途中、いくつかの城や砦の近くを通り過ぎたのだが、元々は同じ袁家。
信忠には誰が袁譚派で、誰が袁尚派なのか全く判断がつかない。
曹操の軍旗も掲げているし、それで襲撃がないのだから袁譚派なのかも知れないが自信はない。
それは秀満も蘭丸も同様であった。
「信忠殿、そんなに張り詰めていると疲れますぞ」
緊張感が露わの信忠に、おどけた感じで道三が語りかけた。
信忠が頷く。
「しかし、こうも敵味方が判別できないのも困りもんですな」
秀満が苦笑いする。
「なぁに、案ずることはない。密偵は周囲に放っておる」
道三が不安をかき消すように笑い飛ばす。
実際に道三は全方位に物見を出し、軍勢を発見したら報告するように指示を出していた。
「蘭殿も気負いなさるな」
道三が柔らかに諭す。この信忠軍にて一番の心配事は蘭丸と秀満の確執であった。
確執とは言っても蘭丸が一方的に秀満を嫌っているだけではあるが、如何せん自身を殺した相手側の人物である、そうそう簡単には気持ちの整理がつかない。
案の定蘭丸の返答も素っ気ない。
こんな時は敵の軍勢と戦うことで連帯感を高めるのが有用なのだが、と道三が内心思っていると、ちょうど物見から軍勢発見の報告があった。
「信忠殿、近くに軍がおるそうじゃ」
道三がすぐに伝える。
「うむ、一旦行軍を停止し、円陣を組め。向こうの動きに合わせ、陣形を変えるぞ」
信忠が下知を下すと、信忠を中心とした円陣が素早く組まれ、軍は緊張感を増す。
「軍勢確認、あれは……織田木瓜を掲げてますぞ」
秀満が叫ぶ。
「なんと。我らの他にいるのか?」
信忠が驚いて秀満の下へと駆け寄る。
確かに織田家の軍旗が掲げてある。
「蘭丸殿、使者に向かってもらえぬか?」
信忠が遠慮がちに蘭丸に尋ねる。
「はっ」
蘭丸は指示をうけると、
「信忠様。私のことは一部将として扱い下され」
と、変に気にかけている信忠に一言声をかけた。
蘭丸が軍旗を掲げて近づく。
「そこの織田木瓜を掲げる軍の大将は何者か。我は織田家部将森蘭丸である」
蘭丸は近づき名乗りを挙げた。
「何?蘭丸殿だと?」
それを聞いた大将が前へと出てくる。
「貴殿は……
蘭丸は大将の顔を見て驚いた。なぜここにいるのかが理解できない。
「本当に蘭丸殿か?」
信澄も驚いている。
信勝が信長に殺された後に、二人の実母である
逸材であったらしく、信長の息子と変わらぬ寵愛を受け、様々な戦で武名を挙げていた。
本能寺の変時に際しては、光秀の娘を娶っていたため、織田信孝らに謀叛を疑われて殺害されていた。
信澄はそれを蘭丸に話すと、蘭丸も納得した。
「なるほど。信澄殿も亡くなっていたとは」
「しかし、蘭丸殿に会えるとは思わなんだ。もしや信長様も?」
「はい。信長様、信忠様他には憎き明智秀満も」