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第11話

 張遼は昌景が近づいてくると、槍を合わせては気づかれない程度に退いていく。


 徐々にだが、昌景隊は城から遠ざかっていく。


 昌景も城から離されていく事に気づいてはいたが、つかず離れずの張遼の軍略に嵌り、前進せざるを得ない状況に陥っていた。


 城内から戦況を眺めていた信春がにわかに動き出した。曹軍の別動隊が昌景隊の背後を窺うように動いているが見えたためだ。


 昌景から張遼隊に手を出すなと固く止められていたが、いくら昌景でも挟撃されては危うい。


 信春は留守を蹋頓に任せ、自隊を率いて別動隊を攻撃すべく城を出た。


「容易いものだ」


 また違う別動隊を率いて息を潜めていた郭嘉が、信春の出撃をやり過ごして隠れ見ていた。


 策により昌景と信春を城から離すことに成功し、次の策へと移行する。


 郭嘉は信春隊がだいぶ離れたのを確認すると、兵らに命じ柳城前に陣取り、兵力の薄くなった城に総攻撃を仕掛けた。


 とはいえ、張遼軍も三隊に分けての策のために各隊の兵力は少ない。


 そのため、城を包囲することはできずに、西門正面からの無謀な攻撃となった。しかしこれも郭嘉の予定通りであった。


「それしきの兵力で城を落とせると思うたか」


 守将の蹋頓は相手の兵力の少なさと無茶な城攻めをする郭嘉隊を軽んじ、西門に弓主体の兵力を集めた。


 さらに蹋頓は遊撃隊を組織し、城外の敵を急襲すべく送り出す。


 そんな柳城の東門に一軍が迫る。


 報告はすぐに蹋頓にもたらされるが、東からの軍勢、武田軍のような武具を備えることから深く考えることなく援軍の先陣が到着したものと思い、城内へと導き入れてしまった。


「郭嘉殿の策が嵌ったな」


 この軍勢は信忠軍であった。


 なんなく城内に入れた信忠らはあっさりと蹋頓を捕縛拘束して城兵を降らせた。


 城に曹旗と織田旗が翻ると、郭嘉隊を攻撃していた遊撃隊も戦意を失い武器を捨てる。郭嘉は遊撃隊の数名を解放し、山県隊と馬場隊に落城の報告に向かわせた。


 更に信忠軍を城外に配し、敵部隊の逆襲に備えさせる。


 落城の知らせを受けた信春は昌景に合流すべく道を切り開いた。


 別働隊隊長の張汎ちょうはんは兼ねてからの取り決め通り、信春の部隊の様子が変わると邪魔立てをせずすんなりと通すと、軍勢を立て直しその背後から追撃した。


「昌景、城が落ちた。撤退いたそう」


「今聞いた所だ。しかしこのまま撤退したとあらば御屋形様に合わす顔がない」


「致し方あるまい。勝敗は兵家の常じゃ」


 渋る昌景を信春が懸命に説得する。


 やがて後方から張汎の軍が押し寄せてきた。


「おのれ張遼! この屈辱は忘れんぞ」


 挟撃されてはいかに万夫不当の二人とて窮地である。二人は張汎隊を突き破り本隊へ合流することを選んだ。


 勢いづく張汎隊を信春が容易く蹴散らし突き抜ける。それに昌景も続く。


 途中敵将張汎が襲いかかってきたが、昌景はこれを少しでも雪辱を果たす好機と突き掛かった。


 張汎は咄嗟に馬のたてがみに身を伏せたが、槍は馬の右目を貫く。馬は張汎を乗せたまま横転し、張汎の兵らは将を救わんと追撃をやめた。


 後続を断った二人は柳城を脇目にそのまま信玄の率いる本隊まで退いていった。

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