「呂蒙、利三!私がここを離れると指揮が乱れる。孫策様のこと頼んだぞ」
周瑜は二人に孫策の探索と保護を託すと、軍議所に向かい情報を待った。
二人は血眼になって孫策を探すが見当たらない。
「殿は一体どこへ行ったのだ」
光秀は苛立ちを隠せずにいた。
「……!殿、長江の河岸を探してみましょう」
利三が何か思いだしたのか、光秀に提案した。
「河岸……?」
「はい。一人で何気なく過ごすには河を眺めているのが一番だと」
「うむ、探してみよう」
光秀と利三はすぐさま馬を走らせ、長江へと急いだ。河岸まで着くと手分けして孫策を探すことにし、光秀は東、利三は西の方を探索した。
「あれは!孫策様!」
光秀が馬を走らせていると、孫策が川縁に寝転がっているのを発見した。
「殿ー!」
光秀が大声で呼ぶ。
「げっ。あれは呂蒙!」
孫策はばつの悪そうな顔で、慌てた素振りで起き上がった。だが光秀が近づこうとするところに、五人ほどの賊が突如現れ行く手を阻んだ。
「なんだ貴様ら!殿!お逃げくだされ、刺客ですぞ」
光秀が大音声で叫ぶ。
「くそっ!」
光秀は馬の尻を叩きつけ、包囲を突破しようと試みるが、賊らは攻撃を馬に集中させ、仕舞いには足を斬りつけ、走る力を奪ってしまった。
光秀は落馬するも、うまく態勢を整え、賊らの剣撃をいなしながら孫策の方を見る。
「!!」
すると、孫策にはたくさんの矢が降り注がれており、その全てをかわすことなど到底不可能で、体には数本の矢が突き立っていた。
「殿!」
光秀は目の前の賊を一刀両断にし、または薙ぎ払い、進路をこじ開けると、脇目も振らずに孫策へと駆け寄った。
「大丈夫ですか、殿!」
「なに、急所は外れている。それよりも呂蒙、やられっぱなしでは気が済まぬぞ」
「はっ!」
光秀は鋭い眼光を刺客らに向けると、凄まじい勢いで斬りかかった。
その後ろからは、矢を受けながらも平然そうな顔をした孫策が追ってきている。
光秀と孫策の剣は、見る者を魅了する勇壮な剣舞のようであった。賊らの抵抗など全く意に介さず、ばたばたと切り捨てていく。
「おのれ、孫策。許貢殿の無念、貴様の首にて晴らそうぞ」
倒されていく賊らの後方から、白い装束の上から胸当てをつけた三人の男が踊りかかってきた。
「貴様らが首魁か」
一人の刺客の剣撃を光秀は受け流し、弾かれたところを孫策の剣が貫く。
「仇討ちは結構だが、闇討ちしかできぬ卑怯者共。呂子明が剣の錆としてくれよう」
光秀の端麗な顔が鬼面に変わる。
「手負いの孫策を狙え」
刺客の指示が飛び、賊らは攻撃の目標を孫策のみに定める。
刺客らは孫策の援護ができないように二人で光秀を挟み、牽制している。
「舐められたもんだな」
孫策は周囲の賊を睨みつけた。
「呂蒙、こっちは気にせずともよい。それより、そいつらを逃すなよ」
「はっ」
光秀は返事するが、この刺客がそれなりの使い手であることと、孫策に対峙する賊の多さに、圧倒的な不利を悟っていた。