「ホホホ、よくぞいらっしゃいましたわね。尻尾を巻いて逃げたかと思ってましたわ」
不敵な笑みを浮かべながら、エストは俺達に視線を向けてきた。
今からちょうど一年程前、沙魔美がピッセと死闘を繰り広げた採掘場に、エストは一人佇んでいた。
右の手のひらを角質山に向けており、手のひらからは光の波のようなものが放出されている。
あれがエストの魔力なのか?
幸いまだ伝説の豪魔神カタストロフィエクスキューションロンギヌスガトーショコラハルマゲドンは復活してはいないようだが……。
「フン、オタサーの姫ごときに、この私が恐れをなすわけがないでしょ。私がこの世で怖いのは、原稿の締め切りだけよ」
いやそこは怖くならないように普段からコツコツ描いとけよ。
むしろ印刷所の人が一番恐れてるのがお前だよ。
「……その、『オタサーの姫』っていうのやめていただけるかしら? とても不愉快ですわ」
エストは射貫くような眼で、沙魔美を睨みつけた。
たったそれだけのことで、辺りの空気が戦慄くように歪んだ気がした。
俺も恐怖のあまり、冷や汗が止まらない。
俺の隣に立っている菓乃子がガタガタと震えているのも、チアガールの衣装が寒いからではないだろう(何せまだ残暑が厳しい9月だ)。
だが、当の沙魔美は、
「アラ? 図星だったから焦っちゃった? ま、そりゃそうよね。大して女としての魅力もないくせに、力で押さえつけて無理矢理男を手元に置いてるなんて、オタサーの姫以外の何者でもないものね」
と、煽り性能マックスの返しをしたのだった。
なんで俺の彼女は、こんな悪魔的に口が悪いのだろう……。
いや、ここは魔女的にと言うべきか?
「クッ! ……覚えておいでなさい。伝説の豪魔神カタストロフィエクスキューションロンギヌスガトーショコラハルマゲドンを復活させた暁には、記念すべき最初の生贄はあなたにしてさしあげますわ」
エストは妖しく口端を吊り上げた。
オイオイ本気で怒らせちゃったみたいだぞ。
なんでそうやっていつも自分を追い込むんだよお前は……。
実はドMなのか?
「……なあ、魔女」
「ん? 何よカマセ。今から私は、このオタサーの姫を、あいうえお作文で更におちょくろうとしてるんだから邪魔しないでよ。『オタサーの姫』の『オ』! 奥手のフリして!」
お前ブレーキ一切踏まねーな!
いつか死ぬぞ!?
「ピッセや! ……今思たんやが、ひょっとしてアイツ、今は身動きできんのとちゃうか?」
「え?」
え?
……確かに。
言われてみれば、エストは沙魔美達が目の前にいるにもかかわらず、その場から一歩も動かないどころか、こちらを攻撃する素振りすら見せない。
単純に沙魔美達を舐めているという可能性もあるが、動けない理由があるとしたら……?
「……なるほどね。大方魔力を注いでる間は、他の動作が一切できないってところかしら。伝説の三魔神の内の一体を復活させようとしてるんですもの、それくらいの制約は、あってもおかしくないわ」
うん、一理あるな。
だとしたら今は、千載一遇のチャンスだ。
「フ、フレー、フレー、ピッッッセ!」
「「「!?」」」
突然菓乃子が顔を真っ赤にしながら、大声で菓乃マエールをピッセに送り始めた。
誕生日にピッセから貰ったらしい、魚をモチーフにしたブレスレットが、菓乃子の左腕で揺れている。
いじらしいッ!
「フレー、フレー、ピッセ! フレー、フレー、ピッセー!!」
「……どうしたんですの唐突に?」
エストは怪訝な顔でこちらを見ている。
「カッカッカ。まあ、ジブンには滑稽に映ったかもしれんがな、ウチにとっちゃ、これ以上ない程のパワー補給になったわい。――喰らえやッ!!」
「なっ」
ピッセは目にも止まらぬ速さでエストの下まで駆け寄り、右の拳を振り上げた。
「伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ!!」
「っ!」
ドウッ
やったか!?
ピッセ渾身の伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウは、エストの顔面を綺麗に捉えた……かに見えた。
が。
「オーホッホッホッホ!! 何ですの今のそよ風のようなパンチは? そんなものでは、羽虫も殺せませんわよ」
「「「!!」」」
「何やと!?」
エストはかすり傷一つ負ってはいなかった。
それどころかよく見ると、ピッセの拳はエストの顔面スレスレで止まっている。
「……チッ、結界か」
っ!
結界!?
「ホホホ、よくお気付きになられましたわね半魚人さん。その通り、ワタクシの身体は、今現在強力な結界でコーティングしてあるんですの。東の魔女さんの推察通り、魔力を注いでいる間はワタクシは一切の行動が起こせないんですが、あらかじめ張っておいた結界は、半永久的に有効なんですわ」
なっ!?
そんなチートな!?
「この結界が張られている限り、ワタクシもあなた方に攻撃を加えることはできませんが、あなた方もワタクシには指一本触れることさえ叶いませんわよ」
……そんな。
じゃあ、エストが伝説の豪魔神カタストロフィエクスキューションロンギヌスガトーショコラハルマゲドンを復活させるのを、俺達は指をくわえて見てるしかないってのか!?
――だが、
「フン。それはどうかしら」
沙魔美が鼻で笑いながら右手を振ると、右手の爪が5本とも1メートルくらいの長さに伸びた。
……沙魔美。
「一度の攻撃で結界が壊せないなら、壊れるまで、何度も何度も、何度も何度も何度も何度も、殴って斬って叩いて蹴って、踏ん付けて踏ん付けて踏ん付けて踏ん付けて、壊れるまで壊せばいいだけの話じゃない。そうでしょ? カマセ」
「ピッセや! ……ハッ、確かにジブンの言う通りやな」
……どうやら沙魔美のメンタルはヒヒイロカネで出来ているらしい。
無理だって言われれば言われる程、萌えるタチだと言っていたのは本当だったんだな。
こりゃ、もし沙魔美と付き合う前の俺が、仮に沙魔美の告白を断っていたとしても、遅かれ早かれ俺は沙魔美に籠絡させていただろうな(唐突なノロケ)。
沙魔美はゆっくりと歩いていき、ピッセの隣で立ち止まった。
そして沙魔美とピッセは、自分達よりも一回りは小さいエストのことを見下ろした。
「覚悟はいいかしらオタサーの姫さん? 私は今から、『君がッ 泣くまで 殴るのをやめないッ』からね?」
「カッカッカ、腕が鳴るのー」
ピッセは文字通り、腕(正確には指)の骨を、ポキポキと鳴らした。
二人共、正義の味方とはとても思えない程、悪ーい顔をしている。
「ホホホ、精々足掻いてごらんなさいな。ま、徒労に終わるでしょうけど」
対するエストは、欠片も動揺した素振りは見せない。
その佇まいは、優雅にアフタヌーンティーを嗜む貴婦人のようだ。
「その澄まし顔が、いつまでもつかし……ら!」
「オラァッ!!」
二人は一斉に、無防備なエストに向かってラッシュを仕掛けた。
激しい衝突音が絶え間なく響いているが、結界は相当に強固なものらしく、ヒビすら入る気配はない。
「やれやれ、本当に庶民は、無駄なことがお好きですわね」
……くっ。
「フレー、フレー、沙ッ魔ッ美!!」
「っ! 堕理雄!」
「フ、フレー、フレー、ピッッッセ!」
「菓乃子!」
こうなったらもう、俺にできるのは力の限り沙魔美を応援することだけだ。
そして菓乃子には、ピッセを心から応援してもらう。
頼む沙魔美、ピッセ!
何とかエストの結界を打ち破ってくれ!
「ハアアアァァアアア!!」
「ウオオオォォオオオ!!」
「……フン」
後は根比べだ。
沙魔美達の体力が尽きるか。
エストの結界が破れるか。
――そして、東西南北の封神石を、みんなが死守できるか。
他のみんなは無事だろうか?
四方に派遣した俺の分身は、俺と意識が繋がってるって沙魔美は言ってたよな。
意識を四方に集中させて、少しだけ封神石防衛チームの様子を窺ってみるか。
俺は遠く離れた地で戦っているであろう、他のメンバー達のところへ、思いを馳せた。
「ウッハー! 随分小さなお嬢ちゃん達でおマッスルな! そんな身体で俺と渡り合おうなんぞ、500プロテイン早いでおマッスル!」
いかにも脳味噌の中まで筋肉が詰まってそうな伝説のボディビルダーアーノルドマッチョアブマッスルが、公民館中に響く声で吠えた。
ちっこいズの三人と俺(分身)は、誰もいない肘川公民館の会場内で、ゴリマッチョのイケメンと相対していた。
ゴリマッチョは既にかつてちっこいズが歌やダンスを披露した思い出のステージを破壊しており、その瓦礫の中には、直径50センチ程の青い石が安置されているのが見えた。
あれが封神石か……?
何故あんなものがあんな場所に隠されていたのかは謎だが、今はそんなことを詮索している場合ではない。
このゴリマッチョを、何とかちっこいズに倒してもらわなければ。
――でも、
「三人共、くれぐれも無理はしないでね。敵わなそうだと思ったら、すぐにここから逃げるんだよ」
何より優先すべきは、三人の身の安全だ。
最悪この場の封神石が守れなくとも、他の場所が守れていれば、伝説の豪魔神カタストロフィエクスキューションロンギヌスガトーショコラハルマゲドンの復活は阻止できるかもしれない。
だから三人には、怪我をしない程度に――。
「お兄さん」
「え?」
な、何、真衣ちゃん?
「お気持ちは大変嬉しいんですが、私は逃げるつもりは微塵もありません。私はこの命に代えても、お兄さんと、お兄さんが住むこの肘川を守るって、もう決めたんです」
「っ! ……真衣ちゃん」
「私もだよ、パパ」
「アタチもアタチもー」
「多魔美、マヲちゃん」
……この子達は、本当に。
「だからお兄さんは、そこで私達のことを見守っていてください! それだけで私は、どんな相手であろうと敗ける気がしません! うおりゃあああああ!!」
「真衣ちゃん!?」
そう言うや否や、真衣ちゃんは単身ゴリマッチョに突撃していった。
真衣ちゃーん!!
「ウッハー!」
ガキンッ
「ウハッ!?」
ゴリマッチョはすかさず、丸太の様な腕からの右ストレートで真衣ちゃんを迎え撃ったが、真衣ちゃんの鎧はその拳を見事防いだ。
ニャッポリート!
「マヲちゃん、多魔美ちゃん、今だよ!」
「オッケーリーダー!」
マヲちゃんが指をパチンッと鳴らすと、地面からヌルヌルした無数の触手が生えてきて、ゴリマッチョを縛り上げた。
「なっ!? これは何でおマッスルか!?」
おおっ!
あれは30話以来の登場となる、相手の生命力を吸い取る触手!
正直ゴリマッチョイケメンの触手プレイは見たくもないが(沙魔美は喜びそうだが)、この際勝てるなら何でもいい!
「くっ、ち、力が抜けマッスル……」
「とどめは任せたよ、多魔美ちゃん!」
「了解、マヲ叔母ちゃん!」
「もう! 叔母ちゃんて呼ばないでっていつも言ってるでしょ!」
そんな遣り取りを交えつつも、多魔美は右手の人差し指の爪だけを1メートル程伸ばしてゴリマッチョに跳び掛かった。
多魔美はまだ子供だから、沙魔美みたいに全部の爪を伸ばすことはできないのかもしれない。
でも、一本あれば十分だ。
何せあの爪は、何でも切り裂くことができる爪なのだから。
「覚悟ー!」
ズバッ
「ウッハー!?」
多魔美の爪は、ゴリマッチョの胸の辺りを深く抉った。
ゴリマッチョの胸からは大量の血が噴き出て、ゴリマッチョはその場に立て膝をついた。
よし、勝った!
流石ちっこいズ! チームワーク抜群だぜ!
「さあ、これであなたでは私達に勝てないことはわかったでしょう! 大人しく引き下がるなら命までは取りません。お引き取りください!」
ちっこいズのリーダーは、威厳タップリにビシッと言い放った。
カッケー!
が。
「ウハハハ。これはこれは。可愛らしい外見に騙されてしまいマッスたな」
「「「!」」」
ゴリマッチョはとても致命傷を負っているとは思えない程、余裕タップリに軽口を叩くと、すっくと立ち上がった。
なっ!?
「ちょっ!? 無理をするのはやめなさい! あなた死にますよ!」
「ウッハッハッハ! 優しいお嬢さんでおマッスルな。敵にそんな情けを掛けるとは。でも心配ご無用でございマッスル」
「え?」
「フン!」
「「「!?」」」
ゴリマッチョがフロントダブルバイセップス(※ボディビルダーの方がよくやる両手を力こぶの形にするポーズ)を決めると、胸の傷は瞬く間に塞がり、後には傷跡すら残っていなかった。
そ、そんな!?
「ウッハー! 俺の特性は、この美しい筋肉を維持するための、超回復力なのでおマッスル! どんな傷であろうと、たちどころに治してしまいマッスル! まさに、覆水盆に返らずとはこのことでございマッスル!」
ことわざのチョイスが明らかに間違っていマッスル!
クソッ。
流石は最強の魔女が配下に置いているだけはある。
脳味噌はニワトリ以下だが、戦士としてはこれ以上なく厄介な相手だ。
「ウッハー!」
「キャアッ!?」
「多魔美っ!!」
こちらが呆気にとられている隙に放ったゴリマッチョの裏拳が、モロに多魔美に入った。
多魔美はそのまま吹っ飛んで、壁に激突した。
「多魔美ー!!!」
「多魔美ちゃん!!」
「多魔美ちゃーん!!」
「う……うぅ……」
多魔美はぐったりして、動かなくなってしまった。
う、嘘だ……、多魔美がやられるなんて、そんな……。
「よそ見をしている暇はごさいマッセン!」
ドグホッ
「カッハッ」
「マヲちゃん!?」
いつの間にかゴリマッチョはマヲちゃんの触手を引きちぎっており、瞬時にマヲちゃんの下に詰め寄って強烈なボディブローを浴びせていた。
マヲちゃんは血を吐きながら、その場に
「マヲちゃーん!!」
こいつ……パワーが凄まじいだけじゃなく、スピードも相当のものだぞ……。
こんなやつにどうやって勝てっていうんだ……!?
「さてと、次はお前の番でおマッスルな」
「クッ……!」
ゴリマッチョがゆっくりと、俺のほうに近付いてきた。
クソッ……どうすればいい……どうすればこいつに勝てるんだ……。
「お兄さん! お兄さんは逃げてくださいッ!!」
「ま、真衣ちゃん!?」
その時、俺とゴリマッチョの間に真衣ちゃんが立ち塞がり、両手を広げてゴリマッチョを睨みつけた。
「真衣ちゃん! 危ないから君こそ逃げるんだ! 俺の身体は分身だから、傷付いても本体には影響ないから!」
「そういうわけにはいきません」
「っ!?」
真衣ちゃんはゴリマッチョを睨みつけたまま言った。
「たとえ分身でも、お兄さんの姿形をした人が傷付けられるのを黙って見ているなんて、私にはできません」
「……真衣ちゃん」
……君って子は。
「私なら大丈夫です! 私にはこの、悪しき魔女にもらった可愛くはないけど頑丈な鎧がありますから!」
真衣ちゃんは俺に背中を向けたまま、右手でサムズアップをした。
……でも。
「……俺だって真衣ちゃんが傷付くところを、黙って見てなんていられないよ」
「っ! お兄さん……」
やっと俺のほうを見た真衣ちゃんの眼は、少しだけ潤んでいた。
「ウッハッハッハ、美しき兄妹愛でおマッスルなあ。でもその愛も、いつまでもちマッスルかな?」
ゴリマッチョは拳を握ったまま、両手を大きく掲げた。
「真衣ちゃんッ!!」
「くっ!」
「ウハハハハハハハハハーーー!!!」
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
「うっ、うう……」
「真衣ちゃん!!」
真衣ちゃんの鎧に、ゴリマッチョの拳が嵐の様に絶え間なく降り注いだ。
幸い鎧は堅牢で、真衣ちゃんにダメージはないようだが、ゴリマッチョは手を休める様子はない。
それどころか、鎧を殴って傷付いた拳もすぐに超回復で治ってしまうので、これではキリがない。
「ウハハ、ウハハハ、ウハハハハハハハーーー!!!」
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
ガキンッ
「う……」
それでも尚ゴリマッチョは、真衣ちゃんを殴り続ける。
が、その時、あまりの拳の連打に鎧の耐久値が限界に達したのか、鎧にピシピシとヒビが入り始めた。
「真衣ちゃん! 鎧が!!」
「お……お兄さん……逃げ……て」
「真衣ちゃんッ!!」
バキンッ
「アアアアッ!」
「真衣ちゃーん!!」
遂には真衣ちゃんの鎧は砕かれ、真衣ちゃんは後方に吹っ飛ばされた。
「真衣ちゃんッ!!」
「……」
真衣ちゃんは気を失ったのか、俺からの呼び掛けにも一切答えない。
あ……ああ……そんな。
何故……何故こんなことに……。
「さて、後はお前だけでおマッスルな」
「……クッ」
許さない。
お前だけは絶対に許さないぞこのクソマッチョが!!
よくも俺の大事な娘と妹を傷付けやがって!
お前だけは俺の命に代えてでも、絶対に地獄に落としてやる!!
俺は血が出る程拳を強く握り締めて、クソマッチョに向けて構えを取った。
「ウハハハハ、カッコイイでおマッスルなお兄ちゃん。そのカッコよさに免じて、一撃であの世に送ってさしあげマッスル」
「……やってみろ!」
「いや、やるのはわらわじゃ、兄よ」
「「!!」」
思わず声のしたほうを向くと、そこにはフラフラのマヲちゃんが立っていた。
「マ、マヲちゃん!? 大丈夫なの立って!?」
「ああ。だが、この姿だけは兄に見られたくはなかったがな」
「え」
そう言った途端、マヲちゃんの小さな身体は、風船みたいにボコボコと膨れ上がっていった。
なっ!?
「マヲちゃん!? そ、それは……」
「これ以上は見せられん。少しの間だけ、目をつぶっておれ」
「は?」
マヲちゃんが俺に手をかざすと、俺の意識は急激に遠のいていった。
「あれ?」
気が付くと俺は、仰向けで床に寝ていた。
「あ、お兄ちゃん起きたー?」
そんな俺の顔を、マヲちゃんが無邪気に覗き込んでくる。
姿もいつもの幼女に戻っている。
「マヲちゃん……さっきのはいったい……。あ! それよりも、あのゴリマッチョは!? …………えっ」
慌てて起き上がると、目の前には信じられない光景が広がっていた。
そこには直径10メートル程もある、クレーターの様なものができていた。
まるで巨大なスプーンで、その場だけを抉り抜いたようだった。
ゴリマッチョの姿も、どこにも見当たらない。
「……マヲちゃん、これは……」
「んー? 何かねー、アタチも気が付いたらこうなってた。アタチ子供だから、よくわかんないや」
マヲちゃんはてへっと舌を出した。
999歳(いや、今はもう1000歳か?)のロリBBAがてへぺろしている姿は感慨深いものがあるが、どうやら真実を話してくれる気はないらしい。
歳の数だけ女には秘密があるらしいし、結果的に封神石は守れたのだから、これ以上の詮索はやめておくか(これ以上踏み込んだら、俺の命も危ない気がするし)。
「あっ! そういえば、多魔美と真衣ちゃんは!?」
「心配いらないよお兄ちゃん」
「え」
ふと横を見ると、多魔美と真衣ちゃんが寝かされており、二人にはマヲちゃんの触手が絡みついていた。
「なっ!? 何してるのマヲちゃん!?」
「大丈夫大丈夫。この触手は、生命力を分け与えることもできるんだよ」
「え、そうなの!?」
マヲちゃんの言う通り、二人の傷はみるみる治っていった。
「ま、服が溶けちゃうのが、玉に瑕なんだけどね」
確かに傷は治ったものの、二人は裸同然の格好になってしまっている。
オオゥ……。
万が一この場を誰かに見られたら、事案どころの騒ぎじゃないな。
完全に俺は社会的に抹殺されてしまう。
「う、んん……あれ? パパ?」
「……お兄さん」
「っ!」
二人が目を覚ました。
「よかった! 二人共!」
俺は思わず、二人に抱きついてしまった。
「え? パパ、私なんで裸なの?」
「あ。……いや、それは」
「お、おおおおおお兄さん!? ついにお兄さんも、その気になってくれたんですね!?」
「え?」
その気って、何?
「責任を取って、今から私と結納してください! 仲人は、マヲちゃんと多魔美ちゃんにお願いします!」
「えー、ヤだよー。私もパパと結婚したいもん」
「アタチもアタチもー」
「……」
ついさっきまでの殺伐としたシーンとの落差が、マジで激しすぎる……。