曹操はそう言うと、外へ向かって、
「
と声を張り上げた。
すると間もなく一人の、青年と呼ぶには早いが少年とも呼べない人物が入室してきた。
年の頃は十台後半か。幼さと逞しさを兼ねる容貌は曹操を若返らせたようであった。
色白で小柄ながらも覗き見える筋骨ははじけんばかり。父と同じ鷹のような鋭い視線は人々を畏怖させる。
「曹子桓と申します」
「子桓、此度の戦には信長殿の子、信忠が信長殿の名代として軍を率いると言う。ぬしにも一軍授けるゆえ、互いに切磋琢磨し一角の武将へと成長する糧とせよ」
曹操は激励したが、曹丕はそれを聞き流すようにふてぶてしく信忠へと歩み寄った。
「よろしく頼む」
信忠が右手を差し出す。
曹丕はその手をはねのける。
「倭人ごときがいかほどのものか。我が後塵を拝するがよかろう」
「そなたこそ一軍を率いるは初めてと聞く。勇猛なのは結構なことだが、我らの手を下手に患わせるなよ」
高慢な曹丕の挑発を、信忠は受け返し、逆に挑発した。
二人の間に不穏な空気が流れる。
「これも若さか。羨ましいのう」
道三が咄嗟に重い雰囲気を掻き消した。
「これはちょうど良い。蝮殿に信忠と曹丕を鍛え上げてもらうとするか。二人とも蝮殿から戦術を学ぶが良いぞ」
信長は思いつきをそのまま声にだした。
「相変わらず老人を大切に扱わぬ」
道三は不満を口にするが、それとは裏腹にいきいきとした顔つきで白髪混じりの顎髭をしごいた。
「このまま軍議に移ってよいか?」
曹操の問いに皆が頷く。曹操は郭嘉に説明するよう促し、自身も聞き手に回った。
郭嘉は一歩前へ進むと、背筋を伸ばし、軽く一回咳払いをして状況を語りだした。
「華北では袁紹が後継をうやむやのまま没し、そのため長子袁譚と末子袁尚が骨肉の争いを繰り広げているのはご存知のことと思います。初めは均衡していたこの争いも、次子の袁煕が袁尚に肩入れしたことで崩れていきました。袁尚は更に身元の明らかではない武将らを登用し、その勢力は袁譚をはるかに超えるほどとなりました」
郭嘉は間断なく話し続ける。
「勝機を失った袁譚は配下の入れ知恵で、仇敵である我らに恭順すると書をよこしました。それが今信長殿が手にしているものです」
郭嘉は話を止め、周りの反応を見たあと、曹操に目で問い掛けた。
曹操は黙って首を縦に振る。
「おそらく、いや確実に彼らには恭順の意志などなく、単に袁尚憎しのみでしょう。袁尚を滅ぼした後に我らを討つ算段であるのでしょうが、我らはそれを逆手にとり、袁家を一気に滅ぼす所存」
郭嘉は再度周囲の反応を窺った。癖なのであろう、一気呵成に喋り、一息つける際のついでに疑問などを受け付ける、そういった話し方である。
皆が口を開かないのを確認すると、また話し出した。
「まずは袁譚の恭順を受け入れるふりをし、袁煕、尚の兄弟を討ちます。追い詰められた彼らは袁家の威光を笠に異民をも動員し、許都を突くことも考えられますので、