「なるほど、そういうことですかい!」
事細かに説明し、ようやく納得させることができ、改めて信盛に感心したようだ。
「直元殿に使者はだしたな?では、奴らをうまい具合に引き寄せて参れ」
指示を与えると、幹部らは卑猥な顔つきで部下のたむろしているあばら家へと向かっていった。
しばらくすると、賊らの大歓声が聞こえてきた。
「奴ら本当にわかっているのだろうな」
信盛はどうしようもない不安を覚えた。
「やはり儂が指揮した方が良いか……」
信盛は立ち上がると、立てかけてある刀を取り、出陣に喜び勇む部下の下へと赴いた。
「お頭も行くんですかい!」
「うむ、やはりお前らだけでは心配でな」
信盛の不満げな顔に、幹部は頭を掻き、下品に笑った。
信盛を大将に装備もまばらな賊軍が出陣する。だが元々が統制や体制を嫌う者たちである。
規律の取れた進軍などできるはずもなく、信盛の護衛に十人ほど固まっているだけで、他は四散して行軍している。
だがその分索敵能力は高く、半兵衛の部隊はすぐに発見された。
「お頭、官軍見つけましたぜ」
「そうか、儂の合図があるまで仕掛けるなよ」
信盛はきつめに注意した。合戦は統制の取れない方が負ける。勇み足や独断での攻撃を信盛は一切許さなかった。
そこは賊徒らも素直に従っていて、未だに違反した者はいない。
信盛の出す指示に従ってさえいれば勝てる、つまりは生活できるということを賊徒らが気づいていたからである。
その勝つことへの意欲は官軍以上で、いざ合戦となると凄まじい力と統制を発揮する。
それが信盛率いる賊軍であった。
「それから官軍の特徴をなんでも良い、教えよ」
部下らをまとめようと、信盛の指示を伝えるべく幹部が後ろを振り向いた時に新たな命令が下った。
一方、信長は先陣を李通に託しておきながら、自身も先頭に立ち険しい道のりを進んでいた。
「李通よ、そろそろ口を開いてくれぬか。飽きてきたぞ」
相変わらず李通はしゃべらないらしく、信長は不満を口にしたが、顔はにこやかだった。
李通はまるで何も聞こえないかのような態度で、ただ馬を走らせていた。
それでも信長はへこたれずに、あれやこれやと話しかけた。
「……作戦中です」
あまりの煩わしさに李通の忍耐も切れ、ついに言葉を発した。
「まだ敵の姿が見えん。そんな堅いこと言わずに少し付き合え」
「……すでに賊の勢力圏内、いつ現れてもおかしくないですぞ」
「たかが賊であろう?」
「……侮れませぬ」
「ほう、おぬしからそんな言葉を聞くとは……」
李通も一廉の武将である。その彼が侮れないという賊に信長は好奇心を掻き立てられた。
「面白い」
信長は一言呟くと馬を飛ばし、単身でどんどん先に進んでいった。
「……!?」
そんな信長の行動に李通は驚き、急いで追おうとしたが、兵たちを指揮する者がいなくなるため、追うに追えない。
「……急ぐぞ」
すぐ横を併走する兵に伝え、せめて軍の速度が上がるようにと、信長の後を追った。
単独で走る信長を賊軍が捕捉した。軍馬も縦列でなければ走れない隘路、この道を見張っていれば西からの動きがわかる。
「おい、直元様に報告だ」