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第35魔:こんなもんじゃないけどね

11月11日 晴れ


 今日も堕理雄は監禁させてくれなかった。まったく照れちゃって。本当は監禁してほしいクセに、ワザと焦らして私の気持ちを昂らせる作戦なのね。でも実際昂ったわ。いや、むしろ滾ったわ。明日こそは絶対堕理雄を監禁する。できればそのまま一生監禁しっぱなしにしておきたいところだけど、せっかく大学に通ってるんだし、卒業くらいはさせてあげたいから、エターナル監禁、略してエタ監するのは卒業までは待ってあげるわ。嗚呼、でも堕理雄を監禁するのって、なんでこんなに楽しいのかしら。あの、最初は嫌がっているのに、段々ともう逃げ場がないことを悟り始めて、最後は私の全てを受け入れてくれる様を思い出すだけで、ご飯三升はイケるわ。……ごめんなさい、嘘ついた。本当は五升イケるわ。まったく私は日記でまで見栄を張って、まだまだ女を捨てきれてないわね。監禁を愛する者カンキニストとして、誰に見られても恥ずかしくない行動を心掛けないと。これが、ノブレス・オブリージュってやつよね。フフフ、堕理雄がいたら、「お前はまた、自分専用の辞書を作ろうとしているな?」みたいな、サムいツッコミを入れてきそうだわ。でも堕理雄は本当に優しい。何だかんだ言いながらも、いつも私のボケにちゃんとツッコんでくれる。そして、夜も私にツッコんでくれる。おっと、下ネタはマズかったわね。万が一この日記を誰かに見られた時に、私のパーソナリティを勘違いされてしまうわ。私はとても高貴で、優雅にB漫画を嗜んでいる、大人のレディなんだから。そこのところはシッカリと主張しておかないとね。……しまった。B漫画で思い出したけど、来週参加する、案校アンコウのライバル校の部長×副部長のプチオンリーイベント用同人誌、まだ半分もペン入れ終わってないわ……。そもそも昨今の同人誌イベントは、数が多すぎるのよ。別に数が多いことに文句が言いたいわけじゃないのよ。多ければその分、新規の作家さんが参加できる機会も増えるから、二次創作の発展に繋がるしね。でも私、推しカプのプチオンリーがあるイベントには、全部参加したくなっちゃうタイプだから、描いても描いても、延々に次の締め切りに追われ続けることになるのよね。まあ、自分で選んだ道だから、覚悟を決めてやるしかなんだけどね。でも正直、時々重圧で押し潰されそうになることはあるわ。自分の作品をみんなは受け入れてくれるかしら? 私は良いと思って描いてる作品でも、みんなの心には大して刺さらなかったらどうしよう? SNSに、否定的なコメントが来たらどうしよう? そんな不安は、壁サーになった今でも、決して無くなることはない。でもその分、本が完売した時の喜びは筆舌に尽くし難いわ。イベント会場で読者の方から直接、「この間の新刊、エクストリームヘヴンフラッシュでした!」なんて言ってもらえた日には、よく意味はわからないけれど、きっとこの人には深く刺さったんだろうなって思えて、それまで連日不眠不休で執筆してた疲れも、一瞬で吹き飛ぶの。そして、頭の中は、次はどんな話を描こうかってことでいっぱいになってる。これはもう、堕理雄を監禁してる時の多幸感に匹敵するわ。え? 本が売れるのと、堕理雄を監禁するのとでは、どっちのほうが幸せかって? ちょっと待って、それは愚問よ。「仕事と家庭と、どっちが大事なのよ!?」って詰問してくるメンドクサイ女みたいよ。そんなのどっちも大事に決まってるじゃない!! 同人活動しごとがあるから監禁かていを大切にできるんだし、監禁かていがあるから同人活動しごとを頑張れるのよ。どちらが欠けても、どちらも成立しないわ。そんな腑抜けた質問をしてる暇があるんだったら、さっさと新作のネームの一つも描きなさいよ! おっと。私としたことが、また日記だというのに、架空の後輩同人作家に先輩風を吹かせてしまったわ。私の悪い癖ね。ハア、でもやっぱり堕理雄を監禁しないと、執筆にも力が入らないわ。元気100倍監禁マンになれないわ。……今のも、堕理雄がいたら、「それだけはやめとけ」って怒られそうね。確かに今のは私が悪かったわ。ごめんなさい。私だって、ちゃんと悪いことしたら謝れる子なのよ。ただ、反省はしないだけで。アラ、もうこんな時間だわ。じゃあ日記はこの辺にしておいて、もう一踏ん張り、ペン入れがんばるぞい! そして明日は、どんな手を使ってでも、堕理雄を監禁するわ。かしこ







「うんうん、なかなかよく書けてるじゃない菓乃子氏。一切改行してないところとか、日記なのに『かしこ』を付けてるところとか、いかにも私っぽいわ」

「えへへ、そうかな」

「何やってるんだ、二人共?」

「菓乃子氏が私になりきって日記を書くっていう遊びよ。堕理雄も読む?」

「え、それは……読みたいような、読むのが怖いような……」

「ダメダメ! 恥ずかしいから、堕理雄君は読まないで!」

「あ、うん、そういうことなら……」

「ま、本物の私の日記は、こんなもんじゃないけどね。さて! 今日こそは3Pしましょっか!」

「えっ!?」

「なんでお前は、そんなにスリーピープルがしたいんだよ……」

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