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第17話

 そんな一見乱世と思えないようなほのぼのとした景色を楽しみ階段までたどり着いた。


 近くでみるとまた高く長い階段である。花崗岩を磨いた階段で太陽が反射し眩しく輝いていた。


 秀満は濃の手を取り、その階段を上がっていく。


 自分たちの過ごした時代も長い石段や高い石段があって慣れているため容易に登れるかと思っていたが、そんなことはなく、皆汗だくで登っていった。


 ようやく最上段に着くと蘭丸以外はへとへとで座りこんだ。


 そこへ、


「あ、殿」


と、蘭丸がはしゃいだ声をあげる。


 足を崩して休んでいた濃らはすかさず体勢を変えて礼の姿勢をとった。


 石に響く足音が近づいてくる。


「ようやく到着したか、濃よ」


 信長は濃の前でしゃがみ込んで、濃の髪を撫でた。


 次に可成の前に向かい、


「怪我は癒えたか?」


と、問いただした。


「はっ」


「またおぬしの武勇が必要になる。頼むぞ」


 そう嬉しそうに声をかけた。


「お任せくだされ」


 可成は力強く答えた。


 続いて信長が秀満の前に立つ。


「おぬしは?……顔を上げよ」


 信長の声が暖かみを帯びたものから冷たいものに変わった。


 秀満は恐る恐る顔を上げて、信長の瞳を見つめる。


「ぬしは……左馬助さまのすけではないか」


「はっ、明智左馬助秀満にございます」


 信長の眉間に皺が寄る。切れ長の目がさらに細くなり、つり上がっていった。


 だがそれは一瞬のことで、突如大声を上げ笑いだした。


 周りはぽかんとした顔で信長を見る。


「信長様、秀満は道中よく護衛してくれましたぞ。おかげで何不自由なく旅を楽しめました」


 濃も楽しそうに笑いながら、信長に秀満の功績を告げた。


「であるか。秀満よ、礼を言うぞ。そしてよくぞ参った」


「はっ」


 秀満は再び頭を下げる。


 その秀満の前で信長は腰を下ろし、


「して、儂に仕官を求めるか?」


と、尋ねた。


「先の件を許していただけるならば」


 秀満は訳もわからず笑いを続ける信長に対し、冷や汗を流し、唾を飲み込んだ。


「良かろう」


 信長があまりにも簡単に言うので、秀満は、二の句が継げなくなった。


「だが、次の裏切りは、ぬしの命で償ってもらうことになるぞ」


 高笑いから一転し、殺気を帯びた声を放つ。


 秀満は恐怖で信長の顔を見ることすらできず、ひたすら平伏し続けていた。


(やはり信長公は信長公だ。この威圧感、殺気どれをとっても私の知る信長公となんら変わりはないではないか)


 秀満は内心思った。だがその殺気もまたあっさりと消え去り、


「ところで」


と、明るい声で話しかけてきた。


「ぬしがこの世に居るのであれば、日向も居るのであろう?」


 明るく楽しげな話し方、それなのに、その内容に秀満は心臓を鷲掴みされたかのように、一瞬呼吸が止まった。


「さ、さぁ……」


 声を絞り出すように惚けるのが精いっぱいの抵抗であった。


「居らんのか?」


「わかりませぬ。光秀様が亡くなったかどうかも定かではありませぬゆえ」


「ほう。日向は生きているかも知れぬ、と?儂亡き後のこと詳しく教えよ」

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