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第3話

 龐徳はなんとか押しとどめようと説得するが、馬超は止まらない。


 龐徳も諦め、自身の最後の戦になるやもしれぬ、と覚悟を決めた。


 馬超は全兵力を動員すると、


「なんとしても太原の高幹を討ち破る。この戦で手柄を挙げ、故郷に錦を飾れ」


と、鼓舞し、自ら先頭に立ち高幹軍へと突撃していった。


 背水の陣のごとき馬超軍は強く、高幹の兵を散々に破り、行く手を阻む者なしの勢いで太原城まで突き進んでいった。



守就もりなり、もうすぐそこまで馬超が来ているぞ」


 城主高幹は強気を装っているのが見え見えであった。


「呼厨泉殿にはすでに連絡済みじゃ。直に馬超軍は挟まれるゆえ、怖じ気ず防戦しなされ」


 守就と呼ばれた男が高幹を見下したようににやけた顔で督戦を促す。


 憎たらしい奴めと、高幹は内心蔑んでいるが、守就の示す策が外れないため、家臣の中でも心酔する者は少なくない。


 守就になんらかの処分を下すことは、自軍の瓦解にも繋がり兼ねないほどの影響力を持つようになってしまったのである。


 守就は信長に帰参してからは信長直属として、各地に転戦し戦歴を重ねた人物である。


 そんな守就からすれば、叔父袁紹の統治下でぬくぬくと育ち、州刺史に任命された高幹をたぶらかすなど赤子の手をひねるくらいに容易いことであり、いずれはその地位を奪おうとする野心を持っていた。


 学の浅い呼厨泉ら匈奴の信頼も簡単に手入れ、また今対峙している豪傑馬超率いる西涼軍の単調な戦術は経験豊富な老将のかっこうの餌食であった。


「あの馬超を破ったとなれば我が名も天下に轟こう」


 守就は眼下に押し寄せる西涼軍を見渡し呟いた。


 高幹は玉座でひたすら守れ、退けよとわめき散らすのみである。


 やがて西涼軍の後方に濛々とした土煙が立ち上る。


「赤の旗を振れ」


 守就は直後に控える兵に指示を与えた。すると兵が巨大な赤地の旗を振り始めた。同時に土煙が左右に広がりを見せる。


 波打つかのような地鳴りが響き、西涼軍は後方の大騎馬軍団に目を見張った。


「次は黒だ」


 守就の指示通り黒い旗が振られる。


 匈奴騎馬軍は怒涛の進軍を緩め、何かを計るかのようにじりじりと間合いを狭めてくる。


 その威圧感に西涼兵が戦意を喪失させていき、馬超や龐徳の叱咤激励も意味をなさない。


「旗振り止めぃ」


 兵が黒旗を振り止めると、騎馬軍団はぴたりと停まった。城の守兵は一斉に弓を持ち、矢をつがえる。



「よし、黒を上下させよ」


 ひと呼吸置いて守就が叫ぶ。


 矢の雨が城内から放たれ、さらに匈奴の騎馬軍が後方左右から長蛇の陣で騎射を仕掛ける。


 この攻撃で西涼軍は数百という規模の兵を死なせ、またその倍以上の兵を傷つけた。


 馬超や龐徳も全ては避け切れず、足や肩に矢傷を負うほどの激しい攻撃である。


「馬超殿、このままでは壊滅だ。南側の軍を抜き撤退を!」


 龐徳の決死の呼び掛けに馬超も意地を貫き通すことはできず、退却の号令を出した。


「くくく。思い通りに動きすぎじゃ」


 守就は笑いが止まらない。すかさず赤の旗を振らせると、匈奴軍は南に厚く集合しだし、残りの兵は逃げる西涼軍の後ろを追う。


「私が突破口を開きます」


 龐徳が先頭に立ち、得意の槍術で匈奴軍を切り開いていく。


 だが守就はさらに城内の兵を追撃部隊として出陣させた。

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