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第31話

 ほどなくして曹操軍と武田軍の一時休戦が成立する。


 協議の結果、期間は三日間と定められ、両軍の各将は負傷兵の収容を開始しだした。


 怪我を負っていない者たちも疲れを癒やすべく、各々休息して過ごしている。


 信忠隊はその間も築陣に従事し、堅陣を完成させた。


 武田方ではこの陣の完成を快く思うはずもなく、苦々しく見ているだけであった。


 そんな武田にも朗報が訪れる。あと一日の行程で、内藤昌豊率いる援軍が到着するとのことである。


 しかも、その援軍の陣中には、烏丸の他部族や異民族の懐柔に当たっていた鬼才・真田幸隆さなだゆきたかも同行しており、武田軍の士気は否応なく盛り上がった。


 次は曹操側が苦々しく思う番である。現状の武田軍にさえ押されているのに、さらに増員されるという。


 信忠らからの情報によれば、内藤昌豊は山県昌景・高坂昌信・馬場信春と並び称される名将であり、真田幸隆は郭嘉に匹敵する知謀の将であるとのこと。


 これには歴戦の強者の張遼でさえ嘆息するほどであった。


 曹操ですら、ただでさえ白い肌が血の気を失い真っ白になるほどの様で、郭嘉には至っては勝機を失ったと憤慨していた。


 長時間軍議が続いたが、なんの策も見いだせず休戦期間が終わる。


 翌早朝、まず武田軍が布陣した。


 昌景を先陣中央に据え、その両脇を信綱、昌輝の真田兄弟が各一隊を率いて固める。


 その後方中央には信玄が本陣を置き、左に昌信、右に信春を置き、武田軍全体で大きな方陣を作り上げた。


 一方曹操は、張遼と曹純を先陣に配した。その後方に信忠が築いた陣。そこには史渙と韓浩に弓隊を多数配備して入らせる。


 その左右に信忠率いる織田軍、陣の後ろに曹操本隊を置いた。


 戦いの火蓋は真田兄弟が開いた。信綱と昌輝の率いる騎馬隊が張遼、曹純隊に迫る。


 その騎馬隊に向け、史渙と韓浩が矢を射掛ける。


 矢の射程から外れて進軍することにより、真田兄弟は望まないながらも中央に集まることになった。


 合流した縦長の騎馬隊が強襲する。張遼と曹純の騎馬隊がこれを迎え討つ。


 両者は激しく衝突し合い、戦場は一気に混沌と化した。


「その大刀。おぬしが許褚殿と互角に力比べした者か」


「いかにも。真田信綱の名、しかと刻み込んでおけ」


 張遼が信綱を見つけ声をかける。


 信綱は大刀を振り上げ張遼に向かっていった。


 その初太刀を張遼は余裕でかわし、逆に偃月刀で斬りつけた。


 だがこの張遼の攻撃は昌輝によって防がれる。


「真田昌輝推参!」


「貴殿か。一騎打ちの最中救われた不名誉の将は」


 張遼のこの一言に昌輝も思うところがあったのだろう、恥を誤魔化すように怒り狂い、むちゃくちゃに槍を振り回しだす。


 昌輝の槍は敵味方問わず打ち据え、切り裂く。


「これしきで心が乱れるか、青いな」


 張遼が更に煽動する。


「こちらにもいるのを忘れては困るな」


 張遼の死角から信綱が攻撃を繰り出す。だがその攻撃が完遂することはなかった。


 曹純が馬ごと体当たりしたため、途中で軌道が変わってしまったのである。


「ちっ!邪魔な!」


 信綱は振り向いて、曹純を睨みつけた。

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