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第113魔:最後に一つだけ

「長編バトル展開なんかやるんじゃなかったわー!!!」

「お前がやりたいって言ったんじゃねーか!?」


 俺は嫌だって言ったのに!


「だってあそこまで無駄に長くなるなんて、誰も思わないじゃない!? 作者は最初サラッと5話くらいで終わらせるつもりだったのに、気が付いたら倍以上になっていたわ」

「作者は絶対、夏休みの宿題とか予定通り終わらないタイプだろ」

「むしろ宿題は9月1日の朝にやっていたわね」

「ただのアホじゃないか」


 義務教育からやり直せよ。


「でもまあ、今回の長編は魔女対決ってことで、お前が主役だったんだからよかったじゃないか。いつも長編バトルだと、ピッセが主役になりがちだって文句言ってただろ?」

「ところがどっこい!」

「語彙が昭和」

「確かに途中までは良かったのよ、途中までは! でも最後の最後に何よあれ!? カマセが死にかけやがったせいで、またしてもカマセが主役みたいになっちゃってたじゃない!? あの半魚人は何回私から見せ場を奪えば気が済むのよおおおお!!!」

「死にかけやがったとか言うな!!」


 元はと言えば、お前がピッセから生命エネルギーを吸い取ったのが原因だろうが!(それしか勝つ方法がなかったとはいえ)

 ただでさえこんにゃくのカロリー並みに低いお前の好感度が、限りなくゼロカロリーになろうとしているぞ。


「そういうわけだから、腹いせに今日は私のやりたいことに付き合ってもらうわよ」

「えぇ……。何、またいつのも即興コントでもやるの?」

「言い方に気を付けて! シチュエーションプレイと言ってちょうだい」

「その言い方のが問題あるだろ!?」

「てことで、今日のシチュエーションは姫と執事よ!」

「は?」


 沙魔美が指をフイッと振ると、沙魔美の服はエストが着ていたみたいな豪奢なドレスに、俺の服はヘタオが着ていたみたいな燕尾服に変化した。

 ぬおっ!?


「あなたの名前はダバスチャンね」

「ダバスチャン!?」


 堕理雄とセバスチャンを掛けてるの!?

 語呂悪ッ!


「私のことは姫と呼びなさい」

「はあ……」


 さてはこいつ、何だかんだ言ってエストとヘタオの関係が羨ましかったんだな。

 まあ、そうでなくとも姫と執事っていうのは、昔から女の子が憧れるシチュエーションの王道だし、無理もないことなのかもしれない。

 ……やれやれ。

 面倒なことこの上ないが、沙魔美が頑張ったのは事実だし、ご褒美として今回だけは付き合ってやるか。


「わかりました。今日だけは執事として、姫様にお仕えいたしましょう」


 俺は右手を胸に当てて、恭しく頭を下げた。


「フフフ、よろしい。よくできた子ね、ダバスは」

「……」


 早速あだ名がダバスになってしまった。


「ではまずは、私をお姫様抱っこしてちょうだい!」

「えっ!?」


 そんなとこまでエスト達の真似すんの!?

 どんだけ羨ましかったんだよ!

 でも、エストは小柄だったからまだしも、沙魔美は女性の中では身長も高いほうだし、何より約二つ程、西瓜並みに重いものがぶら下がっているので、俺の腕力では支えきれるか自信がない。


「あなた今、失礼なことを考えているわねダバス」

「い、いえ……滅相もございません」


 ……致し方ない。

 筋肉痛上等で、一か八かやるしかないか。

 俺は静かに深呼吸を一つすると、掛け声を上げながら、一思いに姫を持ち上げた。


「ふんぬらば!!」

「アメフト選手?」


 おお。

 何とか持ち上がりはしたぞ。

 一応俺も、麻雀で腕の筋肉はそこそこ鍛えてたからな。

 昔取った杵柄ってやつか(ちょっと違う)。


「フフフ、なるほどなるほど。これはなかなか心地良いじゃない。オタサーの姫がこの体勢をお気に入りなのも、わからなくもないわ」

「そ……そうですか。……では、そろそろ」


 俺の腕も限界なんで、もう下ろしてもいいですかね?


「フフフ、まだダメー」

「姫!?」


 姫は俺に抱きついて、胸を思いきり押し付けてきた。

 ビーズクッション並みにやわらかい二つの西瓜が、俺に容赦なく襲い掛かる。


「ひ、姫ッ!!」

「アラアラダバス、どうしてちょっと前屈みになったの? 執事だったら、ピシッと背筋を伸ばしなさい」

「ぐっ」


 こいつわかっててやってるな。

 相変わらずタチの悪い……。


「ま、いいわ。今は許してあげる。まだまだ始まったばかりだものね」


 姫は颯爽と俺の腕から降り立った。

 ……フウ。

 危なかった(いろんな意味で)。


「じゃあ次は城下町に庶民の暮らしを見に行くわよ!」

「は?」


 城下町とかある設定なの?

 中世ヨーロッパとかの世界観なのかな?

 てか庶民て……。

 とことんエストをトレースする気だな。


「ウィン。へー、ここが城下町なのね。庶民がひしめき合っているわ」

「ウィン!?」


 姫はコントとかでよく見る、自分の口で「ウィン」と言いながら自動ドアが開くようなジェスチャーをした。

 中世ヨーロッパなのに自動ドアあるの!?

 世界観これもうわかんねぇな。


「あ! 見てみてダバス、射的コーナーがあるわ。私あそこに行きたい!」

「射的コーナー!?」


 縁日の屋台!?

 世界観あーもうめちゃくちゃだよ。


「ウィン。ダバスも早く早くー」

「また自動ドア!?」


 どんだけ自動ドアあるんですか!?

 てか屋台の前に自動ドアがあるのは、現代だとしてもおかしいくない!?


「ダバス、私あの景品が欲しいわ! あれ取って!」

「え? どれですか?」

「あの逆さにすると女の人が裸になるボールペンが欲しいわ!」

「ふっる!!! 今時そんなのどこにも置いてないですよ!?」


 平成生まれにはわかんないでしょそれ!?


「欲しい欲しい欲しい! 絶対に欲しいのー! 取ってくれないと、私が逆立ちして全裸になるわよ!」

「謎の脅し方はおやめください。……わかりました、善処いたしましょう」

「さすダバ!」

「さすダバ!?」


 さすがはダバスの略?

 次々に新語が出てきて処理しきれないんですけど……。


「……えーと、こんな感じですかね」


 如何せん全部パントマイムでやっていることなので、俺は屈んで適当な場所に向かって銃を構える仕草をした。


「違うわよダバス。もうちょっと右よ」

「ひ、姫!?」


 姫が俺の背中に覆い被さってきて、手の位置を調整した。

 結果、今度は背中に姫のビーズクッション西瓜が、ズッシリと伸し掛かってきた。

 フオオオオオオオオオ!


「どうしたのダバス? またそんなに屈む角度を鋭角にして? それじゃあ一個下の景品の、バーコードバ〇ラーに弾が当たってしまうわよ」

「それまた懐かしいですね!」


 今回は平成生まれはガン無視なんですね!?

 姫は本当に20歳ですか!?

 実はアラフォーなのでは……?


「もう少し上よ。そうそう……うん、そこ。い・ま・よ! てー!」

「はいはい」


 俺は銃を撃つフリをした。


「パーン! ウィン。キャー、当たった当たったわー! やるじゃないダバス」

「また自動ドアありませんでしたか!?」


 景品の前に自動ドアがあるのは明らかにおかしいでしょ!?


「あ! あんなところにフランクフルト屋さんがあるわ! 私あれが食べたい」

「姫!?」


 最早ここは城下町と言うよりただの縁日ですね!


「ウィン。ダバスー。ウィン。早く早くー。ウィン。あなたもこっちに来てー。ウィン」

「どんだけ自動ドアで仕切られてんですか!?」


 圧迫感半端ないなここ!


「フランクフルト一本で60000ドンですって。ダバスが払っておいて」

「60000ドン!?」


 ドンってベトナムの通貨だっけ?

 なんで通貨はドンなんですか……。

 確か200ドンが1円くらいだったはずだから……大体300円くらいか。

 そこは普通なんだな。


「あーーーんっ。んふうっ。んむっ、んむっ、んむっ……。ぷはあ。ダバスのフランクフルト……太くて美味しいわあ」

「姫ッッ!!!」


 ダバスフランクフルトでしょ!?

 いいですかみなさん、今のはフランクフルトを食べてただけですからね!

 それ以外の、何物でもないですからね!!(必死)


「はあー、美味しかった。満足満足。たまには庶民の暮らしを覗いてみるのも悪くないわね」

「……ご満足いただけたようで何よりでございます」


 やっとこの茶番も終わりにできるか……。


「では最後に一つだけ、私の命令を聞いてちょうだい」

「え……何でございましょうか」

「…………私にキスしなさい」

「…………」


 そんなことでしたら、いくらでも。

 俺は姫の肩に手を置いて、ゆっくり唇を近付けた。


「ウィン」

「…………」


 やると思いましたよ。

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