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第23話

 信長が見回す。信忠と蘭丸以外は皆こくりと頷く。


「信長様はなぜ許せるのです」


 蘭丸は信長と目が合うと詰問するように厳しい口調で尋ねた。


「蘭、我らは一度滅した身ぞ。与えられたこの生を楽しまずしてなんとする」


「ですが……」


「先の生の恨みごとなど忘れてしまえ」


 信長は怒りを現している蘭丸を見て楽しむかのように、笑って答えた。


 それでも反論しようとする蘭丸を手で制し、


「蘭よ、おぬしもそろそろ独り立ちせねばならぬ。良い機会だ、秀満の与力をせよ」


「なっ…!」


「反論は許さぬ。嫌ならば我が下を立ち去るが良い。儂が与える役目の意味をしかと考えよ」


 信長の目は本気であった。拒否すれば信長から本当に追放されることになるであろう。


 蘭は熱くなった頭を冷ますために、一度、場を辞した。


「さて、信忠。ずっと目を閉じて考えこんでいるが、おぬしの意見を聞かせよ」


 蘭丸が去るのを待ち、信忠へと視線を移す。


 信忠が静かに目を開い。


「私は秀満を、父上ほど寛容に許し、また信用するまでには至りませぬ」


「ほぅ。では仕官には反対か?」


 信長は、何を言うつもりか、と試すような眼差しを送る。


 だが問答はここで一旦途切れることとなった。蘭丸が慌てて駆け込んできたのだ。


「騒がしいぞ、蘭」


 信長が強くたしなめる。


「曹操殿がお見えになりました」


 蘭丸は信長に叱られたことなどまったく気にせず、曹操の来訪を告げた。


「曹操が?」


 今まで呼ばれて会談することはあっても、曹操自身から足を運ぶことはなかったのである。


 堂々と曹操が入室し、張遼と郭嘉が続く。


「揃っているようだな。信長、君に頼みたいことがあって参った」


「何かな?」


「うむ。まずこれを読んでくれ」


 曹操が一枚の書を信長に手渡す。


 信長はそれを黙読した。


「ふん、袁紹の小倅共が……愚かな」


「だが、こちらには都合が良い」


 曹操の表情にはうっすらと冷たい笑みが浮かんでいた。


「そこでだ。ここで奴らを一網打尽にし、河北を制圧しようと思うのだが……」


 曹操は幾分含みを持たせた言い方をし、言葉を中断した。


「ふん、我らにも北伐軍を出せと?これでは同盟軍とは名ばかりの使い捨ての駒であるな」


 信長が毒気含みの言葉を返す。双方ともに顔は笑っているが、見えない火花が飛び散っているようにも思える。


「父上」


 二人の間を割るように信忠が声をあげた。


「私にその任を。父上は汝南をお治めくだされ」


 信忠が信長の代理として北伐軍に加わると言う。信忠はさらに言葉を続けた。


「副将として秀満をお貸しくだされ。秀満はまだ得体が知れませぬ。信用に値するか我が目で見極めとうございます」


 信長は信忠の勇壮で頼もしい言葉を喜び聞き入れた。


「よかろう。秀満、異存はあるか?」


「いえ。異存ございませぬ」


 信長は当の秀満に確認を取ると、


「曹操よ、そういうことだが?」


と、問う。


「頼もしい跡取りよ。ならば我が子、曹丕も出陣させねばならぬな」



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