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第25話

 郭嘉の話す戦略に一同異議を唱えることはなかった。


 曹操はそれを受けて、北伐軍を袁譚の居城である南皮に集結させるよう指示を出した。




「父上の名を汚さぬよう、戦果を挙げて参ります」


 意気込み、出陣する信忠らを信長は見送りに出ていた。


「うむ。良いか、儂を真似るな。配下を頼るは恥ではないぞ。戦術は道三に、戦闘は秀満に教えを請え」


 信長の言葉を噛み締め、信忠が軍を指揮しだす。


「蘭、おぬしも同様だ。可成に負けぬ将となり戻って参れ」


 さらに信長は蘭丸を激励した。蘭丸は感涙し、それを感じ取られないようにこっそりと拭うと、


「必ずや」


と、若者らしいはきはきとした返答をした。



 やがて信忠軍が地平線の先へと消えて行く。信長は傍らに立つ可成に万が一のための後詰めとして兵を預け、許昌に待機させた。


 そして信長らもわずかな兵を率いて、ようやく汝南へと向かった。


 汝南への道のりは、途中まで道路も整備されており、なんら障害にも出会わず滞りなく進めた。


 豫州へ入り、汝南が近くなると、農村は活気なく人々が痩せ衰えている様が見受けられた。


 荊州と許昌の中間であり、そのような重要な拠点でありながらも賊が跋扈する地域である。


 先の官渡戦の折も、劉備と結託した元黄巾賊で曹操に降っていた劉辟や龔都きょうとといった輩が、後方撹乱の役割を担い、周辺一帯を荒らしまわっていた。


 それからもこの地には手が回らずに人心ともに荒れ果てていた状況であった。


 さすがの信長もこれには頭を抱えた。これだけ首都近郊にありながら、さながら全く未開の地を切り開くようなものである。


「貞勝、如何したものか」


 信長は配下の中では特に内政に秀でている村井貞勝に問い質した。


「まずは近辺の情報を得ましょう。賊徒を討伐して治安を回復するが先決ではないでしょうか」


「ふむ。賊の中には腕の立つ者やら食うに困っている者もおろう。将兵の登用も兼ねて、まずは貞勝の案に乗るか」


 信長はすぐさま半兵衛に命じ、方々へと物見を放った。



 所変わって。


 西涼では馬騰も頭を抱えていた。


 その悩みの種は袁尚麾下の将、郭援かくえんの使者であった。


 并州刺史で袁尚の親戚にあたる高幹こうかんの書状を携えてきたのである。


 内容は袁紹の仇であり、帝を傀儡とする曹操を共に討とうというものであった。


 官渡戦の前、劉備が曹操に反旗を翻した頃、劉備と馬騰は反曹操の盟友となっていた。


 つまり曹操は馬騰にとっても不倶戴天の敵なのは確かなのだ。


 馬騰は当初、この内容は自身の胸の内と同じ、と快諾を決めていたのだが、折り悪く曹操からも使者が到着した。


 曹操の書状には、天子に刃向かう逆賊袁家を滅ぼすために力を貸して欲しいと書かれてあり、漢帝の印も押されてある。


 いわば、漢からの公式文書で、漢から官職を貰っている馬騰がこれに背けば、それは馬騰が漢帝を裏切ったということになる。


「父上、曹操が逆賊であるのは間違いないことなのでは?」


 悩める馬騰の背中を押そうという若き武者。金や銀の刺繍を施した白地の絹織物を着こなし、すらっとした背の高い青年。


 瞳には淡い青色の炎を灯し、肌は日に焼けた褐色。


馬騰の長子馬超ばちょう、字は孟起もうきである。


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