそうだし(もちろん巨乳が好きなんてのは論外だ)、かと言って性格はお世辞にも良いとは言えないしなあ……。

 何か他に病野さんの長所は……。

 ハッ、そうだ!


「料理が上手い、家庭的な子がタイプかな」


 これは我ながら良い答えじゃないか?

 病野さんは実際料理が得意だし、家庭的な子がタイプってのは、可もなく不可もなく無難な答えな気がする。


「あ……そうなんだ。私は料理は苦手だから、料理の上手い子って憧れちゃうな」

「え!?」


 病野さんは料理苦手なの!?

 もしかしてこれ、病野さんと沙魔美は同一人物じゃないのか!?

 だとしたら難度は途端に跳ね上がるぞ……。

 これがもし料理が苦手だった沙魔美が、俺と付き合い始めてから頑張って料理の勉強をしたとかだったらドチャクソ萌えるが、今はそんなことを考えてる場合ではない。

 何か他の手を考えなくては。

 ……よし、少しズルいが、これでいこう。


「あ! あと、共通の趣味を持ってる女の子だと、話が弾むよね」

「え? 趣味?」


 これなら病野さんがどんな趣味を持っていても、「俺もそれ好きなんだよ」と言っておけばオッケーだ。

 ズルい手なのは百も承知だが、今はなりふり構っていられない。


「ちなみに病野さんの趣味は何なの?」

「わ、私の趣味はね……ちょっと恥ずかしいんだけど、男の子同士がイチャイチャしてる漫画を読むことなの」

「あ……そっ、か」


 そこはまんまなのかよ!!?

 病野さんの攻略難度高すぎだろ!?

 これが噂に名高い藤崎〇織か!?(違う)

 これは困ったぞ……。

 ここで「俺もそれ好きなんだよ」と言ったら、恋愛対象が女性じゃないと思われそうだし、「俺は興味ない」なんて言ったら嫌われるかもしれない。

 万策尽きた!

 こうなったらもう、一か八か無理矢理話題を変えるしかない。


「と、ところでさ、病野さんの好きな男性のタイプはどんな人なの?」

「私の? うーん、好きなタイプかあ……」


 よし……何とか話題が逸れそうだ。

 だが病野さんのことだ、何が飛び出してくるかわからないから、気を引き締めないと。


「優しくて、包容力のある人かな」

「……ふーん」


 普通ー!!!

 そしてメッチャ当たり障りのない答え!

 こんなので俺を好きだって断定するのは無理だろ!?

 あれ?

 これ、病野さんは本当に俺のこと好きなのかな……?

 さっきから会話もチグハグだし、もしかして告白したら、俺の片想いでしたってパティーンじゃないだろうな?

 うおお……途端に不安感で押し潰されそうになってきた……。

 やっぱ俺にはラブコメ主人公は無理だ。

 長年読者を飽きさせず毎週ドキドキさせてくれた、い〇ご100%のマ〇カ君には、最大限の敬意を払いたい(敬礼)。


「ねえ、普津沢君」

「え、ああ、何?」

「……今日の放課後って、空いてる?」

「え……うん、別に予定はないけど……」

「本当に? よかった! ……じゃあさ、今日の放課後、私の家来ない?」

「えっ!? いいの!?」

「うん」


 フォー!!!

 キタコレ!

 やっぱり俺達は両想いやったんや!(突然の関西弁)

 流石に好きでもない男を家には呼ばないだろ。

 これはフラグ立ったな。


「よかったら私の家で一緒に、男の子同士がイチャイチャしてるアニメ観ない?」

「え……」

「実は私、趣味のこと話したの普津沢君が初めてで、よかったら普津沢君と一緒に、男の子同士がイチャイチャしてるアニメ観たいなーって思って。……ダメかな?」


 そっちかよー!!!!

 腐レンドが欲しかっただけなのかよー!!!!

 ヤバい。

 これは窮地だ。

 今度こそ話を逸らすわけにはいかない。

 かと言って、ここで行かないと言ったら、確実にゲームオーバーだろう……。

 ………………ゴッドよ。


「……じゃあ、せっかくだから、行こっかな」

「ホントに!? 嬉しい! もしかして、普津沢君も男の子同士がイチャイチャしてるのを観るのが好きなの?」

「え!? いや………………好きだよ」

「やっぱり! 私達気が合うのね! ……実はね、私を守るためにヒグマと戦ってる普津沢君を見た時から、『ああ、この人もきっとBが好きなんだろうな』って思ってたの」

「……そうなんだ」


 病野さんやっぱ頭オカシイよ!!

 どこの世界に猛獣と戦ってる姿を見て、『この人Bが好きそう』って思う人間がいるんだよ!?

 完全にガンギマってる!!


「……ねえ、普津沢君」

「ん?」


 今度は何!?

 もう俺、病野さんが怖いよ!


「……実は私ね、今好きな人がいるんだ……」

「! …………そう」


 ……何だろう。

 上手く言えないけど、何だか病野さんの雰囲気がちょっと艶っぽくなったような……。


「……誰だと思う?」

「……さあ、わからないよ」

「フフフ、そんなこと言って、本当はわかってるんでしょ? 女の子のほうから言わせる気なの?」

「え、いや、それは、その……」


 ……オオフ。

 ここでこうくるのか……。

 結局最後まで俺は、病野さんの手のひらの上で転がされてたわけか。

 まあ、このほうが俺らしいかもな。

 でも最後くらいは男らしく、シッカリ決めないとな。

 ここでビシッと俺から告白して、ハッピーエンドだ!


「病野さん、俺、実はずっと君のことが――」

「ごめんね普津沢君。もう時間切れみたい」

「え? 時間切れ?」


 どういうこと?

 まさかここまできてフラれたの俺?

 そんなのもう、立ち直れないよ……?


「……実はね、私、幽霊なんだ」

「…………は?」


 えー!?!?!?

 ここにきてまさかすぎる急展開!!!

 ブッ飛んだことすればラブコメっぽい、とか勘違いしてないかい病野さん!?


「……どういうこと?」

「……私はね、所謂地縛霊みたいなの。気が付いた時からずっとここにいて……。だから誰にも見えてなかったんだけど、普津沢君だけは私に話し掛けてくれた。私、涙が出る程嬉しかったわ」

「……そんな」

「でももう時間切れだって。今さっき天国から連絡が来て、今すぐ強制的に成仏させるってさ」

「なっ!? じゃあもう、病野さんには会えないの!?」

「……そうだね」


 そんな……そんなのあんまりだ。

 まだ俺は、自分の気持ちも伝えてないのに……。


「じゃあね、普津沢君。ずっと言えなかったんだけど……私、本当は、普津沢君のこと……」

「病野さん!!」


 好きだった――。


 病野さんは最後にそう言ったような気がしたが、今となってはそれは永遠の謎となってしまった。

 目の前にいたはずの病野さんは、始めからそこに存在していなかったかのように、忽然と姿を消した。


「病野さーん!!!!」


 俺は溢れ出る涙を拭おうともせず、ただただ大声で泣き続けた。

 なんでもっと早く、好きだと言わなかったんだ。

 なんで一秒でも早く、君を抱き締めなかったんだ。

 そうすれば君を、繋ぎ止めることができたかもしれないのに。


「ごめん……ごめんよ病野さん。……俺も、君がずっと好きだったよ」

「……今の言葉本当?」

「え? 病野さん!?」


 俺は辺りを見回したが、どこにも病野さんの姿はない。


「ここよ、ここ」


 病野さんは俺の机の中から、ニュルンとところてんみたいに出てきた。

 うわっ! 気持ち悪!(失礼)


「病野さん……なんで……」

「いやーそれがね、天国で神様に言われて私もビックリしたんだけど、私は地縛霊じゃなくて、廊下で転んで頭を打って、その拍子に幽体離脱してただけなんだって」

「え……えええええ!?!?!?」


 何だよそのオチ!?


「だから保健室で寝てる私の本体に私が戻れば、万事解決だってさ。……お騒がせしました」

「……病野さん!!」

「えっ、普津沢君!?」


 俺は思わず、病野さんに抱きついた。

 そして強く強く、病野さんを抱き締めた。


「……痛いよ普津沢君」

「ごめん。でももう少しだけ、このままでいさせて」

「……うん」


 リンゴーン、リンゴーンと結婚式の教会の鐘とも、学校のチャイムとも聴こえる音が鳴ったかと思うと、いつの間にか周りの景色は俺の部屋に戻っており、俺と沙魔美の服も元通りになっていた。

 ……そうか、これ全部、ただの寸劇だったんだっけ。




「いやいや、なかなか迫真の演技だったわよ堕理雄。あなた意外と役者の才能あるんじゃない? あー楽しかった」

「……」


 俺は無言で沙魔美をお姫様抱っこし、そのままベッドに歩いていき、ベッドの上に沙魔美を押し倒した。


「え!? だ、堕理雄!? どうしちゃったの!? 珍しいじゃない、堕理雄からこんな……」

「もう何も言うな」

「っ!」

「……いいだろ?」

「……はい」


 このあと滅茶苦茶セ(ry

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