蘭丸が先導し、許都の城門を通り抜ける。
無機質さを強調する高い城壁の内側は、生活感に満ち溢れて活気づいていた。
威勢のいい声で客寄せする商人や、その商人との値段交渉を楽しむ婦人、道端を所狭しと駆け回る子どもたち。
また、宮殿に向かい歩き進むと工房の集合体のような場所があり、兵器から生活用品など幅広く製作しており、働く職人からは仕事にやりがいを感じ、楽しんでいる様が見受けられる。
それらの施設を通り過ぎると、見事な色彩と飾りで威光を放つ内門と、屈強な兵らが数名立ちはだかっており、猫の子一匹通さない万全の態勢を敷いていた。
一行が門前までたどり着くと、蘭丸は濃たちを待機させ、ひとり門兵のところまで走っていく。
いろいろと手続きが面倒なようだが、漢帝や高官らがいるのだから致し方ない。
待っている間、秀満はどうにも落ち着かないようで、腕を組みながらも人差し指がとんとんと動き続けていた。やけに時間が長く感じられる。やがて蘭丸が駆け戻ってきた。
「こちらです」
通行の許しが出て、再び蘭丸が先導し一行が動きだした。
だが秀満だけ浮かない顔で足が重そうであった。
「秀満殿?」
濃が気にかけていたのか秀満に声をかけて、車を停めるように指示をする。
「怖じ気づいたか?」
蘭丸が冷たい言葉を浴びせるのを可成が目で制止した。
「信長様に会うのはやはり怖い。恨んでいて即刻打ち首にされるやもしれませんし」
恥ずかしげもなく本音を漏らした。
「秀満殿。信長様はそのようなお方ではないですよ」
「しかし浅井殿、荒木殿、松永殿……信長様を裏切った者はことごとく滅しております」
「確かに。ですが、いずれも信長様は最初に許しを与えていたはずですよ」
それが事実であるのを秀満も知っている。
光秀に村重説得の指示も出ていて、秀満も相談を持ちかけられたりしていた。
それでも秀満は信長との対面を恐れた。
ただの謀叛や裏切りではなく、信長自身の命を奪っているのだ。荒木や松永の比ではない。
「秀満殿、覚悟はできての訪問ではなかったのですか?」
濃が声をかける。
秀満は目を閉じて濃の言葉を反芻した。
そしてゆっくりと目を開けると、
「無様な姿をお見せいたしました。もう大丈夫、さあ参りましょう」
と、人が変わったかのように凛とした態度になった。
濃は微笑を浮かべて頷くと、御車を降り、
「秀満殿、護衛頼みましたぞ」
と、秀満の傍まで歩いた。
蘭丸、秀満、濃、可成と並んで宮殿への門をくぐる。
煌びやかな装飾に包まれた宮殿がその姿を現すが、白く輝く階段が高くそびえ全容までは見えない。
そこへ至る道は細かな所まで掃き清められていて、塵ひとつ落ちていないようである。
道の脇には多種多様な樹木が大きな枝を広げ、鳥たちのさえずりが心地良い。