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第134魔:主役

「レディース&ジェントルメン。本日は我がオーワングランプリにお越しいただいたこと、誠に感謝するよ、僕の可愛い子ども達」

「「「ウォオオオオオッッ」」」


 会場は大歓声に包まれた。

 何故かマイクを使っているわけでもないのに、オーゼットの声は会場中に響き渡っているし、観客達の声もみんな日本語に聴こえる。

 これも魔法の効果なのだろうか?


「アハッ、それでは堅苦しい挨拶はこれくらいにして、早速みんなお待ちかねの選手紹介に移ろうと思う」


 っ!

 いよいよ始まってしまうのか……。

 何やってんだよ沙魔美。

 お前は漫画の締め切りは毎回破ってるけど、原稿を落としたことは一度もないって言ってたじゃないか(毎回破るのもそれはそれでどうかと思うが)。


「まずはこの子。――蒐集した叡智は5000年分。狂気に科学し、科学に狂喜する。伝説の科学者マッドブラックハンパナイッテゴートの二つ名を持つ深淵の才媛。キャリコ・ヴァッカリヤ」


 なっ!?

 オーゼットがステッキでコツンと地面を突くと、闘技場の中央にキャリコが出現し、会場が湧いた。


「ンフフフ、本日はこのような場にお招きいただき、誠に恐縮ですわ創造神様」


 キャリコはオーゼットに向かってうやうやしく頭を下げた。

 キャリコも選手の一人だったのか!?

 ……まあ、キャリコの実力ならさもありなんといったところだが。

 キャリコもマイクを持っているようには見えないが、声が会場中に響いている。

 闘技場にいる人物の音声も、みんなに聴こえるように配慮されているのかもしれない。


「アハッ、君と直接話すのは初めてだねキャリコくん。噂通り、聡明そうな子だ」

「ンフフフ、あなた様程ではございませんわ」


 うぅ……。

 何だかこの二人の会話を聞いてると、こっちの胃が痛くなってくるな。

 超高度な頭脳を持つ者同士の腹の探り合いを目の当たりにしているというか……。


「ウオオオイキャリコー!! 出場するからには絶対優勝しろよー!!!」

「っ!?」


 この声は!?

 振り返るとそこにはラオ、ジェニィ、キャーサ、ジタリアというキャリコの娘達が勢揃いしていた。

 お母さんの晴れ舞台をみんなで観に来たのか!?

 微笑ましい光景!


「アッ!? 地球のメス猿もいんじゃねーか!! なんでオメェまでここにいんだよ!」

「うるさいわね。あなたには関係ないでしょ!」


 早速ラオが菓乃子に突っかかってきた。

 うぅ……。

 胃が痛い。

 胃が痛いよお。

 頼むから百合修羅場は他所でやってよお。


「アハッ、では続いての選手を紹介しよう。――伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツの元キャプテンにして、現在は地球のイタリアンレストラン、スパシーバの看板娘。スパシーバのオススメメニューはガーリックが効いたペペロンチーノ。ピッセ・ヴァッカリヤの入場だ」


 後半スパシーバの紹介になってたけど!?

 オーゼットがステッキでコツンと地面を突くと、キャリコの横にピッセが出現した。


「ウチのオススメはペスカトーレのリゾットや!」


 お前までスパシーバの宣伝してくれるのかピッセ!?

 お前こそ看板娘の鑑だよ!

 どうりでピッセが観客席にいないと思った。

 ピッセも選手だったのか。

 まあ、これも順当か。

 身体能力だけなら、ピッセは宇宙トップレベルだろうしな。


「ピギャアアアア姐さああああん!!! 今日もお麗しいっすーーー!!! 絶対優勝してくださああああいッ!!!!」


 さっきはお母さんに優勝してって言ってたのにラオったら……。


「……頑張って、ピッセ」


 一方百合嫁の菓乃子は聞こえるか聞こえないかくらいの声で、手を組んで祈りながらそう呟いたのだった。

 流石の貫禄やで。

 が、そんな菓乃子の声が聞こえたはずはないのに、ピッセは「もちろんや!」と言いながら菓乃子にサムズアップを返したのである。

 これには菓乃子も面食らったのか、赤面しながらあわあわしている。

 相変わらずピッセのイケメンムーブが止まらないぜ!


「ヒャッハーーー!!! 姐さんがオレにサムズアップしてくれたぜええええ!!! 姐さああああん!!!!」


 ……ラオ。

 お前はまあ……、強く生きろよ。


「ンフフフ、そういえばピッセ様とは直接手合わせさせていただいたことはありませんでしたね。もしトーナメントで当たった場合は、お手柔らかにお願いいたします」

「ケッ、よー言うわ。内心は勝つ気満々のクセしてからに。心配せんでも全力でブチのめしたるわ。楽しみに待っとれ」

「ンフフフ」


 オオウ……。

 早くも場外で火花を散らし合っているな。

 でも、実際キャリコとピッセが戦ったら、どっちが勝つかは見物ではあるな。

 科学技術に特化したキャリコか、はたまた身体能力に特化したピッセか……。


「アハッ、いいねいいね盛り上がってきたねー。この流れで三人目を紹介しよう。――異世界からの訪問者は未だその力をひた隠す。今日はその片鱗を我々に披露してくれるのか? 月をみ闇を呑む漆黒の女魔王。マヲだ」


 何だと!?

 オーゼットがステッキでコツンと地面を突くと、ピッセの横にマヲちゃんが現れた。


「ふええ、アタチじゃおねえちゃん達には勝てないよおお。お兄ちゃん助けてえ」

「マヲちゃん……」


 改めて999歳(いや、もう1000歳か?)のロリBBAに涙目でそんな懇願をされると、なかなかにクるものがあるが、でも確かにこのメンツに交じるとなると、マヲちゃんでは若干力不足な感は否めないな。

 大丈夫かな?

 何なら棄権したほうがいいんじゃ……。

 そもそもなんでオーゼットはマヲちゃんに白羽の矢を立てたんだ?


「大丈夫だよマヲちゃーん! マヲちゃんならやれるよ! 何なら悪しき魔女に代わって、マヲちゃんが優勝しちゃってもいいんだよー!」

「リ、リーダー!」


 真衣ちゃん!?

 おお、流石ちっこいズのリーダー。

 メンバーのメンタルケアまで欠かさない、リーダーの鑑や。


「私も応援するから、頑張ってマヲ叔母ちゃーん!」

「もう! 叔母ちゃんて呼ばないでっていつも言ってるじゃない多魔美ちゃん!」


 我が娘もいつも通り叔母さんをおちょくって、肩の力を抜けさせてあげたらしい。

 まあ、少なくともキャリコやピッセがマヲちゃんと当たった場合は手加減してくれるだろうから、大事に至ることはないか……?

 だが、さっきオーゼットがマヲちゃんのことを紹介した時、気になるフレーズがあったな。

 確か、『その力をひた隠す』とか言ってなかったか?

 どういう意味だろう?

 ――まさか。


「アハッ、次はいよいよ僕の推しメンの登場だよ。――黒衣のゴスロリに身を包んだ北方より出でし『最凶の魔女』。その力は未だ未知数。暗雲低迷。萎靡沈滞。槿花一日の闇の住人。ノーズェ・アーラキー」


 っ!

 ……来たか。

 オーゼットがステッキでコツンと地面を突くと、マヲちゃんの横にノーズェが幽霊みたいに現れた。


「ふ……ふふ……、はじめましてみなさん……。もしよろしければ……私とお友達になってください……」

「「「……」」」


 キャリコもピッセもマヲちゃんも、瞬時にノーズェのヤベーやつオーラを察したのか、口を噤んだ。

 正解。

 それ正解ですよ、お三方。


「アハッ、本当にノーズェくんは可愛いなあ。――さてと、ではここで諸君に、本日のスペシャルゲストを紹介しようと思う」

「「「ワアアアアアアアアアアアッッ」」」


 っ!?

 オーゼットがそう宣言した途端、会場は割れんばかりの歓声で埋め尽くされた。

 よもや、次に出てくるのがオーゼットが言っていた、ほとんどの人が目当てにしている大人物なのか?


「――今から一万年程前、宇宙海賊の歴史はこの女から始まった」


 ……!


「――銀河を股に掛け悪の限りを尽くし、ある時は奪い、ある時は奪い、ある時は奪った。奪って奪って、奪って奪い、彼女が通り過ぎた跡には、例外なく何も残されてはいなかった。人は彼女のことをこう呼ぶ、『伝説中の伝説の宇宙海賊』、と」


 なっ!?


「そんな彼女が本日は腹心の部下を引き連れて参戦してくれたぞ。伝説中の伝説の宇宙海賊マージドロンアクダマオジャマミレンのキャプテン、リーブル・ドローン。そして同じく参謀、エリアス・ボヤーキ。特攻隊長、ターラス・トーンズ」


 えッッ!?!?!?

 オーゼットがステッキでコツンと地面を突くと、ノーズェの横で爆発が起こり、その煙が晴れると三人組の男女がそこに立っていた。

 センターに立っているのは、黒いセクシーな全身タイツに身を包んだ妖艶でナイスバディな美女。

 だが、頭の上に何故か天秤みたいなオブジェを乗せている。

 その右隣に立っているのは、緑の全身タイツに身を包んだ痩身の男。

 こちらも何故か水瓶みたいなものを抱えている。

 そして最後、左隣に立っているのは、紫の全身タイツに身を包んだゴリマッチョの男。

 こちらは頭に牛みたいな角が生えている。

 ……ま、まさかこの三人は。


「お前達、や~っちゃっておしまい!」

「「ホラアラサッサー!」」


 あの三人だーーー!!!!

 いやいやいやいや、ここにきて最高に露骨なのブッ込んできたな!?

 パロまみれのこの小説の中でも、過去最高にまみれてるの出てきたぞオイ!?

 たしかにあの三人は、日本じゃ伝説中の伝説の盗賊だけど、それにしたって……。


「「「ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ」」」


 だが、会場は今日一番の盛り上がりを見せている。

 特に男性客からの声援が凄い。

 ……絶対これ、ドロン――もとい、リーブル様のセクシー衣裳目当てだろ。


「ドゥエアアアアアアアアッ!?!? あああああのお方は、宇宙海賊界の生ける伝説! 宇宙海賊オブザイヤーを500年連続で受賞した経験もある、全宙海賊界の憧れの的、リーブル・ドローン様ーーー!!!!」


 ラオ!?

 めっちゃ早口で言ってそう!(実際言ってる)

 ラオって何気に宇宙海賊オタクなのでは?

 てか、あのリーブルって人は、そんな凄い宇宙海賊なのか。

 さっきオーゼットは一万年前に、リーブルから宇宙海賊の歴史は始まったって言ってたけど、つまりリーブルは一万歳ってこと?

 普通の生物は一万年も生きられないはずだが(亀は万年とは言うが)、リーブルもキャリコみたいに強力な肉体改造でもしているのだろうか……?


「ハッ、こいつはとんだ大物が出てきよったのう。まさか生きとる内にあんたに会えるとは思とらんかったわ」


 ピッセはつかつかとリーブルに近付いていった。


「ウチは伝説の宇宙海賊ギャラクシーエキセントリックエッセンシャルパイレーツの元キャプテンやった、ピッセ・ヴァッカリヤいうもんや。よろしゅうな」


 ピッセは右手を差し出した。

 やはりピッセにとってもリーブルは憧れの存在なのだろうか?


「ふっふっふ、あんたのことはよーく知ってるよピッセ」

「っ!?」


 リーブルも右手を出してピッセと握手をした。


「まだまだ若い宇宙海賊団だけど、活きがいいのがいるってアタシも注目してたんだ」

「なっ!? ……マジか」


 ピッセはメジャーリーガーを前にした野球少年みたいな顔をしている。


「もしもトーナメントで当たったらよろしく頼むよ、ピッセ」

「……こちらこそや」


 おお。

 そんな大御所に名前を知られてたなんて、やっぱピッセって凄いやつだったんだな。


「アバアアアアアアアアアアアアッ!!! リーブル様に注目されてたなんて、やっぱ姐さんは最高の姐さんですよ姐さああああああああん!!!!」


 うるさいぞラオ!?

 お前が姐さん大好きなのはわかったから、頼むからジッとしててくれ。


「アハッ、自分で集めておいて何だけど、そうそうたる顔ぶれが揃ったね。これぞオーワングランプリの名に恥じないメンツだよ。――では、以上七名でオーワングランプリを――」

「っ! ま、待ってくれオーゼット!」


 まだ沙魔美がッ!


「待たせたわねッ!!」

「「「っ!!」」」


 こ、この声はッ!?


「ある時は新進気鋭のB漫画家ナットウゴハン――」


 っ!?


「またある時はKANKINレコードの代表取締役社長兼敏腕作曲家のYaminoSamami[nYk]――」


 ……!


「しかしてその実体は――愛に生き愛に死ぬ、日出ずる国よりきたる監禁の魔女! 病野沙魔美、参・上ッ!!」

「……沙魔美」


 観客席の最上段に、全身ボロボロの沙魔美がガイナ立ちしていた。

 その横には同じくボロボロのヘタオが、エストをお姫様抱っこしている。


「……まったく、遅えよ沙魔美」

「フフフ、主役は遅れてやってくるものよ!」


 次回、「オーワングランプリ第一試合開始!?」。デュエルスタンバイ!

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