「はぁ……」
「どうしたんだいお嬢ちゃん、そんなにショーウインドーに飾られた同人誌をキラキラした眼で見つめて」
「え!? オッパイの大きなおねえさん、あなたは誰!? それにそんな、仮面舞踏会で付けるみたいなマスクをして」
「フフフ、私かい? 私はね……同人仮面さ!」
「同人仮面!?」
「そう、同人誌を愛する全ての淑女の味方――それが私、同人仮面だよ」
「そ、そうなんだ……」
「……その同人誌が欲しいのかい?」
「え? ……うん、そうなの。これは、深爪パティシエール先生っていう、伝説の同人作家さんが描いた幻の同人誌なんだけど、もうほとんど世には出回ってなくて、ここでやっと見付けたの! ……だからこの本、どうしても欲しいんだ」
「なるほど、そういうことかい。――ならば今日は特別に、私がお嬢ちゃんにその本を買ってあげようじゃないか!」
「え!? いいの!?」
「いいわけがあるかッ!!!」
「っ!?!?!?」
「甘ったれたことを言うんじゃない! そんなにすぐ欲しいものを買ってもらえると思ったら、大間違いだ!!」
「えぇ……。さっきは買ってくれるって言ったのに……」
「あれはお嬢ちゃんの心を試したんだよ。でも案の定、お嬢ちゃんは
「っ! で、でも……私はまだ子供だし……。お金もないから、自分で同人誌なんて買えないもん……」
「買えないなら自分で創ればいいじゃないか!」
「えっ!?」
「いいかい? 本来同人誌というものは、『パンがなければ自分で創ればいいじゃない』の精神で始まったものなんだよ」
「そんな、フランス王妃の名言みたいな……。でも、そっか、欲しければ自分で創ればいいのか」
「そうだよ(便乗)。むしろ自分で創れば、自分が思い描く、最高の漫画を生み出すことができるんだよ」
「そっかあ! ありがとう同人仮面! 私、描くよ! 自分で同人誌を描く! そしたら深爪パティシエール先生以上の作品を創れるかもしれないもんね!」
「フフフ、実際やってみると、そんなに甘いものじゃないんだって壁にブチ当たるんだけどね」
「え? 何か言った?」
「いやいや、何でもないよ。それではさらばだお嬢ちゃん! お嬢ちゃんが立派な同人作家になれることを、心から祈っているよ!」
「うん! 本当にありがとー、同人仮面ー」
――:それがナットウゴハン先生が、漫画を描き始めたキッカケですか?
ナットウゴハン:ええ。後で知ったことなんですが、その時私が出逢った同人仮面こそが、深爪パティシエール先生だったんです。深爪先生は同人活動に勤しむ傍ら、同人仮面として全国を回り、私のような漫画家の卵の背中を押してくれていたというわけです。
――:なるほど。ナットウゴハン先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきまして、誠にありがとうございました。
「……これがあれだけ土下座してやり直してもらった、インタビュー記事か?」
「ええそうよ。これなら文句ないでしょ?」
「余裕であるが、もういいよ。もう俺は疲れた……」
「フフフ、そんな堕理雄の疲れを癒すために、特別にオッパイトリプルアクセルマッサージをしてあげるわね」
「何それ!?」