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第128魔:さあッ!!

「第1回、魔女の使い魔やあらへんで! チキチキ良いタイミングで『アァーイ』って言うグランプリー!」

「久しぶりだなこのノリ!?」


 最近俺の就活関連でシリアス目な展開が続いてたから、久々の純粋なギャグ回っぽくて安心する一方で、ギャグ回だと俺のツッコミの負担も激増するから気が重いというのもある……。


「沙魔美氏、その……良いタイミングで『アァーイ』って言うって、どういうこと?」


 菓乃子が至極当然な疑問を投げてくれた。

 やっぱ菓乃子だけが俺の心の支えだぜ。


「ホラ、このたび私と堕理雄は、IGAへの就職が決まったじゃない?」

「え? うん……」


 因みにIGAの存在を知っている面々には、俺と沙魔美がIGAの一員になったことは先日伝えた。

 今後はみんなにも諸々口裏を合わせてもらう必要も出てくるだろうから、伝えておいたほうが都合がいいだろうという、伊田目さんの判断によるものだ。

 そして今日は俺と沙魔美の就職祝いも兼ねて、スパシーバにいつものメンバーが勢揃いしているのだ。

 だというのに、いきなり沙魔美が意味不明な企画を持ち出してきたので、皆一様に困惑していた。


「だからそのお祝いとして、一人一回ずつ良いタイミングで『アァーイ』って言ってもらって、一番良いタイミングで『アァーイ』って言った人が優勝ってやつをやろうと思ったよ」

「あ、そうなんだ……」


 なるほどわからん。

 菓乃子も、「訊くんじゃなかった……」とでも言いたげな顔をしている(読心術が使えない俺でもそのくらいはわかる)。


「沙魔美、俺にはそれのどこが面白いのか1ミクロンも理解できないんだが、本当にやるのか?」

「まあまあ、とりあえず私がお手本を見せるからみんなシッカリ見ててちょうだアァーイ!」

「言った!」


 もう言ったよ!

 いや、やっぱこれ全然面白くないよね!?

 完全に企画倒れだよね!?

 悪いこと言わないから、今からでも違うネタに変えようよ!


「ふむふむふむ、要領はわかりましたよ。では次はお兄さんのナンバーワンシスターであるこの私が、ぐうの音も出ないくらいの『アァーイ』を披露いたしましょう」

「真衣ちゃん!?」


 なんで君、今のドン滑りを見て尚自ら前に出る気になったの!?

 もしかして君も剛毛心臓ハイパーヘアーハートなの!?


「ではいきますよ! お兄さん」

「え? ……何だい真衣ちゃん」

「お兄さんが好きなアァーイは何ですか?」

「真衣ちゃん!?」


 君ちょっと趣旨履き違えてるでしょ!?

 『アァーイ』を名詞にしちゃってるじゃん!

 ……いや、俺も正直『アァーイ』が何なのかをまったくわかってないから、名詞じゃないとは言い切れないんだけどさ。


「なかなかやるじゃないマイシスター。今のは72アァーイはいってたわよ」


 出たよ、独自の単位を作っちゃうやつ。


「そうですか。その数字には若干作為的なものを感じますが、まあ、高得点なのでしょうから、よしとしましょう」


 真衣ちゃんは大きく胸を張った。

 そこ! 張る程の胸はないだろとか言わない!(言ってない)


「ヨッシャ! ほんなら次はウチが、宇宙海賊式の『アァーイ』を見せちゃるわ!」


 宇宙海賊式の『アァーイ』って何!?


「これはウチがまだ宇宙海賊やった頃の話なんやけどな、ある日ウチが独りで自室に籠っとったら、誰もいないはずの隣の部屋から、『シクシクシク……、シクシクシク……』って、女のすすり泣く声が聞こえてきたんや」


 まさかの怪談!?


「聞いたことない女の声やったし、ホンマ嫌やなあ、嫌やなあ、怖アァーイなあ、怖アァーイなあってなってもうてな」


 言った!!

 今のは自然な感じだったから、聞き逃すところだったよ!


「まあまあねカマセ。69アァーイってとこかしら」

「ピッセや! ……チッ、ツルペタ娘に負けてもうたか」

「ふふーん! 残念でしたねピッセさん。お兄さんへのアァーイは私の方が上だったみたいですね」


 何ちょっと上手いこと言ったったみたいな顔してるの真衣ちゃん!?


「まあエエか。胸のサイズじゃウチの圧勝やし」

「クソがあああああああああ!!!」


 どうでもいいけど、真衣ちゃんてCV岡本〇彦のキャラ並みに「クソがあ」って叫んでるよね。

 喉を痛めないように気を付けてね(どっちも)。


「アッハハー、それでは次は不肖このワタクシが、イタリアンレストランの娘式の『アァーイ』をお見せしましょう」


 ……まあ、俺ももうツッコむの疲れてきたから、好きにやってくれたらいいよ。


「では普津沢さん、このトランプの中から一枚、好きなカードを取っていただいてもよろしいですか?」

「え? あ、うん」


 手品でもやるの?


「……じゃあ、これかな」


 俺はトランプの中からカードを一枚抜き取った。


「それを私に見えないように、他の方々にも見せてください」

「あ、はい」


 俺はカードをかざした。

 そのカードは、アァーイのエースだった。

 ……いや、アァーイのエースって何!?!?


「ブラボー! まさかカードで『アァーイ』を表現してくるとは、恐れ入ったわ未来延さん。88アァーイよ!」

「ありがとうございます!」


 もうこれルールも何もあったもんじゃないな。

 まあ、元々沙魔美の思いつきで始まった企画だし、どうでもいいけどさ。


「じゃあ次は私達放課後電磁波クラブの番だねー」

「だねー」

「え?」


 多魔美とマヲちゃんはペアでやるの?

 ……大丈夫かな。

 この二人が組むと、いつもろくなことにならないんだよな……。


「放課後電磁波クラブがお送りする」

「ショートコント」

「「『歩きスマホ』」」


 ……。


「ふんふふんふふ~ん」

「あー、ちょっといいかなお嬢ちゃん」

「ふえ? アタチに何かご用?」

「うん。スマホを見ながら歩くのは危ないから注意してあげようと思ってね」

「それなら大丈夫だよ」

「え?」

「これはスマホを見てるフリをしてるだけで、実際はちゃんと前を見て歩いてるから」

「な、なんでそんなことを!?」

「それはね……アタチ自身を囮にして、あなたをおびき寄せるためだよ! ロリコン容疑で指名手配されている、露李井ろりい太蔵たいぞう! 逮捕する!!」

「そ、そんな……そんなバカなああああ!!」

「「どうも、ありがとうございましたー」」


 ……。

 『アァーイ』はッ!?!?

 初めて放課後電磁波クラブのコント最後まで観たけど、内容も意味不明だったし(そもそもコントか今の?)、これもうわかんねぇな。


「なるほどね。敢えて『アァーイ』を言わないことによって、逆に私達の心に深く『アァーイ』を刻み込もうとしたのね。……我が娘と妹ながら、おそろしい子! 99アァーイよ!」

「「やったー」」


 沙魔美が白目蒼白でそう評した。

 深読みしすぎじゃね?

 ただの親バカ兼姉バカなのかもしれないが。


「ハッハー! ここで真打登場だよ! 我々玉塚歌劇団が、本物の『アァーイ』というものを観せてあげようじゃないか! いや、魅せてあげようじゃないか!! 準備はいいな? 琴子、咲羅!」

「「はい、座長!」」


 今度は三人一遍に!?


「演目は『ロミオとジュリエット』! レッツショーターイム!」


 またロミジュリ!?

 星間戦争の時も演りましたよねそれ!?

 玉塚さんシェイクスピア大好きですね。

 玉塚さんが手をかざすと、瞬時に娘野君の服は王子様の衣装に、咲羅君の服はお姫様の衣装に変化した。

 今回は娘野君がロミオで、咲羅君がジュリエットなのか。

 じゃあ玉塚さんは何役なんだろう?

 ロミオとジュリエットの二人は、その場で互いに見つめ合った。


「嗚呼、アァーイ、何故あなたはアァーイなの?」


 こっちが訊きたいよ!

 もう『アァーイ』言ったし!

 何これ!?

 こんだけ大掛かりなことしといてもう終演なの!?


「嗚呼、アァーイエット、僕こそ訊きたいよ、君が何故アァーイエットなのかを」


 アァーイエットって誰!?

 え、もしかしてこの茶番、まだ続けるつもりなの?


「ハッハー! どうやらお困りのようだねお二人さん」

「「あ、あなたは!?」」

「ボクは通りすがりの仮面ヒーロー、アァーイマスクさ!」

「「アァーイマスク!」」


 ここに来てオリキャラ投入!

 漫画の実写化とかで一番叩かれるやつだ!

 玉塚さんシェイクスピア好きな割には、毎回原作ブチ壊してますよね!?

 それとも好きだからこそ、独自の解釈を加えたくなってしまうものなのだろうか?


「悩みがあるならボクに相談してみたまえ」

「ええ、実は私達親同士が仲が悪くて、愛し合っているのに結婚できないんです」

「そうなんです」

「なるほどなるほど、それは大変だね。――でもね、そういう時は、こう叫ぶんだよ」

「「え?」」

「アァーイ!」

「「!」」

「さあキミ達も! アァーイ!」

「「ア、アァーイ」」

「アァーイ!」

「「アァーイ!」」

「アァーイ!!!」

「「アァーイ!!!」」

「こうして世界は平和になったのであった」

「「「どうも、ありがとうございましたー」」」


 俺の5分間を返せ!!


「ハラショー! 私感動のあまり、眼から水銀が出てきましたわ勇希先輩。100アァーイです!」

「ハッハー! グラッツェ!」


 それは眼科に行ったほうがいいぞ沙魔美(もう手遅れかもしれないけど)。

 しかし、ついに100アァーイが出たか。

 100アァーイでカンストなのかな?


「さ、いよいよ次は菓乃子氏の出番ね。菓乃子氏なりの『アァーイ』を期待してるわよ!」

「え!? わ、私!?」


 そうか。

 菓乃子はまだ『アァーイ』してなかったか。

 うわあ。

 この後はやり辛いなあ。


「私はいいよ沙魔美氏! 私そんなキャラじゃないし……」


 まあ、そうだよな。

 菓乃子は唯一の常識人キャラだもんな(菓乃子しか常識人がいないというのも、改めて考えるとぞっとするが)。


「アラ、いいの? 早くやらないと、1分おきに菓乃子氏の性癖を1つずつ堕理雄にバラすわよ?」

「そっ!? それだけは勘弁して沙魔美氏!!」


 ……え。

 菓乃子の性癖?

 そ、それは……知りたいような、知るのが恐いような……。


「わかった! やる、やるから!」


 そんなに俺に知られたくない性癖があるの?

 ……むしろこうなると俄然気になってきたな。


「いよっし! じゃあ、菓乃子氏の『アァーイ』、いってみまSHOW!」

「……えーっと、堕理雄君、ちょっと手伝ってもらってもいいかな?」

「え? あ、ああ、いいよ」


 菓乃子の頼みなら喜んで。


「……私と今から、あっち向いてホイをやってもらいたいの」

「あっち向いてホイ? ……うん、いいよ」

「じゃあいくよ。せーの」

「「ジャンケンポイ」」

「アァーイっち向いてホイ!」


 ……言うと思ったよ。


「~~~~っ」


 柄にもないボケ役をやった羞恥心が今になって湧いてきたのか、菓乃子は両手で顔を覆ってしまった。

 俺は菓乃子はよく頑張ったと思うよ!

 全然恥じることはないよ!


「カワイイー!! 恥ずかしがってる菓乃子氏超ーカワイイわー!!! 5000兆アァーイよー!!!」


 何となくこうなる予感はしてたよ。

 いい加減毎度の三流バラエティ番組のノリは卒業してくれないかな?


「チュウッ!」

「「「!?」」」


 沙魔美が菓乃子に抱きついて、左のほっぺにキスをした。


「ウオオォォイ沙魔美テメェなにやってんだー!?」

「クォルアァァアアッ!!! 魔女ー!!! ウチの菓乃子に何さらしとんじゃワレェエエエ!!! ――チュウッ!」

「「「!?!?」」」


 ピッセも負けじと、菓乃子に抱きついて右のほっぺにキスをした。

 張り合うんじゃないよお前も!


「ちょ、ちょっと、二人共ッ!」


 相変わらずの百合サンドイッチに困惑しつつも、顔を真っ赤にしている菓乃子であった。

 愛されてるなあ、菓乃子は。


「さて、大トリは堕理雄よ! 最後に最高の『アァーイ』で締めてちょうだい!」

「ファッ!?」


 俺も参加者だったの!?


「期待してますよお兄さん! さあ! さあッ!!」

「真衣ちゃん……」


 妹からの視線が痛い……。

 でも、兄として、ここで俺だけ逃げるわけにはいかないよな。


「……えー、では参ります」


 みんなが息を吞むのがわかった。


「これにてお開き。おアァーイとがよろしいようで」

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