「女性用成人向け漫画編集者、
「俺の彼女がいつもご迷惑をおかけしてるみたいですいません! ……でも、あいつも一応プロとして、プライドを持ってやってることなんだと思いますんで、どうかご辛抱いただけると助かります」
「あはは、私は大丈夫ですよ彼氏さん。これも仕事ですから。――それに、何だかんだ言ってナットウゴハン先生は、最後にはとってもイイモノを生み出してくれますからね。その支えになれているだけでも、編集者冥利に尽きるってもんです」
「……ありがとうございます。これからもあいつを、よろしくお願いします」
「もちろんです。それでは私はこれで」
「お気を付けて」
……編集者の仕事も大変そうだな。
でも編集者の方がいるから、沙魔美達みたいな作家が本を世に出せてるんだから、心から感謝しないとな。
どんな仕事も、独りでは成り立たないんだということを痛感させられるよ。
「ハッハー! マイライバル、マイレディ達の準備が整ったようだよ! これよりスパコレの開幕だ!」
「スパコレ!?」
パリコレ的なもの?
スパシーバで開催するからスパコレなのかな?
「皆様本日はお足元の悪い中、ここスパコレの会場までお越しいただきまして、誠にありがとうございます。ワタクシは本日の司会を務めさせていただきます、玉塚歌劇団の娘野琴男です」
「今日は晴天だよ娘野君!?」
君さては、『お足元の悪い中』って言ってみたかっただけだな!?
てかなんで君は嬉々として司会やってるんだよ……。
露骨にテンション上がりすぎだろ。
しかもセーラー服も着たままだし(まあ、俺も絶賛女装中なのだが……)。
「それではさっそく最初の方からご紹介して参りましょう! エントリーナンバー1番――腐っていたり、百合っていたり、酒乱だったりメシマズだったり、意外と属性過多な腹黒ガール――その実態は……上場企業に努めるエリート商社マン! 本谷菓乃子の入場です!」
言いたい放題だな君!?
「ど、どうも、本谷と申します。本日はよろしくお願いいたします」
ピシッとした男性用のスーツに身を包んで、アンダーリムのメガネをかけた菓乃子が、照れながら登場して名刺を差し出した。
おおう……流石菓乃子。
メチャメチャイケメンや。
しかも頭の良い菓乃子にエリート商社マンという組み合わせは絶妙にマッチしている。
こりゃ同僚の女性社員からは、さぞかしモテることだろう。
「ハッハー! 素晴らしいよビューティーレディ! まるでモン・サン・ミッシェルを根城にする、聡明なチベットスナギツネの様だよ!」
「? ……は、はあ、ありがとうございます」
全然ピンときてないぞこれ。
しかもチベットスナギツネはモン・サン・ミッシェルには生息してないですよ玉塚さん。
『チベット』のスナギツネなんですから。
それにチベットスナギツネって、あのよくテレビとかでネタにされてるぬぼっとした顔のキツネですよね?
正直あまり聡明って感じには見えないんですがそれは……。
「はいエントリーナンバー1番、本谷さんでしたー。それでは続いて参りましょう! エントリーナンバー2番――元伝説の宇宙海賊のキャプテンにして、現在はイタリアンレストランスパシーバの看板娘。気に入らないやつはその拳で一撃粉砕! 堕天使エロメイドが今宵はオラつき系執事姿で登場! ピッセ・ヴァッカリヤの入場だ!」
ノッてきたな君!?
「何やて? 着替えを手伝え? そんなん業務範囲外やから自分でやれや。……まあ、しゃーないから今回だけは特別に手伝ったる。感謝せえよ」
パリッとした燕尾服に身を包み、髪をオールバックにしたピッセが、テンプレのツンデレを発揮しながら登場した。
オラつき系執事とはまたマニアックだな。
でも俺も、ついこの間沙魔美に執事の格好にされたけど、やっぱピッセのほうが圧倒的に似合うしイケメンだな。
最早悔しいという気持ちすら湧かないよ。
その証拠に、エリート商社マンの菓乃子がメスの顔でピッセを見ている。
「おっ、どや菓乃子? ウチのこの格好、なかなかイケメンやろ」
ピッセが菓乃子の肩に手を回しながら聞いた。
「えっ!? う……うん………………ちょっとだけね」
そう返した菓乃子の耳は、朱肉かっていうくらい真っ赤になっている。
「カッカッカ、相変わらず素直やないな菓乃子は」
ホントにね。
それにしても、男装同士の百合って、これもうわかんねぇな感が強いけど、何だか凄く甘美でイケナイものを観てる感覚に陥るな……。
現に娘野君は、ハアハアしながら目を血走らせている。
いや、その格好(三つ編みおさげ委員長)でそういう顔されると、絵面がヤバいから自重してね?
カプッ
「ひゃあうんッ!?」
っ!?!?
その時だった。
突撃ピッセが菓乃子の耳に甘嚙みした。
えーーー!?!?!?
「なっ、ななななな何するのよピッセーーー!!!」
「いやあ、菓乃子の耳が真っ赤なトマトみたいで美味そうやったもんやから、思わずパクついてもうたわ。スマンスマン」
「『スマンスマン』じゃないわよピッセのバカッ! 私、耳弱いんだから、急にそんなことしないでよッ!!」
急じゃなかったらいいの!?
しかしこりゃ、完全に二人の世界だな。
沙魔美が裏に控えててよかった。
沙魔美が見てたら、また血みどろの百合修羅場が展開されるところだった。
「ハッハー! その燕尾服、よくお似合いだよメイドレディ! いや、今は執事レディと言った方がいいかな? まるでカリブ海の大洋を優雅に泳ぐ、一匹のガブリ〇スの様ではないか!」
「オウ、おおきに!」
ガブリ〇スって言っちゃった!
ポケ〇ン知らない人には伝わらないですよそれ!
「はい、素晴らしい男装百合ご馳走様でしたー。それではドンドン参りましょう! エントリーナンバー3番――愛の深さと胸の体積が反比例している、お兄さん大好きブラコンブチギレアイドルが、絶壁――もとい鉄壁のバレー部リベロで参戦! 夜田真衣入場!」
君絶対後で真衣ちゃんにボコられるぞ!?
「お兄さんとコートは俺が守る! だからお前らはガンガン攻めろ! ボールと骨は拾ってやるぜ!」
バレーのユニフォームを着て髪を逆立てた真衣ちゃんが、颯爽と登場した。
イ、イッケメーン!
真衣ちゃんは性格もイケメンだから、男だったら女性から一番モテるタイプかもな。
それにバレー選手のリベロってポジションも、小柄な真衣ちゃんにイメージピッタリだ。
「お兄さん! ボールは全部俺が拾うから、お兄さんはガンガンスパイク決めてくれよな!」
真衣ちゃんがサムズアップしながら白い歯を覗かせた。
「あ、う、うん、頑張るよ」
俺がスパイカーって設定なのか。
俺はどっちかっていうと裏方タイプだと思うんだけどな。
どうも真衣ちゃんは何かにつけて俺のことを持ち上げてくれる傾向にあるけど、ちょっとお兄さん恐縮しちゃうぜ。
「ハッハー! いいよいいよロリータレディ! いや、今はショタレディと言った方がいいかな? まるで風の谷で美少女に、『こわくない、こわくない』(ガブッ!)『ほら、こわくない……ねっ……』(……ペロペロ)『怯えていただけなんだよね』(クルクルクルクル!)『ユ〇様、この子を私に下さいな』『あっ……ああ、構わんが……』なキツネっぽいリスじゃないか!」
「ラン、ランララランランラン、ラン、ランラララン!」
そろそろ怒られますよ!!
この話を書いた当時、ちょうどテレビで放送してたからって、影響受けすぎでしょ!?
「腐ってやがる。早すぎたんだ。それでは次の方! エントリーナンバー4番――かつてこれ程までにニッチなラブコメのヒロインがいただろうか? いやいない(反語)。監禁マニアの腐魔女が、今日は日本一有名な男装キャラで登場! 病野沙魔美カモンッ!」
君将来司会者とかになれば?
「アン〇レ! 冷蔵庫に入れておいたわたしのプリン勝手に食べただろう!? 名前書いておいたのに!」
ベル〇らのオス〇ルの格好をした沙魔美が、凛と登場した。
ご丁寧に金髪のカツラまで被ってやがる。
てかオス〇ルはそんなこと言わねえよ!
マジでファンから怒られるぞ!
しかし、確かにオス〇ルは日本一有名な男装キャラだけど、性別は女性だよね?
これって、沙魔美が男装したことになるのかな?
……まあ、いっか(思考停止)。
「アン〇レ! ちょっとこっちに来い!」
「え?」
沙魔美が指をフイッと振ると、俺の格好が一瞬でアンドレのものに変化した。
俺がアン〇レ役なの!?
「オス〇ルとアン〇レがお送りする、ショートコント、『その前に』」
「何か始まった!?」
「アン〇レ、辺りはすっかり敵兵に囲まれてしまったな」
「あ、ああ、そうだな」
「だがわたしはこの命に代えても最後まで戦いぬくぞ!」
「お、おう、俺も一緒に戦うよ」
「ただその前に、今日はイベントでレア確率がアップしてるからガチャだけ回させてくれ」
「ソシャゲやってんのかよ!?」
「どうもありがとうございましたー」
革命的にくだらないコントに巻き込まれた!
「ハッハー! やってくれたねマイレディ! ボクもオス〇ルの役は幾度となく演じたものだが、今日のキミには脱帽だよ。まるで『我が夫となる者はさらにおぞましきものを見るだろう(部屋中に溢れかえった同人誌)』じゃないか!」
「薙ぎ払え!」
まだ風の谷を引きずってますよ玉塚さん!
「動けば王蟲の皮より削り出したこの剣がセラミック装甲をも貫くぞ。さあ盛り上がって参りました! エントリーナンバー5番――YES! ロリータNO! タッチ。
何そのもぐもぐタイムみたいな言い回し!?
「アヴアアァァァンンンストラアアアァァァッシュ!」
マヲちゃんが勇者みたいな格好で登場した。
しかもアバンスト〇ッシュて。
また若い子には通じないネタを……。
まあ、ロリ体型のマヲちゃんが勇者の格好をしていると、確かに昔のRPGみたいだけどね。
「お兄ちゃん、アタチFXをやってみようと思うの」
「え!? マヲちゃん、それはやめておいた方がいいと思うよ……」
どうしたの急に?
「だってバクチってのは、はずれたら痛い目みるからおもしれぇんでしょ?」
「ここでフレイザ〇ドの名言を出されても!?」
実際FXで有り金全部溶かしたら、そんな悠長なこと言ってられないよ!?
「ハッハー! 言うじゃないかサタンレディ! いや、今はヒーローレディと言ったほうがいいかな? まるでお正月に買った福袋の中身が、全部ルーズソックスだったみたいじゃないか!」
「ソックタッチは必需品」
ただの嫌がらせじゃないですかそれ!?
でも、今でも一部には需要あるのかな、ルーズソックスって?
「セーラー服と機関銃とルーズソックス!(?)さあ、いよいよスパコレも佳境です! エントリーナンバー6番――未来から来た、天衣無縫な爆弾娘。たったひとつの真実見抜く、見た目は子供、心は腐魔女。その名は名探偵タナン。病野多魔美だあ!」
え!? まさか……。
「江戸川タナン、腐魔女さ」
多魔美が日本一有名な小学生探偵の格好をしながら、ドヤ顔で登場した。
何かこれもう、男装ってより、ただのコスプレ大会になってきてない!?
確かに多魔美と小学生探偵は同い年くらいだし、半ズボンもよく似合ってはいるけれども(親バカ)。
「あれれ~おかしいぞ~? イベント前日の徹夜は禁止だって言われてるのに、こんなに人が並んでる~」
「多魔美ッ!!」
小学生探偵みたいに子供っぽく抜けてるフリをしながら、社会に切り込むんじゃないよ!
まったく、親の顔が見たいぜ。
「ハッハー! 真実はいつも一つだねマイレディドウター! まるで毎年一つ二つは、『え? そんなの聞いたことないけど?』っていうのがノミネートされている、流行語大賞みたいじゃないか!」
「バーロー!」
あなたも切り込むんですか!?
「せやかて工藤! いよいよ次で最後です! エントリーナンバー7番――イタリアンレストランの娘にして、未来の二十一代目服部半蔵候補。未だ底を見せぬミステリアスガールが、あのキャラに扮して登場だ! 伊田目ーーー未来延ッ!!」
最後は未来延ちゃんか……。
でも、あのキャラって?
「おあがりよ!」
未来延ちゃんが某食戟漫画の主人公の格好で顕現した。
ああ、なーるほどね。
確かに小さな飲食店の家の子供という点では、共通するものがあるな。
そういう意味では、今までの男装で一番マッチしているかもしれない。
「普津沢さん、おあがりよ!」
「え、俺?」
食戟の未来延が、俺の前にいかにも美味しそうな和風パスタを置いた。
え!? これ、俺が食べるの!?
元ネタ的に、これ食べたら俺、全裸になっちゃうよね!?
こういうのは女性キャラの仕事だって!
野郎の裸なんか需要ないでしょ!?
「おあがりよ!」
「いや、あの」
「おあがりよ!」
「……」
「おあが――」
「わ、わかったよ! おあがるよ!」
もうどうなっても知らないからね!
俺はドキドキしながらパスタを一口食べた。
すると――。
「これは!」
何だか上手く言えないけど……とっても美味しい!
何か出汁も効いてるし、あと何か……アレもアレしてるし!
まあとにかく、メッチャ美味しい!(だから俺にやらせるなって言ったじゃん!)
あまりの美味しさに…………全裸になっちゃうよお〜。
パーン
「おそ松!」
だから字が違うって。
「ハッハー! 見事なパーンだったよ! まるで食戟のソ〇マみたいだったよ」
「カラ松!」
そこはまんまなんですか玉塚さん!?
さてはネタ切れになりましたね!?
「ハッハー! いやあ、みんな素晴らしい男装だったよ。感動した!」
そうですかね?
後半はただのコスプレパーティーになってた気がしますけど。
「座長! 僕を忘れてもらっちゃ困りますよ!」
「むむっ!?」
えっ!? 誰!?
でもこの声は……。
声のしたほうを振り返ると、そこには男子高校生用のブレザーに身を包んだ咲羅君が、キメ顔ダブルピースで佇んでいた。
長い髪も、金田〇少年みたいに後ろで束ねている。
イ、イイイイイイッケメーン!
……いや、君は元々男なんだから、男装じゃないでしょそれは!?(玉塚さんの女装に対するアンチテーゼなのかもしれないけど)
「琴子! 今から一緒に、パンケーキでも食べに行こうぜ!」
「え!? 咲羅君!?」
咲羅君が娘野君の肩に手を回しながら言った。
ブレザーの咲羅君とセーラー服の娘野君の組み合わせだと、ただの美男美女カップルにしか見えないな。
「エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!!」
「マキシマムヘッドスプリーーーング!!!!」
「ダイナマイトパンクラスサンバイザーーー!!!!」
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ
お腐れ三姉妹がまたもやハッスルしている……。
結局なんだったんだろうか、今日のこの茶番は?
「ハッハー! 最後に美味しいところを持っていったな咲羅! まるで……ハ、ハーックション!」
「「「!?」」」
玉塚さんがくしゃみをした途端、具現化していた衣装が消失し、女性陣(プラス咲羅君)がみんな全裸になってしまった。
ニャッポリート!?(新年一発目)
「キャアアッ! 堕理雄君、見ないでえ!」
「ウッホー! 最高やんけこれー!」
「お兄さん! 私の裸を見たからには、責任を取ってください!」
「堕理雄! 罰として後で監禁オーバードライブよ!!」
「アタチもアタチもー」
「じゃあ私もー」
「アッハハー、こいつは新年から縁起が良いですね」
「座長ー!! 最高のお年玉、ありがとうございまーす!!」
「ハッハー! 失敬失敬。決してワザとじゃないんだよ」
凄え怪しい。
「コラコラ琴子、君が見ていい裸は、僕のだけだろ?」
「え、ちょっ!?」
そう言いながら咲羅君は、娘野君をバックヤードに連れていったのだった。
「「「アッー」」」
お腐れ三姉妹の魂の叫びが、スバシーパに響き渡った。
本年も、よろしくお願いいたします(現実逃避)。