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第6話

 そうしていると、不意に小山の逆方面から喊声が聞こえてきた。


「何事か?」


 秀満は振り返りながらも刀を抜き、身構えた。


「敵の斥候部隊と思われます。確認できた兵数は十人に満たないほど」


「私が向かおう。君は監視を続けていてくれ」


 秀満は報告に来た兵に監視役を頼むと、声の方へと急いだ。


 見ると、とても関羽の部下には見えないみすぼらしい格好の男たちが各々武器を構えて、秀満の部下らと対峙している


 秀満はすかさず最前に歩みでて、


「君らは何者か?」


と、問い質した。


 すると厚い胸板を無数の毛が覆い、さらに顔面毛むくじゃらな熊のような巨漢が厚手の斧を片手に前へと出てきた。


「お前らこそ何者だ。この辺にいる軍なら曹操軍か」


 その男は問いながらも自ら答え、


「やれ!」


と、部下に合図を出す。


 その熊男も当然襲いかかってきたのだが、その巨体から想像できないほどの身のこなしで、あっと言う間に距離を詰めてきた。


「儂の名は周倉しゅうそうじゃ、冥土の土産に覚えておけぃ」


 そう吠えると、分厚い両刃の斧を勢いのままに振り下ろした。


 重力に引かれ加速した斧が地面をえぐる。


 秀満はなんなくかわしたが、まともにくらうと真っ二つにされそうな威力であることは削られた地面を見るとわかる。


 平坦な場所では不利と悟り、木々の生い茂る林の中へと駆け込む。


 いくら破壊力のある攻撃とはいえ、大木に邪魔されて攻撃力を失うだろう、と考えてのことである。


「ふん、この斧が相当怖いと見える」


 秀満の対策はけして間違いではなかった。


 しかし、周倉はあっさりと斧を投げ捨てると拳の骨を鳴らした。


 秀満は過ちを心の中で嘆いた。真に警戒すべきは、抜群の破壊力を持つ斧ではなく、その斧を自在に操る腕力であったことを。


 力比べでは秀満に勝機はなく、その上周倉の斧を防ぐための手段が自身の刀撃を妨げる。


 次なる手を考えようとするが、周倉の矢継ぎ早の体技がそうはさせてくれない。


 とても話せるような状況ではなく、戦いを止めることなどできそうにもない。


 周倉の巨躯から繰り出される鋭い攻撃に、徐々に徐々に押され、追い詰められていく。


 そんな中でもなんとか反撃できるような場所を見つけると、誘導するようにそちらへと後ずさりした。


 渾身の突きを見舞おうと、人が一人通れそうな大木と大木の隙間に誘い込む。


 無論隙間を回避することまで想定し、左右中央どちらから来ても良いように間合いを取り周倉を待った。


 周倉は猪突猛進、狙い通りその隙間に突っ込んできた。


 そこに待ち構えていた秀満が水平に構えた刀を突き出す。だが周倉もそれを予測し咄嗟に身を伏せた。


 刀は身をかがめた周倉の肩をかするにとどまり、秀満は勢いづいた双手狩りのような体当たりを胴にくらった。


 激しい衝撃に、肺の中の空気が全て吐き出され、秀満の手から刀が放り出された。


 周倉はそのまま秀満を抱え込み、締め上げようとする。


 しかし勢いは止まらず、二人は組合ったまま、小山の斜面を転がり落ちていった。

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