だが、その全てを関羽は軽々と受け止めた。しかも反撃に移らず、悠々と馬を下りると再び待ちの姿勢を取る。
可成は受け止められた衝撃が重なり、徐々に自身の腕に痺れを感じてきた。それでも攻撃の手を休めず打ち続ける。
突き、払い、叩きつけ、どの手段も一向に関羽には届きそうにない。
(やはり軍神と呼ばれるだけある。力も技も到底適わぬ)
可成はそう悟り、残された力を振り絞って思い切り打ち据えた。
これも当然のように、関羽に弾かれ、遂に可成は両腕の力を失い、槍を落とした。
槍が地面に転がり、乾いた音が鳴り響く。
「とても勝てる相手ではないわい。参った参った。さあ首を落とすが良いぞ」
悔しさは勿論あるが、晴れ晴れとした潔い表情で可成は胡座をかき、座り込んだ。
「ふふ、信長の部下は皆、血の気が多い」
関羽は高らかに笑うと、偃月刀を背に隠すように持ち、
「失礼致した。弥平次と申すこの男を連れて参った」
と、礼儀を正し、可成に頭を下げた。
可成は関羽の言葉を聞き、耳を疑い、目はまん丸になるほど見開いた。
だが、周倉との戦いやその後の話しを詳しく聞かされ、ようやく理解し、納得し、何も聞かずに打ちかかっていった非を詫びた。
そして立ち上がり、
「では、奥方様のところへと案内いたす」
と、関羽に伝え、部隊に帰陣の指示を与えた。
可成は関羽と駒を並べ、その後方に劉備夫人と関平らの関羽隊が、さらにその後ろに可成の兵たちといった隊列で本陣へと戻っていった。
本陣に到着すると、可成が早馬を出したのだろう、濃が陣前にて出迎える。
「貴女が信長の奥方であるか。お初にお目にかかる関羽でござる」
「関羽殿の高き武名、よく存じあげております。立ち話もなんですので、どうぞこちらへ」
濃は陣内に関羽らを招き入れた。
秀満と周倉は未だ気を失っていたため、すぐ医療のための幕に運ばれた。
関羽は劉備夫人と関平を伴い、濃の幕を訪れ、信長や道三の話に花を咲かせていた。
「いやはや、関羽殿には二度も負けました。とても敵いませぬ。しかしその関羽殿と張飛殿は互角と聞き及びます」
「うむ、益徳の力は儂以上の天下無双であるが、まだまだ技が未熟であるな。可成殿の力量もなかなかのものでしたぞ」
「いやいや、儂なんぞ関羽殿を苦戦させることもできんかったからなぁ」
などと謙遜してみせる。そんな二人のやり取りを濃と甘夫人は微笑ましく眺めていた。
そんな一時を、外から聞こえてくる喧騒が打ち壊した。
「なにやら騒がしいが?」
関羽は訝しく思い、関平に見てこいと命じた。関平は立ち上がり、出て行ったかと思うとすぐに慌てて駆け戻ってきて、
「父上、周倉と三宅殿が」
と、外を指差す。
関羽と可成が急ぎ幕の外へと出ると、人だかりができており、その中心では周倉と秀満が取っ組み合いをしていた。