目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

第89魔:海に着くだけで

「みなさん! よかったら来週、みんなで海に行きませんか?」


 去年もまったく同じ台詞聞いたな!?


「アラ、良い考えね未来延さん。去年に比べてメンバーも増えたし、ここらで一つ親睦を深めるためにも、みんなで海でやらかしましょうか」

「やらかす前提なのが悲しすぎる!」

「え!? 師匠の彼女さん! 海っていうと、女性がみんな薄い布切れ一枚しか身に着けない、裸同然の格好で砂浜を闊歩する、あの海のことですか!?」

「まさにその海よ琴男きゅん」


 他にどの海があるんだよ。

 てか相変わらず、言い方が生々しいよ娘野君。

 最近芝居の稽古が忙しいからってずっとスパシーバに来てなかったのに、久しぶりに玉塚さんと一緒に来たと思ったらこれだよ。


「……あ、でも2週間後には、今稽古してる芝居の本番が控えてるんですよね……」


 娘野君は握った拳をプルプルと震わせながら、唇を強く噛んだ。

 何!?

 あの娘野君が、女子の水着姿よりも、芝居を優先しようとしている……だと……!?

 菓乃子の手料理でも食べたのかい!?(失礼)


「ハッハー! 琴子よ、時には戦士にも休息は必要だ。むしろ来週タップリ英気を養って、再来週の本番に備えるのが最善手だとボクは考える。これは座長命令だ。来週は海で美女の水着を堪能……間違えた、身も心もリフレッシュするぞ!」

「ハ、ハイ座長! 一生ついていきます!!」


 座長の本音がダダ漏れている!

 この女好き師弟コンビ、いつか地方紙の三面記事を飾りそうで俺は心配です。

 それより、娘野君は玉塚さんから、『琴子』って呼ばれてるのか。

 そういえば女の人のフリをして劇団に入ってるって言ってたし、劇団では琴子で通ってるのかな?

 でも、女性だけの劇団に男が一人だけなんて、娘野君だったら、2020年東京オリンピックが決まった瞬間のフェンシング選手並みに歓喜しそうなものだけど、あまり浮かれた様子はないんだよな。

 なんでだろう?

 まさか劇団に自分以外にも男の娘がいて、その子から女の子として告白されたわけでもあるまいし。


「もちろん菓乃子氏とマイシスターとカマセも行くでしょ?」

「ピッセや! 菓乃子が行くならウチも行くで」

「私を基準に決めないでよ。……私も行きたいけど」

「私は例によって、お兄さんが行くなら行きます!」

「真衣ちゃん、もっと自分の意思を大事にしようよ」

「自分の意思を大事にした結果、『お兄さんが行くなら行く』という結論に至ったんです!」

「……そっか。まあ、どうせ俺は強制参加だろうから、行くことになると思うよ」

「じゃあ私も行きます!」

「よし、これで全員参加ね」


 カランコロンカラーン


「あ、いらっしゃいま……」

「私も行くよー」

「アタチもー」

「多魔美&マヲちゃーん!!」


 君達最近いつもワンセットだね!?


「どうしたんだ二人共? 今日はちっこいズの歌の練習日じゃないだろ?」

「私の女の勘が、ここで面白いことがあるって囁いたの」

「アタチもー」

「女の勘何でもアリだな……」

「フフフ、これでフルメンバーが揃ったわね。では来週末は、『ポロリもあるよ。ドキッ! 美女だらけのムフフ海水浴』をお送りするわよ!」

「お送りするな。俺が許さないぞ、ポロリ展開なんて。――でも、この人数だとレンタカー一台じゃ足りないよな? もう一台借りるか」

「ハッハー! そういうことなら任せてくれたまえマイライバル! ボクに良い考えがあるんで、レンタカーは一台も用意しなくてイイよ!」

「え? 玉塚さん、良い考えって?」

「それは当日までの、オ・タ・ノ・シ・ミさ! では諸君、来週末の朝9時に、肘川駅前に集合だ!」

「「「ハーイ!」」」

「……」


 嫌な予感すんなー。




「遅いわね勇希先輩。もうとっくに、9時は過ぎてるけど」

「そうだな」


 玉塚さん以外のメンバーは全員既に駅前に集まっているが、肝心の玉塚さんの姿がまだ見えない。

 何かトラブルでもあったのだろうか?

 ――その時だった。

 一台の観光バスが、俺達の目の前で停車した。

 おや?

 ここはバス停じゃないけど、なんでバスが停まったんだ?

 が、そのバスに、ある人物の顔写真がでかでかと塗装されているのを見て、俺は全てを察した。


「ハッハー! 諸君、遅れてすまなかったね。ここに来る途中、産気づいている可憐なレディを偶然見掛けたんで、産婦人科まで送り届けてきたんだよ!」


 観光バスの運転席から、運転手に扮した玉塚さんのイケボが響いてきた。

 観光バスには玉塚さんの顔写真の数々が、所狭しと塗装されていた。

 ……これも一種の痛車なのかな?




「まさか玉塚さんがバスの運転免許を持ってる上に、自前のバスまで所有してるとは思いませんでしたよ」


 俺は湘南のビーチまで玉塚観光バス(俺命名)で向かう道すがら、運転席の玉塚さんに素直な感想を述べた。

 ちなみに他の女性陣は、各々バスから見える風景をスマホで撮ったり、お菓子パーティーを開いたりと、好き放題やっている。


「ハッハー! 前に恋するバスガイドのヒップを毎日堪能したいがために、バス運転手を目指す男の役を演じたことがあってね。その際に、バス運転手の気持ちを理解するため、免許も取得したんだよ」

「何ですかその、『昔、〇〇の霊に取りつかれたことがあってな』みたいな、便利な設定は!?」


 そんなん「前に、〇〇の役を演じたことがあってね」って言えば、後付けでいくらでも設定付け足せるじゃん!


「……てことは、その時にこのバスもご自分で買われたんですか? こういうのって、相当高いんじゃ……」

「いや、別に買ってはいないよ」

「は? じゃ、じゃあ、このバスはいったい……」

「これはボクのイケメンオーラで具現化したバスだよ」

「何言ってんだあんた!?」


 イ、イカン、思わずタメ口になってしまった。

 でも今のは俺、悪くないよね?

 急にバスをイケメンオーラで具現化したとか、頭パーリーピーポーなこと言い出したんだから。

 でも、玉塚さんは過去にもハイブリッドカーやら、カボチャの馬車やらを具現化させた実績はあるんだよな……。

 いやいや! それでも実際に運転できる観光バスを具現化するのは、流石にレベルが違いすぎる!

 だが、玉塚さんが嘘をつく理由もないし、あまり考えたくはないが、玉塚さんの話は事実だとするのが妥当だろう。

 ……まったく、今や一番のチートキャラは、間違いなく玉塚さんだよ。


「見て見て堕理雄! 海が見えてきたわ!」


 沙魔美が指差した方向を見ると、懐かしの湘南ビーチが広がっていた。

 やれやれ、今年も来たか、ここに。




「みんな遅いな……」


 女性陣は水着に着替えてから行くから、先に行って場所を取っておいてくれと言われたので、独り砂浜で待っているのだが、なかなか誰もやって来ない。

 てか、娘野君もまだ来てないのはどういうことなんだ?

 男の着替えなんて、俺みたいにすぐ終わるだろうに。


「堕理雄君ゴメンね。待った?」

「ああ菓乃子、別に待ってな――」


 俺は菓乃子の水着姿を見て、思わず言葉に詰まった。

 菓乃子が着ていたのが、黄色いチューブトップ型の大胆なビキニだったからだ。


「へ、変かな?」


 菓乃子は頬を染めながら、上目遣いで聞いてきた。


「い、いやいや! 全然変じゃないよ! むしろスゲー似合ってる。そういうのはスタイルが良くないと似合わないもんだけど、菓乃子なら文句なしだよ」


 俺は素直な感想を口にした。


「ふふ、ありがと。堕理雄君に見せたかったから、勇気出して買っちゃったの」


 菓乃子は蠱惑的な笑みを浮かべながら、そう呟いた。

 え!?

 どういう意味それ!?

 も、もしかして、菓乃子って俺のこと……。

 ……まさかな。


「お兄さんお兄さん! どうですか私の水着! 似合いますか?」

「あ、真衣ちゃん。――真衣ちゃん!?」


 真衣ちゃんの水着は、去年未来延ちゃんが着ていたものと同タイプの、極めて布面積が少ない、黒のマイクロビキニだった。

 未来延ちゃんは隠れ巨乳で意外とスタイルが良かったのでそれでも似合っていたが、ロリ体型の真衣ちゃんが着ていると、背徳感の波が怒涛の如く押し寄せてくる。

 何だか凄くイケナイモノを見ている気分になるのは、俺の心が汚れているからだろうか?


「どうですかお兄さん!? ねえ、どうなんですかお兄さん!? 今年は私も大人の女を目指して、勇気を出して買ってみたんです!」

「あ、そうなんだ」


 菓乃子と似たような台詞を言っているのに、真衣ちゃんだけはじめてのおつかい感が否めないのは何故だろう?


「似合いますか? 似合いますか? 似合うとしたら、何ペリカ相当ですか!?」

「え!? うーん…………500000ペリカくらいかな」

「ヒョーウ!! 一日外出券が買えるじゃないですかー!!」

「ははははは」


 また嘘をついてしまった……。

 なんで俺はいつもこうなんだろう……。


「ウェミダー!」

「君なら言うと思ったよ未来延ちゃん!」


 オイヨイヨ!


「あれ!? 未来延ちゃん、その格好は……」


 未来延ちゃんはレーシング・バックの競泳水着を着ていた。

 頭にはキャップも被っており、ゴーグルまで完備している。

 とても海水浴に来た人の格好には見えないよ!?


「アッハハー、今日は『肘川のビンチョウマグロ』と呼ばれた、私の華麗な泳ぎをお見せしようと思いましてね」

「何だいそのFr〇e! のキャラにいそうな異名は!?」


 でも、流石服部半蔵の子孫なだけあって、本人が言う通り、泳ぎの技術も相当なものなんだろうな。

 古式泳法とかでスイスイ泳いでいきそうだ。


「せんせー、遅れてすいませーん」

「ん? 沙魔美、何だ先生って? ――って、お前ッ!?」


 あろうことか、沙魔美は白のスクール水着を着用していた。

 今年はお前がスク水着るのかよ!?

 あざとく、胸の部分に『やみの』と、ひらがなで書いてもある。

 ただ、爆裂ボディ(?)の沙魔美が着ているせいで、水着はパッツパツで、今にも張り裂けそうだ。

 大人びた容姿の沙魔美がスクール水着を着ている光景は、あまりにもフェティッシュで、完全にお店にしか見えない(何の?)。


「普津沢せんせー、今日の放課後、私に泳ぎの個人レッスンをつけてくださーい」

「俺が学校の先生役なの!?」


 これ完全にお店だわ!!(だから何の?)

 1時間2万円ポッキリだわ!!(妙に詳しいね?)


「オォイ魔女!! ジブンウチの水着、魔法で変えたやろ!?」

「あ、ピッセ。――ピッセ!?!?」


 何とピッセもスクール水着を着ていた(ただ、ピッセの水着は紺色だ)。

 ピッセも沙魔美と同様、胸の部分に『う゛ぁっかりや』と、ひらがなで書いてある。

 オォウ……。

 褐色肌のピッセがピチピチのスク水を着ていると、沙魔美とはまた違った健康的な趣があり、マニアには堪らない一品に仕上がっている。


「フフフ、どうカマセ? 私からのプレゼントは気に入ってくれた?」

「ピッセや! 気に入るかこんなハズい格好! せっかく菓乃子に見せよ思て、カワエエ水着買ったんに! 早よ返せやウチの水着!」

「そうはいかないわよ。あなたには今から私と一緒に、昔の某CMみたく、『ウチらのカッコギリじゃね?』って言ってもらわなきゃいけないんだから」

「何でウチが、んなことせなあかんのや!?」


 ブレイブソ〇ド×ブレイズソ〇ル!(懐)

 今年の海でも、俺の彼女はやりたい放題だぜ!!(血涙)


「この世の悪を吸い寄せる!」

「正義の磁力で吸い寄せる!」

「「私達放課後電磁波クラブ! 見! 参!」」

「多魔美&マヲちゃーん!?!?」


 今年はこの二人が放課後電磁波クラブの格好でビーチの治安を守りに来た!!(いや、乱しに来た)

 多魔美が赤のスリングショットで、マヲちゃんが青のスリングショットだ。

 いやいや、冷静に格好を描写してるけど、これ完全にアウトなやつだからね?

 女子小学生JS女子幼稚園児JYのスリングショットなんて、お上にバレたら俺はしばらく高い塀の中で、規則正しい生活を送る羽目になってしまうよ?


「放課後電磁波クラブがお送りする」

「ショートコント」

「「『レンタル彼女』」」

「ストーップ!!! 君達、俺が規則正しい生活を送ることになってもいいのかい!?」

「え? 規則正しい生活を送るのは、良いことじゃないのパパ?」

「行間を読んでくれよ!」


 多魔美ももう高学年なんだから、そのくらいはわかるでしょ!?


「アタチはまだ幼稚園児だから、わかんないよお兄ちゃーん」

「君はこのビーチで一番年長者でしょマヲちゃん!」

「アアン!? わらわに歳のことを言うとは、イイ度胸であるな兄よ?」

「えっ……あ、いや、その…………すいませんでした」

「うむ、わかればよい」

「……」


 久しぶりに急に魔王モード出すもんだから、動悸が半端ないよ!

 ちょっと待って!

 ここまでほとんどまともな水着が出てきてないけど、これ水着回として大丈夫!?

 みんなもっとはるかなレ〇ーブを見習ってよ!


「ハッハー! 安心したまえマイライバル! このボクが、水着とは斯くあるべしというものをお見せしよう!」

「玉塚さん。――玉塚さん!?!?」


 玉塚さんは真っ白なふんどし一丁で、胸にはさらしを巻いているという、何ともオットコマエな出で立ちで現れた。

 ニャッポリートンゴ!?


「た、玉塚さん……いくら何でも、その格好は……」

「何だいマイライバル!? まさかキミは、我が国が誇る伝統的な戦闘服である、FUNDOSHIにケチをつけるつもりではあるまいね!?」

「い、いや、そんなことは…………とても良くお似合いです」

「キミならわかってくれると思っていたよ!」


 もうヤダ! もう帰りたいよ!

 さっきから何なんだよこの集団は!?

 去年このビーチに来た時は今回よりはまだマシだったから、周りからの視線は嫉妬とドン引きが半々といったところだったが、今年はドン引きとガン引きが半々といったところだ(ガン引きが十割でなかっただけ、不幸中の幸いとするべきなのかもしれない)。

 ……さてと、とはいえ、後は娘野君を残すのみだな。

 まあ、娘野君は男だから普通の水着なはずだけど、それにしては、随分来るのが遅いな?

 何だか物凄く胸騒ぎがするけど、何をやってるんだろう……。


「師匠の彼女さん!! さては俺の水着を、魔法で変えましたね!?」

「こ…………娘野くーーーん!!!」


 なんということでしょう。

 娘野君は女性用のピンクのビキニ水着を着て、このビーチに降り立ったのです。

 短いパレオが付いているのでギリギリ娘野君のゴールドフューチャーカップはノミネートされていないが、ちょっとでも風が吹いてパレオが持ち上がればたちまちグランプリを受賞しかねない、紙一重の状態であることには違いない。


「沙魔美ーーー!!! これはマジで洒落になんねーぞ!? 娘野君も、なんで律義にそれ着てんの!?」

「フフフ、それはね、このビキニを着なかったら、琴男きゅんの星間戦争の時の女装写真をSNSで拡散するわよって、置手紙で脅……交渉したからよ」

「お前は一回規則正しい生活を送ってこい!!」

「うぅ……グスン、なんで俺が、こんな格好を……」

「娘野君……」


 娘野君は主に股間の辺りをもじもじさせながら、必死に涙を堪えている。

 嗚呼、本当にゴメンよ娘野君。

 沙魔美には今夜、タッッッップリとしておくからね。


「オイ、あのピンクのビキニの子、メッチャカワイくね?」


 !?


「ああ。あの、ちょっと恥ずかしそうにしてる感じがタマンネーよな」


 !?!?

 娘野君が周りの男性から異様にモテている。

 なるほど。やはり男心を一番掴むのは、『恥じらい』なんだということがよくわかるエピソードだ。

 まあ、敢えてここでは、『だが男だ』とは言うまい。


 ちなみにこんな時になんだが、各人の胸の大きさランキングの最新版を公開すると、


 沙魔美≒ピッセ>>>未来延ちゃん>菓乃子>玉塚さん>>>越えられない壁>>>真衣ちゃん≒多魔美≒マヲちゃん≒(娘野君)


 といったところである。

 格差が年々広がっているのがわかりますね(経済産業省調べ)。

 そこ!

 「幼女や男とニアリーイコールな真衣ちゃん(笑)」とか言わない!(言ってない)


「さーて! それじゃあみんなで、海で泳いだり砂山を作ったりかき氷を食べたり堕理雄を監禁したりビーチを二人で歩いているイケメンを見ながら『幸あれ!』と祈ったりしましょう!」

「「「オー!」」」

「後半海関係ねーな!?」

「あっ、そうだ(唐突)」

「え? な、何だよ沙魔美」

「海に着くだけでこんなに文字数がかさんでしまったから、この続きは後半よ。ハイ、ヨロシクゥ!」

「え」


 そういえば初めて前後編になったのも、去年のここだったな!?

 ゼゼゼゼーット!!(?)

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?