「義父上はこの時代に覇を唱えん、と思わぬのですか?再び与えられた命、御自身の為に使おうと思わぬのですか?」
秀満が発奮させようと煽るが、光秀は涼しい顔で聞き流している。
「義父上!」
「くどいぞ、秀満」
更に煽ろうとする秀満を、光秀は一喝してとどめた。
これには秀満も不満ながら口をつぐむしかなく、渋々と光秀に付き従って呉へと戻っていった。
季節は移り変わり冬を迎える。
呉では孫策亡き後のごたごたがまだ続いていた。
皆の吐く息は白く、雪は降らないまでも、吹き付ける風が身に凍みる。
そんな中を秀満は一人鬱々と歩いていた。
あれ以来光秀は、忙しいのもあるのだろうが、秀満を遠ざけているような気がしていた。
秀満も光秀の推薦で孫権の家臣団の一員となってはいたが、特に仕事を与えられるでもなく、閑職のようで、余計に気が滅入る。
「秀満殿、秀満殿」
後ろから呼ばれる声にも気がつかず、肩をたたかれ、振り向いた先には利三が、心配そうな表情で立っていた。
「おぉ、利三殿か」
「相変わらず浮かぬ顔をしておるな」
ようやく気づいた秀満を気遣い、いたわるように話しかけた。
「……」
「殿のことか?」
「いかにも。利三殿は現在の状況に満足しておるのか?」
「某は殿を信じ付いていくのみ」
「そうか……」
二人が静かに話していると、すぐそばを急使が馬を飛ばして駆け抜けていった。
「何事かな?」
秀満は利三と顔を見合わすと、すぐに後を追った。
城の軍議場にはすでに主だった武将たちが集まり、孫権の登壇を待っていた。
その間、武将たちは口々にいろんな噂話を喋りだしては、否定し、あるいは肯定し、と言葉を酌み交わしている。
秀満と利三は耳を傾けるだけで参加はせず、光秀の姿を探しだし、近づいていく。
「殿」
「二人とも来ていたか」
「はっ、して先の早馬は?」
「まだわからぬが、官渡を偵察していた者共らしい。決着がついたのであろう、というのが大方の意見だな」
「官渡……曹操が勝った合戦ですな」
秀満の言葉に光秀は「しっ」と人差し指を唇にあてると、
「他言無用だ」
と、くぐもった声で秀満を制した。
確かに未来を知っていることは隠し通さねばならないことである。
しかし、呂蒙となった光秀は明らかに人が変わった。
秀満は自分が為すこと全てが光秀の癇に障っているような感触に、内なる不満を更に募らせていった。
しばらく待つと、孫権が周瑜と張昭を引き連れ登壇した。
「曹操と袁紹による華北の決戦が終わった」
孫権に代わり、周瑜が説明をしだすと、会場は大きなざわめきに包まれた。
「官渡の戦は曹操の勝利だ。勝因は兵站基地への奇襲で、この奇襲部隊を率いた武将は
「なっ……!」
周瑜から
「呂蒙?この者について何か存じているのか?」
この不可解な光秀の驚きと態度を追求した。
「いえ、袁紹の敗北に驚いた次第」