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第19話

 柳城の戦いは、明智光忠隊の全滅と張汎の撤退で決着がついた。


 だが郭嘉が目論んだ時間稼ぎは充分に満たされ、堅牢な陣を作り上げることを成した。


 武田方は柳城を奪回こそしたものの、火計の影響により、この城は城塞としての機能を完全に失ってしまった。


 修復するにしても、烏丸兵の建築技術は中原の兵と比べてかなり劣るため時間の見通しが立たない。


 信玄はそれならばと、城を破棄し、野外に陣を張ることを決意した。野外の陣営建築ならば烏丸が勝る。


 それと同時に遼東へ援軍と兵糧輸送を命じる使者を派遣した。


 曹操と織田連合軍の強さを身を持って感じ、また長期に渡る対陣を想定してのことであった。


 両軍互いに牽制や小競り合いはあったものの、大きな会戦までには至らないでいた。


 だが緊迫した戦況化での、上辺だけの平穏な時間は当然長くは続かない。


 信玄の下に一条信龍が戻り、また多くの物見兵からの曹操本隊到着の知らせが届いたのである。


 遼東からの武田と烏桓の援軍は城を発ったがまだ到着していない。


 信玄は物見の数を増やし、曹操軍の動きを逐一報告せよと命じ、また援軍に催促の使者を送った。


 武将らには、兵数の優位に立つ曹操が、短期決戦を仕掛けてくるであろうと警戒し、援軍到着まで守りを固めることを指示した。






 曹操本隊の到着に沸き返る張遼隊とは裏腹に、信忠隊は静まり返っていた。


 簡易ではあるが光忠の葬儀を行い、返還された光忠の遺体は信長のいる汝南へと移送された。


 特に義兄弟である秀満の落ち込みようは激しく、信忠も気を遣い軍務等を免除し喪に服させているくらいである。


 そんな中、曹操が郭嘉を伴い弔問にやってきた。


 曹操は光忠の勇敢な戦死を称え、北伐終了後に官位を与えると誓い、郭嘉は何も語らず口をへの字に結び正面を見据えるのみ。


 信忠軍の中には郭嘉の策に対し、陰口をたたくものや、あからさまな嫌味を言う者もいたが、郭嘉は涼しい顔で堪え忍んだ。


 帰り際、曹操から軍議の知らせを聞かされ、信忠は道三と曹操の幕へ向かう。


「地の利が武田信玄とやらにある以上、短期決戦を仕掛けるが良いと思うのだが」


 将を集めた曹操が対武田の方針を提案する。張遼と郭嘉は同意したが、信忠は即答できないでいた。


「信忠、君は反対か?」


 悩む信忠に曹操が問う。


「長丁場を想定し、援軍と物資の要請を行うが良いのでは、と考えております」


「ほう。それは何ゆえか?」


「武田は当主信玄の他に山県、馬場、高坂といった選りすぐりの布陣。そう簡単に勝てるとは思えません」


「ふむ。張遼や郭嘉からも先の戦の様子を聞いたが……興味深いな」


 曹操の目が輝き、にんまりした笑みを浮かべる。


 優秀な人材に目がない曹操にしてみれば、気になって仕方ないのだろう。


「援軍の要請はしておこう。郭嘉、許昌に使者を出しておけ。青州の臧覇にもだ」


 曹操の命で郭嘉が立ち上がり退室した。


「信忠、長滞陣はやはり我らに不利である。此度の決戦に付き合ってくれい」


 曹操はそう告げると、軍の編成をし、出陣の指令を出した。

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