「長編バトル展開なんかやるんじゃなかったわー!!!」
「お前がやりたいって言ったんじゃねーか!?」
俺は嫌だって言ったのに!
「だってあそこまで無駄に長くなるなんて、誰も思わないじゃない!? 作者は最初サラッと5話くらいで終わらせるつもりだったのに、気が付いたら倍以上になっていたわ」
「作者は絶対、夏休みの宿題とか予定通り終わらないタイプだろ」
「むしろ宿題は9月1日の朝にやっていたわね」
「ただのアホじゃないか」
義務教育からやり直せよ。
「でもまあ、今回の長編は魔女対決ってことで、お前が主役だったんだからよかったじゃないか。いつも長編バトルだと、ピッセが主役になりがちだって文句言ってただろ?」
「ところがどっこい!」
「語彙が昭和」
「確かに途中までは良かったのよ、途中までは! でも最後の最後に何よあれ!? カマセが死にかけやがったせいで、またしてもカマセが主役みたいになっちゃってたじゃない!? あの半魚人は何回私から見せ場を奪えば気が済むのよおおおお!!!」
「死にかけやがったとか言うな!!」
元はと言えば、お前がピッセから生命エネルギーを吸い取ったのが原因だろうが!(それしか勝つ方法がなかったとはいえ)
ただでさえこんにゃくのカロリー並みに低いお前の好感度が、限りなくゼロカロリーになろうとしているぞ。
「そういうわけだから、腹いせに今日は私のやりたいことに付き合ってもらうわよ」
「えぇ……。何、またいつのも即興コントでもやるの?」
「言い方に気を付けて! シチュエーションプレイと言ってちょうだい」
「その言い方のが問題あるだろ!?」
「てことで、今日のシチュエーションは姫と執事よ!」
「は?」
沙魔美が指をフイッと振ると、沙魔美の服はエストが着ていたみたいな豪奢なドレスに、俺の服はヘタオが着ていたみたいな燕尾服に変化した。
ぬおっ!?
「あなたの名前はダバスチャンね」
「ダバスチャン!?」
堕理雄とセバスチャンを掛けてるの!?
語呂悪ッ!
「私のことは姫と呼びなさい」
「はあ……」
さてはこいつ、何だかんだ言ってエストとヘタオの関係が羨ましかったんだな。
まあ、そうでなくとも姫と執事っていうのは、昔から女の子が憧れるシチュエーションの王道だし、無理もないことなのかもしれない。
……やれやれ。
面倒なことこの上ないが、沙魔美が頑張ったのは事実だし、ご褒美として今回だけは付き合ってやるか。
「わかりました。今日だけは執事として、姫様にお仕えいたしましょう」
俺は右手を胸に当てて、恭しく頭を下げた。
「フフフ、よろしい。よくできた子ね、ダバスは」
「……」
早速あだ名がダバスになってしまった。
「ではまずは、私をお姫様抱っこしてちょうだい!」
「えっ!?」
そんなとこまでエスト達の真似すんの!?
どんだけ羨ましかったんだよ!
でも、エストは小柄だったからまだしも、沙魔美は女性の中では身長も高いほうだし、何より約二つ程、西瓜並みに重いものがぶら下がっているので、俺の腕力では支えきれるか自信がない。
「あなた今、失礼なことを考えているわねダバス」
「い、いえ……滅相もございません」
……致し方ない。
筋肉痛上等で、一か八かやるしかないか。
俺は静かに深呼吸を一つすると、掛け声を上げながら、一思いに姫を持ち上げた。
「ふんぬらば!!」
「アメフト選手?」
おお。
何とか持ち上がりはしたぞ。
一応俺も、麻雀で腕の筋肉はそこそこ鍛えてたからな。
昔取った杵柄ってやつか(ちょっと違う)。
「フフフ、なるほどなるほど。これはなかなか心地良いじゃない。オタサーの姫がこの体勢をお気に入りなのも、わからなくもないわ」
「そ……そうですか。……では、そろそろ」
俺の腕も限界なんで、もう下ろしてもいいですかね?
「フフフ、まだダメー」
「姫!?」
姫は俺に抱きついて、胸を思いきり押し付けてきた。
ビーズクッション並みにやわらかい二つの西瓜が、俺に容赦なく襲い掛かる。
「ひ、姫ッ!!」
「アラアラダバス、どうしてちょっと前屈みになったの? 執事だったら、ピシッと背筋を伸ばしなさい」
「ぐっ」
こいつわかっててやってるな。
相変わらずタチの悪い……。
「ま、いいわ。今は許してあげる。まだまだ始まったばかりだものね」
姫は颯爽と俺の腕から降り立った。
……フウ。
危なかった(いろんな意味で)。
「じゃあ次は城下町に庶民の暮らしを見に行くわよ!」
「は?」
城下町とかある設定なの?
中世ヨーロッパとかの世界観なのかな?
てか庶民て……。
とことんエストをトレースする気だな。
「ウィン。へー、ここが城下町なのね。庶民がひしめき合っているわ」
「ウィン!?」
姫はコントとかでよく見る、自分の口で「ウィン」と言いながら自動ドアが開くようなジェスチャーをした。
中世ヨーロッパなのに自動ドアあるの!?
世界観これもうわかんねぇな。
「あ! 見てみてダバス、射的コーナーがあるわ。私あそこに行きたい!」
「射的コーナー!?」
縁日の屋台!?
世界観あーもうめちゃくちゃだよ。
「ウィン。ダバスも早く早くー」
「また自動ドア!?」
どんだけ自動ドアあるんですか!?
てか屋台の前に自動ドアがあるのは、現代だとしてもおかしいくない!?
「ダバス、私あの景品が欲しいわ! あれ取って!」
「え? どれですか?」
「あの逆さにすると女の人が裸になるボールペンが欲しいわ!」
「ふっる!!! 今時そんなのどこにも置いてないですよ!?」
平成生まれにはわかんないでしょそれ!?
「欲しい欲しい欲しい! 絶対に欲しいのー! 取ってくれないと、私が逆立ちして全裸になるわよ!」
「謎の脅し方はおやめください。……わかりました、善処いたしましょう」
「さすダバ!」
「さすダバ!?」
さすがはダバスの略?
次々に新語が出てきて処理しきれないんですけど……。
「……えーと、こんな感じですかね」
如何せん全部パントマイムでやっていることなので、俺は屈んで適当な場所に向かって銃を構える仕草をした。
「違うわよダバス。もうちょっと右よ」
「ひ、姫!?」
姫が俺の背中に覆い被さってきて、手の位置を調整した。
結果、今度は背中に姫のビーズクッション西瓜が、ズッシリと伸し掛かってきた。
フオオオオオオオオオ!
「どうしたのダバス? またそんなに屈む角度を鋭角にして? それじゃあ一個下の景品の、バーコードバ〇ラーに弾が当たってしまうわよ」
「それまた懐かしいですね!」
今回は平成生まれはガン無視なんですね!?
姫は本当に20歳ですか!?
実はアラフォーなのでは……?
「もう少し上よ。そうそう……うん、そこ。い・ま・よ! てー!」
「はいはい」
俺は銃を撃つフリをした。
「パーン! ウィン。キャー、当たった当たったわー! やるじゃないダバス」
「また自動ドアありませんでしたか!?」
景品の前に自動ドアがあるのは明らかにおかしいでしょ!?
「あ! あんなところにフランクフルト屋さんがあるわ! 私あれが食べたい」
「姫!?」
最早ここは城下町と言うよりただの縁日ですね!
「ウィン。ダバスー。ウィン。早く早くー。ウィン。あなたもこっちに来てー。ウィン」
「どんだけ自動ドアで仕切られてんですか!?」
圧迫感半端ないなここ!
「フランクフルト一本で60000ドンですって。ダバスが払っておいて」
「60000ドン!?」
ドンってベトナムの通貨だっけ?
なんで通貨はドンなんですか……。
確か200ドンが1円くらいだったはずだから……大体300円くらいか。
そこは普通なんだな。
「あーーーんっ。んふうっ。んむっ、んむっ、んむっ……。ぷはあ。ダバスのフランクフルト……太くて美味しいわあ」
「姫ッッ!!!」
ダバス
いいですかみなさん、今のはフランクフルトを食べてただけですからね!
それ以外の、何物でもないですからね!!(必死)
「はあー、美味しかった。満足満足。たまには庶民の暮らしを覗いてみるのも悪くないわね」
「……ご満足いただけたようで何よりでございます」
やっとこの茶番も終わりにできるか……。
「では最後に一つだけ、私の命令を聞いてちょうだい」
「え……何でございましょうか」
「…………私にキスしなさい」
「…………」
そんなことでしたら、いくらでも。
俺は姫の肩に手を置いて、ゆっくり唇を近付けた。
「ウィン」
「…………」
やると思いましたよ。